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『勇者』だと知られてからのこと ⑩

 指定の場所に集まった人の数が多すぎて、俺は少し驚いた。幾ら珍しい場所に宿があるとはいえ、ダンジョンの中は一般人にとっては危険な場所である。

 ……『勇者』であるネノの経営している宿だからと思われているのならばそれはそれで困る。

 『勇者』であろうとも、完璧であるというわけではない。それにツアーに参加をするというのならば危険も承知の上で参加してもらわないと困る。

 それにしてもこれだけの人数をツアーで連れていくとなると大変だ。俺とネノはこの街にずっと滞在するつもりはないしなぁ。ちゃんと厳選しておかないと。

 あと自称『勇者』も一部いるから、そいつらに関してはお客さんとして入れるつもりはないのでもう却下である。

「レオ様、もう始めていい?」

「その前に……自称『勇者』達に関しては客として受け入れるつもりはないから帰ってもらいたい」

 俺がそう言ったら、その場に居た自称『勇者』たちからブーイングが上がる。

「どうしてそのようなことを言うんですか?」

「私たちは客ですよ?」

 そんなことを言っているけれど、正直お店側が入れないと決めているのだから大人しく下がってほしいと思う。それにしてもこいつらに関して言えば、この場にいるのが俺とメルだけだからかこういう態度をしているのかもしれない。

 今、この場にいる自称『勇者』達に関しては、令嬢の件で文句を言ってきた奴らとは違うけれどだからといって自称『勇者』は特に客として迎え入れるつもりはない。こういう風に文句を言っているのを聞くと余計にそういう気持ちになった。

「お前たちが自称『勇者』だから。俺とネノは自称『勇者』として活動している者たちを宿に客として迎える気はない。それに関してはチラシにも書いているはずだ」

 宿の開店を知らせるチラシには、「自称『勇者』お断り」の文字もきちんと書いている。だというのに客として潜り込もうとしている様子には本当に呆れる。まともな神経をしている自称『勇者』は自称『勇者』たちの一部がメルを不快な気持ちにさせたことを知っているからこそ、わざわざ俺たちに接触をしてこようとしていないのに。

「なっ、私たちは『勇者』様を不快にされた者とは違います!!」

「自称『勇者』っていうだけで迎え入れる気はない。自称『勇者』ならば、自分たちだけでダンジョンぐらいどうにでも出来るだろ。本物の『勇者』であるネノはああいうダンジョンでも一人で生き延びられる。『勇者』を名乗るならそのくらい当然だからな」

 ――『勇者』を自分から名乗っているのならば、俺たちの経営している宿に泊まる必要性などないのだ。

 それにしても俺が拒否しているのに、納得しないと言う様子で色々言ってきて本当に面倒だ。

「レオ様が駄目だって言ってるんだから大人しくどこかいってよ!」

 メルが不機嫌そうに威圧すると、へたり込んでいるし。

 ダンジョン内では特に自分の実力を把握せずに自分よりも強い相手に突っかかるのは致命的である。言葉が通じる人ではなく、魔物が多くいる場所なのだ。あと人の話を聞かない時点でもう駄目だろう。

 自称『勇者』と言う時点でツアーへの参加資格はないけれど、もしそうでなかったとしても彼らはツアーに参加することは出来なかっただろう。

 メルにきつく睨まれると、彼らは足を震わせながら逃げて行った。うーん、情けない。

「これで、初めて良い? レオ様」

「ああ」

 俺が頷けば、メルは満面の笑みを浮かべる。

 メルはその場に魔法で用意した台に乗る。人の姿のメルは背が低いので周りから見えやすいように台に乗っているわけだが、周りからしてみると美少年が一生懸命な様子にしか見えないのか「可愛い」と口々に言われている。

「ええっと、これからレアノシアへのツアーの説明を始めるよ! 沢山集まってもらっているけれど、全員は連れていけないから厳選するからね! ツアーでは僕と冒険者が誘導するから安心して。僕強いからね。ツアーの最中に自分勝手な行動する人間とか、言うことを聞かない人間は気絶させるから覚悟して。ダンジョン内は普通の人間たちにとっては結構危険だと思うからくれぐれもちゃんと話聞かなきゃだよ」

 メルは用意した紙を見ながら、一生懸命説明をしている。

 うん、ちゃんと言えてるな。不足は今の所なさそう。

「宿があるのはダンジョンの三十階層だから、宿につくまでもテントで休むとかあるからその辺もちゃんと覚悟しておかなきゃだよ。でもレオ様のおかげで野宿も普通より快適だから安心してね。ご飯もちゃんと用意しておくから。足りなくなったら僕が狩ってくるよ。あとダンジョン内は予想外のことも起こるかもだけど、何かあっても慌てないでね。僕が居れば何でもどうにかするし、何かあればネノ様とレオ様も駆けつけてくれるから。危険はそこまでないと思うけれど、絶対はないから参加するっていうのならば命の危険があるかもしれないことと、もし亡くなったとしても自己責任だっていう誓約書は書いてね。それが納得できない人は参加しなくていいから、今すぐ帰っていいよ」

 メルが次々と説明をする。

 チラシにも誓約書についてなどは書いてあるけれど、ちゃんと読んでいない人もいたのだろう。

 メルの言葉にざわめいている人もいた。だけれども、その言葉で去る人は少なかった。よっぽどダンジョン内の宿に泊まりたいという人が多いのだろう。

「納得した人が残ったんだよね。じゃあツアーの抽選のくじ始めるよ!!」

 そしてメルの言葉と共に、くじが始まった。






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