『勇者』だと知られてからのこと ⑪
くじによる抽選なので、ツアーの参加者はすぐに決まった。ただくじで当選した後も、問題がある相手を宿に連れていく気はないので個別で会話をすることにはなったけど。
その中にはツアーへの参加資格を失う人も当然いた。俺やメルのことを侮る発言をし、周りを見下すようなことを言っている男に関しては当然却下した。少なくともツアーで何日も他の客と過ごすことになるのにそういう態度をする者はいらない。あとメルの言うことをちゃんと聞けない者もいらない。
当然、文句は言っていたがそこは黙らせておいた。
あとは自称『勇者』たち本人ではないものの、自称『勇者』たちのことをネタにしていた新聞社とかはお断りしておいた。あることないこと広められるのも正直嫌だと思うからな。調べた限り、結構過激なことまで書いていたみたいだし……。あのダンジョンに潜った令嬢の件でも俺とネノのことを悪い風に書いていたっぽいしな。
「前回の件の挽回のためにも、ぜひ、ツアーに参加させてほしいのです!! このままでは我が社の未来は絶望的です!」
……そう思うのならば、先にやるべきことは謝罪ではないのだろうかと俺は思う。
自分たちのことしか頭にないのかもしれない。あとは『勇者』ではない俺のことを甘く見ていて、謝罪など必要ないと思っているのかもしれない。
そもそもの話、自称『勇者』たちに関してもそうだけどネノが『勇者』でなければ彼らは俺たちのことを悪いように言い続けただろう。
それを思うと何とも言えない気持ちにはなる。
ネノが『勇者』だろうが、なかろうが、俺たちは同じ場面に遭遇したら同じ対応をしただろう。ネノが『勇者』だと発覚しなければ、この街の自称『勇者』たちは暴走し続けたことだろう。
あとはこの街が自称『勇者』たちが台頭していたからこそ余計に下手な正義感に満ちた口だけの連中が増えていたのかもしれない。『勇者』に対して理想を抱き、自称『勇者』たちは自分たちの理想を演じるだけの土台が出来ていた。それでいてそれを後押しする環境があった。
今まで何の問題も自称『勇者』たちが起こさなかったのが運が良かったのだろうとは思う。理想なんてものはそもそも他人に押し付けるべきものではない。
世の中には理想を声高に叫ぶ人は少なからずいるし、それに影響を受ける人もいる。でもそれを言われた側が決行しなければならない理由は一つもない。
「却下。俺たちがあなたたちの名誉を挽回する必要性はない」
自称『勇者』たちをネタにしたのも、俺たちのことを悪い風に書いていたのも――結局彼らが判断したことである。それでその新聞社の未来が絶望的になったところで、俺たちには何も関係がない。
「なっ……それはあなたが決めることではないでしょう! 『勇者』様と話させてください!!」
「俺のことをそんな風に見ている時点で、ネノは絶対に断る」
「『勇者』とは人を救うものでしょう!! なら私達のことも――」
「それは違う。『勇者』は『魔王』を倒すことを求められているだけの者であって、それ以上の何でもない」
確かに歴代の『勇者』は人助けを多くしていたらしい。それこそ『魔王』を倒すという義務を終えた後も、『勇者』として相応しい行動をし続けたらしい。
それが本人の意思だったのか、それとも周りに求められたからなのかは俺は知らない。
とはいえ、ネノが誰かに助けを求められたからと必ずしもそれを聞く必要性は全くない。
まだぎゃーぎゃー何か言っていたけれど、魔法で拘束したら黙った。新聞社という情報を扱う者なら、俺がどういう人物かぐらい先に情報を集めておけばいいのに……としか思えなかった。
最終的に彼らは兵士たちに連れていかれた。
その後も、残ったツアー参加予定の者たちと話した。
小さな『勇者』に憧れる子供もいた。その子供にはくれぐれもメルの言うことを聞くようにと言い聞かせた。言うことを聞けないとツアーには参加できないと言ったら、決意したように大きく頷いていた。
自称『勇者』たちや先ほどの新聞社の者よりもよっぽど子供の方が聞き分けが良かった。
他のツアー参加予定の人たちも、何かあればすぐに参加させられなくなると分かったからかちゃんと俺とメルの話を聞いていた。
そのため他の人たちでツアーへ不参加になる者たちはいなかった。
まぁ、今回くじで決まった者たちがたまたまそうだっただけで、次回以降がどうかは分からないけど。
あとはくじで公平に決めたのに自分がツアーに参加できないことを文句言っている人たちに関しては、これ以降のツアーにも参加させたくないので容姿や名前をちゃんと控えておいた。参加が決まった女性に「参加権を譲れ」などと脅している馬鹿もいたので、それに関しても参加させる気はない。
参加予定の人たちには、何かあればすぐに報告してほしいとも言っておいた。
ツアーに参加するにあたっての注意点などをまとめた紙も渡しておく。
「じゃあ宿に戻るか」
「うん!」
目的が完了したので、宿へと戻ることにする。
説明や抽選、参加者の選定などを行っていたら結構な時間が経っていた。その間、ネノが一人で宿を切り盛りしてくれているので急いで俺とメルは宿へと向かう。
「『勇者』様!! 申し訳ございません!! 許してください!!」
――宿に戻ると、外でそんな風に大騒ぎしている人が居た。何かあったらしい。




