ツアーの開催とパーティーの準備 ③
俺のことをぎろりと睨んでいるダミニッテさん。
ネノとの会話を邪魔するなとでも思われているのかもしれないが、ネノからしてみればダミニッテさんの方が邪魔者だと思う。ネノの機嫌がまた悪くなった。
「俺とネノは幼なじみです。ネノが『勇者』になる前に結婚しています。それで宿経営に関しては俺とネノがやってみたいと思ってやっていることにすぎません。ネノは手伝いを要らないといっています。理解できますか? 出来たらネノのことをこれ以上不機嫌にさせないでください」
ひとまず簡潔にそれだけを告げる。
「また、そんな嘘を! あなたなんて『勇者』様が目的の為に偽装結婚をしている相手でしかないのに!」
「嘘じゃないです。それで、なんで偽装結婚と決めつけてるんですか?」
「だって『勇者』様は特別な方ですもの。『魔王』をたった半年で倒された歴代最強の『勇者』ですよ。『勇者』様が結婚すべきなのは特別な方であって、ただの平民が相手なんてありえません!!」
ネノに対して驚くほどに理想を抱いているらしい。
『勇者』とはこうあるべき。『勇者』であるからこそ平民とは結婚しない。
歴代の『勇者』も今のネノみたいに、理想を押し付けられて苦労してきたのだろうか?
華やかな出来事だけが残され、今に伝えられているだろうけれどこれまでの『勇者』も色々あったのだろうなとは思う。
「それ、あなたが決めること違う。私のレオを馬鹿にするの許せない。私はレオのこと、大好き。レオ以外のお嫁さん、ならない。私、あなた嫌い。今すぐ、出ていって」
ネノが淡々と告げた言葉に、ダミニッテさんはショックを受けた顔をしている。自分の伴侶に対して失礼な態度をした相手をよく思うわけがないというのが当たり前なのだけど。
そもそも彼女が思っている通りに俺とネノが偽装結婚だったとしても、それを選んだのはネノであるということを分かっていないのだろうか。ネノは自分の意に沿わないことをそのまま受け入れるような存在ではない。ネノのことをあまり知らない人からすると、ネノは自我がそこまでないように見えるのだろうか……。ネノがそういうことを受け入れるように思っているのかもしれない。
「『勇者』様……どうしてそんなことを!」
「私のレオに酷いこと、言うから。それに、話聞かない。私、目的なんてない。レオと楽しく過ごす。それだけ。それを否定する人、お客さんとして受け入れない。理由それだけ。早く、出てく」
ネノが彼女を睨みつければ、ネノの本気が分かったのか彼女は一気に青ざめだす。……ネノを怒らせたくないのならば、最初からネノの話を聞けばいいのになぁ。
「も、申し訳ございません。『勇者』様!!」
「謝る相手違う。私じゃない」
「……『勇者』様の旦那さん、申し訳ありません」
「不満そうな顔。分かってない? なら、出てって」
ネノに怒られたから謝っているだけというのが、ネノには分かったのだろう。ネノは相変わらず不機嫌そうなままである。
「も、申し訳ございません!」
「ん。レオは最高。復唱」
「え」
「復唱」
「え、レ、レオは」
「あ、レオ呼び駄目。レオはレオニード」
「レ、レオニードは最高?」
「ん。レオは最高。私の、大好きな旦那様。分かった?」
「は、はい。ええっと、『勇者』様は偽装結婚ではない……? へ、平民の方と?」
「平民とか関係ない。レオはレオ。レオだから、結婚した。私の夫、レオだけ」
「そ、そうなんですか……。『勇者』様の夫が……平民」
「何、文句あるの? 去る?」
「い、いえ、び、びっくりしてしまって! すみません!! 私はその、街で『勇者』様が偉業を成すためにダンジョン内で宿をやっていると聞いたものですから……。それで、勘違いしました!」
「噂、信じすぎだめ。自分が見たもの、大事」
「そ、そうですね。本当に申し訳ございません!!」
「ん。分かればいい。次にレオに酷いこと言ったら、話も聞かない。追い出す」
ダミニッテさんはネノからそこまで言われてようやく事実を受け入れたようだ。それにしてもネノが俺だから結婚したって言ってくれているのは嬉しい。
それにしてもあれか……。この前の自分たちを雇えと言い張っていた連中が噂を流しているせいもあるのか。ネノが何かしらの偉業を成すためにダンジョンで宿を経営しているから、そのために人手を集めているとか思ってそうだったからなぁ……。
「は、はい! えっと、『勇者』様、お、お手伝いをするのはやっぱりだめですか?」
「ん。要らない。私とレオの愛の巣。他はいれない」
「そ、そうですか……。お、お二人だけでダンジョンで宿をやっていて問題ないのですか?」
「メルもいる。三人。レオもメルも強い。ダンジョンで宿やるの、問題なし」
ネノの言葉にダミニッテさんは信じられないような顔をする。
「話、それだけ。私はこれからご飯食べる」
「は、はい」
ネノとダミニッテさんの会話はそこで終わった。
そして俺たちはようやく食事を摂ることになるのだった。