『勇者』だと知られてからのこと ⑥
「ツアーって楽しそう!!」
メルは俺とネノから話を聞くと、目を輝かせてそう言った。
メルは割と好奇心旺盛な性格をしているので、やったことのないツアーというものに興味津々なのだろう。ただ面白そうだとはいえ、ちゃんとツアーの参加者の安全は確保しておく必要はある。
「《時空魔法》で参加者に魔物が近づけないようにするとかした方がいいか」
「ん。それはあり。でもメル以外の冒険者にそういう道具渡すのはちょっと危ない。奪おうとする人いそう」
「基本はメルに任せる形がいいか。その方がレア感も出るし」
「メルと冒険者でやらせるでいいかも。何か不測の事態あった時もそれなら問題ない。魔法具はメルに持たせればいい」
「メルから奪おうとするやつがいたらそれは要注意人物に出来るしな」
「ん。そんなやつ出禁」
確かにネノの言う通りそういう問題児はまず宿に足を踏み入れさせる必要はない。それにしても色々考えるべきことがあるなぁ。宿泊プランに、チラシの作成に、基本的には冒険者を対象にした宿だからそのあたりも踏まえて考えないと。
「メル、冒険者相手に戦闘でもするか?」
俺はふと思いついたことをメルに問いかける。
「戦えばいいの?」
「ああ。冒険者たちにはメルと戦うためには特別料金を課すとか、そういうのもいいと思うんだ。ネノに訓練をつけて欲しいっていう奴らもいるかもしれないし。それでメルを倒せたらネノが相手をするとかでもいいかなって」
「僕は負けないよ? レオ様は僕が簡単に負けると思っているの?」
メルが俺の言葉に不満そうに頬を膨らませる。
「いや、負けないだろうと信じているから任せるんだよ。ネノはそういう冒険者をいちいち相手にはしていられないし、どうせネノから手ほどきを受けたいという連中が多いのならばそういう仕組みにした方がいいかなって。だからメルはどうだ?」
「レオ様が僕のこと、信じて任せてくれるっていうなら喜んでやるよ! ネノ様の手を煩わせたくないし!」
メルは俺の言葉を聞いて、にこにこと笑いながら快諾した。
……本当にメルって心を許した相手にはすぐに頷くんだよな。本当にいつか騙されないかだけ心配になる。
「ん。その辺はメルにお任せ。メルが負けなければ私、のんびりできる」
「ネノ様! 僕が負けるわけないじゃん!! というか、レオ様とネノ様みたいに僕に勝てる方がおかしいんだから! そんなおかしな人が沢山いたら僕たちドラゴンはとっくに全滅しているよ」
まぁ、確かにメルの言う通りドラゴン種に勝てる人たちがそれだけ多くいたのならばとっくに全滅しているだろう。
「あとはダンジョン内だからこそ出来ることだよなぁ。何を売りにしたらいいだろうか」
「冒険者たちも、ただ泊まるよりオプション付けてもあり」
「メルと戦わせるのもその一種として、他にもなんかあるかな」
俺とネノは正直、冒険者たちのことをそこまで深く知っているわけではない。俺たちは冒険者ではないし、ダンジョンには潜っているけれど冒険者たち向けだと何がいるかは分からない。
「うーん、思いつかないな。何かしらあるんだろうけど」
「うん。開店してから冒険者たちの話聞いて考えるのもあり」
「それもそうか。結局冒険者のことは本人たちに聞く方がいいからな」
「ん。冒険者じゃない私たちには分からない」
ダンジョンの中だからこその利点。それで追加料金を払ってもらえそうなこと……。うん、すぐには思いつかない。
結局思いつかなかったので、そのあたりは後々考えていくことになった。
それから俺たちはせっせと開店の準備を進める。お客さんを泊めることが出来るようにと整えて、チラシなどを作成し、ツアー用の日程を決めたり魔法具を準備したりと進めている。
俺とネノとメルの三人だけで進めているわけだけど、思ったよりも作業はすぐに進んだ。
ここはダンジョンの内部で、周りからの干渉がないからというのもあるだろう。ただ自分たちのしたいことをしたいように進めることが出来る時間というのは楽なものだ。
宿の周りにどういうものがあるかとかもちゃんと確認作業も終わった。ダンジョンというだけあって、宿の近くに致死量の毒が存在したりしたので……、冒険者たちはともかくツアーで来る人たちにはあんまり外を出歩かないようには誓約は結んだ方がいいだろう。あくまでツアーで此処まで来れるとはいえ、ダンジョンは危険な場所だというのはちゃんと認知してもらわないといけない。
ダンジョンに入ったことのない人からしてみれば、ダンジョンは自分にとって関わりのない現実味のない場所という認識の人も多いだろう。いざ、ツアーで来れるからといって気を抜かれるのは困るし。
うーん、そう考えるとツアーの客は厳選した方がいいな。
ちゃんと手続きを踏んで、問題がなさそうな人だけツアーで招く感じだな。
そのあたりの細かい決まりについてはネノと話して決めた。
――そしてそれから数日後、俺たちはダンジョン内で宿を開店した。