ツアーの開催とパーティーの準備 ①
「じゃあレオ様、ネノ様、いってきまーす!!」
今日はツアー開催当日。メルは元気よく声をあげている。
「いってらっしゃい。メル、無茶駄目」
「いってらっしゃい。メル。冒険者たちは街にいるからちゃんと合流するんだぞ? 何かあったら報告するように」
「うん!! 僕、レオ様とネノ様に任されたことだからちゃんとやるよ!!」
ネノと俺で送り出せば、メルはそのまま飛び出していった。
これからメルはツアー客を街まで迎えに行って、そのままこちらに連れてくる予定だ。一般人も一緒なので日数はかかるだろうから、それまでは俺たち二人で宿のことは全て行う形になる。
「ツアー、成功すると嬉しい」
「ああ。そうだな。今回ダンジョンの中だけど、他の場所でも普通なら行きにくい場所に行くツアーとかしてもいいかも」
「うん。それもあり。本当なら行けない場所行けるなら、高額でも行けそう」
ネノはツアーのことが楽しみで仕方がないと言った様子だ。こうやって楽しそうなネノを見ているだけで俺は嬉しくなる。
「ツアー客用に、オマケも準備する。つくまで時間あるよね?」
「うん。あるよ」
張り切っているネノはツアー客を一生懸命おもてなしするために、出かけていった。その間、俺は料理の下ごしらえをしたりする。今、宿に泊まっている冒険者は三名で、まだ寝ているようなのでそのままにしておく。
ダンジョンの中は昼夜が分かりにくいというのもあり、時間間隔がなくなっている者も結構いるのだ。俺とネノはダンジョン内でも時間はちゃんと見て、規則正しく起きるようにはしているけれど。
一人でせっせと準備を進めていると、宿に新しい客がやってくる。
「お邪魔します。『勇者』様はいらっしゃらないのですか?」
「ネノなら今、出かけています」
鎧を身に纏ったその騎士風の女性の冒険者は、ネノがこの場にいないと知ると途端に宿に対する興味を無くしたように思えた。只者ではない雰囲気は醸し出しているけれど、誰だろうか? あと俺に対して少しは敵意というか、警戒心がありそうだ。ただ俺に直接何か言ってこないのは、何か思う所があるからなのだろうか。
「しばらく『勇者』様が訪れるまで待たせていただきます」
その女性の冒険者はそれだけ言うと食堂の椅子に腰かける。街中で繁盛していて、お客さんが沢山いる状況だとこうもいかない。しかし今はダンジョンの中で経営中なので今は問題ない。
「何か食事を摂りますか?」
「要らない」
食堂の席についておいて、食べもしないというのはちょっとどうかと思う。この冒険者は宿泊希望者なのだろうか? ネノにしか希望を言う気がないのかもしれない。ただ暴れたり、追い出すほどの行動をしているわけではないのでそのまま放っておくことにする。俺とは話したくなさそうだしな。
ネノのことを慕っているのならば、俺にそういう態度をしていたら怒られるのになと思ってならない。
冒険者だからと一括りにするのは問題かもしれないが、この冒険者の街だとそういう短慮的な人間が多い気がする。本能で考えていると言うか、そういう人は多い。
時折、その女性の視線を感じながらもやるべきことを済ませておく。宿泊客もそろそろ起きるだろうし、ネノもしばらくしたら帰ってくるのでその分の料理を準備しておくことにする。今日はダンジョンでとってきたばかりの魔物の肉と野菜を使って肉巻きを作る。少しスパイスの効いたタレだ。
野菜にお肉を巻いて、ついでにチーズも入れる。うん、我ながら上手く出来たと思う。
……女性の冒険者がこちらをじっと食い入るように見ているが、本人から食事を食べる申告をされなければ出す気は今の所ない。さっき要らないと言われたしなぁ。
そうこうしているうちに寝ていた宿泊客の冒険者たちが目を覚ましてきた。美味しそうな匂いに誘われて起きたらしい。
俺とネノの分は取り分けておいて、残りは三名の宿泊客たちに振る舞う。
「レオニードさんの料理は相変わらず美味しいですね。……あそこの方には振る舞わなくていいんですか?」
「ネノに会いに来ただけで、食事は要らないということだったので」
「へぇ、もったいないなぁ。美味しいのに」
宿泊客の女性冒険者はそんなことを言いながら、肉巻きを頬張っている。他の男性冒険者二人もどんどん口に入れている。冒険者は食べる量が多いので、ダンジョンでの宿は余計に食事作りに気合が入るものである。
そうやって宿泊客と会話を交わしている間も、視線はこちらに向いている。それにしてもこの冒険者はネノにどういう用なのだろうか?
そんなことを思いながら過ごしていると、
「ただいま」
ネノが宿へと帰ってきた。
少しご機嫌そうに見えるので、目的のものは手に入れることが出来たのだろう。ネノはツアーのおまけに何を用意しているんだろう?
「ネノ――」
俺がネノへと声をかけようとした時、他の声に遮られた。
「『勇者』様、お久しぶりです!!」
俺の声をかき消すかのように、先ほどまで無言だった女性の冒険者がネノに向かって勢いよく話しかけたのだ。