『勇者』だと知られてからのこと ⑨
ダンジョンの中は不思議だ。
まだこの場所で宿を初めて間もないが、その間でも様々な不思議な状況は見られるし、メルが持ってきたような危険なキノコとかさまざまある。メルにはひとまず、なんでもかんでも口に含まないようにとは注意したけれど……。
「ねーねー、レオ様、見て!!」
口に含まないようにといったら、それを食べていいか判断してもらうために宿にどんどん持ち込むようになった。毒々しい色のものとかもあって、それも食べたいのか……? と不思議な気持ちになった。
メルはドラゴンなのもあり、ダンジョンで過ごすことを全く苦に思っていない。というより元々自然の中で生きていたのもあってダンジョンはとても楽しい場所のようである。
ちなみにメルが外をぶらついている間に血気盛んな冒険者たちは「『勇者』様、どうかお手合わせを」と煩かったりする。あとはネノも外に出ていて、俺しかいないときは残念そうにしていたりする。俺だけが宿にいるのは何かあった時に対処できないのではないかとか色々言っていたし。
その中で「お前は『勇者』様の伴侶に相応しくない」とかいって殴り掛かってきた奴はすぐに気絶させたけど。というか、俺に本当に戦う力がなければそもそもダンジョンで宿を経営するなんて考えない。……まぁ、周りからしてみれば俺がネノとメルの力を当てにして、此処にいるって思っているのかもしれないけれど。
そういうことを言ってきた態度の悪い連中はすぐに出禁にする。別にそいつらが居なくても問題ないし。
自称『勇者』達も含め、宿に入れないことを決めている連中ってそれなりにいる。客商売だとお客さん最優先みたいなところもあるけれど、まぁ、客としていらないと思う人たちは入れなくていいとは俺は思っている。
「メル、街の方でチラシ配ってくれるか」
「ツアーのだよね? うん。配る!」
まだ街からのツアー客は入れていなかった。危険もあるからそのあたりはちゃんと準備してからじゃないと出来ないしな。そのチラシにはツアーの日程や料金、あとは注意事項とか色々必要なことを書いている。
宿にやってきた冒険者の中で、素行に問題がない人たちにも話を通している。メルだけでも問題はないだろうけれど、護衛は最低限いた方がいいし。
「メル、なるべく客の命を最優先な」
「うん。死なないようにすればいいんでしょ?」
「そう。それが大事だな」
ツアーの案内を任せるメルには、なるべくツアー客が死なないようにすることが第一だというのをくれぐれも言い聞かせておく。
メルはまだ子供の個体なので、ちゃんと言っておかないと何か面白いものでもあれば飛び出していく可能性もあるからちゃんと毎日言っておく方がいい。
「ええっと、とりあえずチラシ配って、ツアーに参加希望の人たちは指定の日に集めるんだよね?」
「そうそう。それもチラシにちゃんと書いてる。その指定の日に実際のツアー客を選ぶ感じだな。ダンジョンの中に連れていくわけだから、その辺は大事だから。勝手な行動をするようなのが一人でもいるとメルも大変だろ」
「うん。その説明って僕がするの?」
「ああ。メルに説明をさせて、ツアー客選びは俺かネノかで街まで一緒に行く」
「うん。分かった!!」
「基本的にくじとかで選ぶけど、その中で問題がある奴いればすぐはじくからそこまで人数は多くならないはずだ」
「うん。厳選してもやっぱり問題ある人居たら殺さなきゃ大丈夫?」
「ああ。殺さないように気絶でもさせて、帰還ポイントから街に帰せばいい。ダンジョンの入り口の兵士たちに話を通しておけば大丈夫だと思うからな。ただちゃんと問題行動ありのため帰しましたって分かるようにな」
「うん。……というか、この日程、結構な日数あるね。宿に滞在している時間、短いね」
メルはチラシを見ながら不思議そうな顔をする。
ツアーの日数は多めにとってある。ダンジョンに入ったことのない人たちを連れてくるツアーなので、その方がいいのだ。
「一般人はこの宿のある三十階層まで来るのは大変で、時間がかかるものだからな。ここまで降りてくるのにこれだけ時間がかかるだろうって見積もっているんだ。多めにツアー客と一緒にここまで旅する冒険者分のご飯も渡しておくから、メル一人で食べつくさないようにな?」
メルはご飯を食べることが好きなので、それも言っておく。
「うん!! 僕、その辺もちゃんとする。ご飯が足りなくなったら僕が狩ればいい?」
「その時は臨機応変にな。ただ足りるようにはするから」
「うん!」
俺が色々注意をすると、メルは元気よく頷くのであった。
そういうわけでメルにチラシを配ってもらった。配った先々で「ツアーに参加したい」と言う人は多かったらしい。
もしかしたら思ったよりもツアーに参加したがる希望客は多いのかもしれないと思った。実際にその予想はあたっていて、ツアー客を選ぶ指定日に驚くほどの人数が集まっていた。