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ツアーの開催とパーティーの準備 ②

「誰?」

 ネノは不機嫌そうにその冒険者を一瞥して言った。

 その女性の冒険者はまるでネノと旧知の仲であるかのように、ネノに勢いよく話しかけていた。しかしネノからしてみれば名前や顔を覚える必要がないほど関心がなかったのだろう。ネノは『勇者』であり、あれだけ可愛い。だからとても目立つ。ネノの名前は皆、すぐに覚えるだろう。それとは逆にネノは他人のことをそんなに覚えていないものだ。

「……『勇者』様、私のことを覚えていないのですか?? 一緒に遺跡で冒険したじゃないですか!!」

「知らない。それより、どいて」

 半年の『勇者』生活。それはネノにとってそこまで記憶に残らないものだったのだろう。

 『勇者』として過ごした半年間で、ネノは様々なと人と出会ったであろうが名前を覚えるほど親しくなったものはいなかったのだと思う。

 ネノは不機嫌なまま冒険者をどかすと、俺のほうへ歩いてくる。

「レオ、ただいま」

「ネノ、おかえり」

 俺が笑いかけると、ネノがようやく小さく笑った。

「お目当てのものは手に入ったのか?」

「うん。ほら、これ。綺麗でしょ?」

 ネノがそう言いながら見せてきたのは、赤色の結晶である。

「綺麗だな。これ、どうするんだ?」

「折角のお土産。加工する。ダンジョン産の記念品」

 ネノの言葉に俺はその結晶をまじまじと見る。ダンジョン内でしか取れない特別なもの。それをネノが手ずから加工して記念品として持たせるというのだから参加者は喜ぶと思う。

「うん、いいと思う。きっとお客さん喜んでくれる」

 俺がそう言ったら、ネノが小さく笑う。

 本当に俺のネノはいつでも可愛いなぁと俺も笑みをこぼしてしまう。

 俺もネノに負けないようにツアー客のおもてなしの準備を進めないと。ネノと二人でやっているこの宿の評判が上がって、それでいてツアー客たちが楽しんでくれるツアーになればそれでいいと思う。

「ネノ、ご飯準備しているから食べようか」

「ん」

 俺とネノもまだご飯を食べていないので、取り分けていた分を二人で食べることにする。

 そうやって話していたら、

「『勇者』様!!」

 ネノに欠片も覚えられていなくてショックを受け、固まっていた女性の冒険者がようやく動き出した。

 なんだか必死そうな声である。ネノと話していた俺に対しては全く関心がないと言った様子があからさますぎて逆に感心する。

「何」

「わ、私のことを本当に覚えていないのですか? 隣国の遺跡で共にゴーレムを倒したではありませんか! 私は『勇者』様に庇っていただき、「大丈夫?」と声をかけていただき感服したのです」

「ん? 覚えてない。『勇者』やっていた時、冒険者、沢山会った」

 ネノにとってみれば、『勇者』をやっていた時に沢山の冒険者と知り合ったのだろう。その中の一人でしかないのなら覚えていなくても仕方がない。

「わ、私はダミニッテです!! 『鉄壁のダミニッテ』と呼ばれているのですよ。ご存じですよね?」

「知らない。どうでもいい。それで、何?」

 有名な冒険者に関しては、通り名のようなものがつけられる者らしい。この宿に泊まりにくる客の中にもそういう冒険者の中でも有名な人と言うのはいる。とはいえ、ネノにとってみれば有名な冒険者であろうがなかろうが客であるという以外にどうも思っていない。

 冒険者間ではその名は有名なのかもしれないけれど、俺とネノは冒険者というわけではない。よっぽど有名人なら俺たちも名ぐらい聞いたことはあるのかもしれないが、残念ながら俺も目の前の女性冒険者の事は知らなかった。

「……そうですか。『勇者』様は私のことを覚えていてくださっていないのですね」

「うん。それで?」

「私は『勇者』様の強さに感服を受けました。『勇者』様のことを目標にしています。『勇者』をやめた後も『勇者』様は英雄としてこの世界に名を刻むのだとそう思っています。そんな『勇者』様が冒険者の街で宿をやっているというのは何かしらの崇高な目的があるためと思い、駆けつけました。ぜひ、私に『勇者』様のお手伝いをさせてください!!」

 勢いよく語るダミニッテさん。

 ……ネノがめんどくさそうなものを見る目で見ている。が、彼女はその視線の意味に気づいていないらしい。

 ネノの表情は分かりにくいから、そんな風に思われているなんて彼女は思っていないのだと思う。

「目的ない。お手伝いもいらない」

「私が『勇者』様の目的を教えていただけるほどの価値を示せていないからですね! どうかおそばで『勇者』様の信頼を勝ち取らせてください」

「要らない。あなたのいう、崇高な目的ない。楽しいからだけ」

「『勇者』様……他人に迷惑をかけまいとそう言っているのですね。私は『勇者』様が目的のためにこんなところで宿を経営し、そのために偽装結婚をしているのだと知っています! 私には本当のことを言ってくださっていいのですよ」

「全くもって違う」

 ネノへの崇拝の気持ちから大変暴走しているようである。というか、ネノが怒っているの分からないのかな……。

「ちょっと割り込ませてもらいますね」

 ネノの我慢の限界がきそうなので、俺は会話に割り込む。

 話して納得してもらえないのならば追い出そう。




 

 

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