『勇者』だと知られてからのこと ③
「『勇者』様、ダンジョン内での営業許可が出ました」
使者が宿へとやってきたのは、話をしてから数日後のことだった。ダンジョン内で宿を経営するなどという前代未聞なことを行うのだから、もっと協議に時間がかかるのではないかと思っていた。なのでこんなに早く許可が出たことに驚いた。
「ん。すぐ営業していい?」
「構いませんが、宿をすぐに営業できるものなのですか? 建物などの建築が必要では?」
「私のレオ、《時空魔法》使える。持ってきてるから、問題なし」
ネノがそういうとその使者は俺の方に視線を向けた。それまでネノのことしか眼中にない様子だったので、俺のことをネノのオマケか何かとしか思っていないのかもしれない。
そういう態度には慣れてはいるけれど、呆れてしまう。
ネノの機嫌を悪くしたくないのならば、俺のことももっと調べればいいのに。
「……『勇者』様ではなく、この方がですか?」
半信半疑といった様子のその使者は、俺がネノと一緒にダンジョンに潜っているのもネノの力任せだと思っているのかもしれない。
……俺は別に自分の実力を隠しているわけでもないし、ちょっと調べればわかるんだが。
一部の人たちには俺がネノの実力に頼りまくっている情けない男にでも見えているのだろうか?
「レオを馬鹿にする、ダメ。私のレオは凄い」
「ひっ、申し訳ございません……。それより私どもで手伝えることはございませんか?」
怯えながらもネノに向かってそんなことを申し出る使者を見ながら、『勇者』であるネノに恩を売りたいんだろうなとは思った。
「要らない」
ただネノにとってそういうものは必要ない。
「本当に何も……?」
「ん」
あとはネノはもし恩を売ったなどと言われて、何か頼まれるのも嫌なのかもしれない。
その使者の男性は主人から何かネノとつなぎを作っておくように言われているのか、なかなか引き下がらない。
「『勇者』様、どうか――」
「しつこい。去らないと、ダンジョンにこもって出ない」
「……失礼しました! ええっと、『勇者』様に頼みごとがないのは分かりました。最後に一点、領主の館でパーティーを行いますので参加していただけないでしょうか!!」
その男性は、青ざめながらもなんとかその言葉を告げる。
……本当によっぽど領主はネノと交流を持ちたいのかもしれない。どういう思惑があるのかは分からないけれど、本当に俺のネノは人気者だなと思う。
ネノは使者の言葉にこちらを向く。
「レオ、出たい?」
「パーティーってネノが着飾るってことだよな?」
「ん。レオが望むなら」
「俺はドレス姿のネノは見たいなって思う」
素直な気持ちを言うと、着飾ったネノのことは見たい。
普段からネノは可愛くて、俺にとって最高のお嫁さんだけどさ。でも『勇者』としてネノが活躍していた時は必要に応じてパーティーに参加したりしていたとは聞いている。
俺とネノは平民だし、ネノが『勇者』になる前にあげた結婚式も平民らしい結婚式で、『勇者』としてパーティーに参加しているネノの姿は見たことがない。ネノがパーティーで『勇者』パーティーの男たちと親しくしていたなんて事実無根な噂が入ってきてはいたけど。
「私も、レオのかっこいい姿見たい。レオ、いつもかっこいい。でもパーティー、レオ居るならきっと楽しい」
「俺もそう思うよ。ドレスを着たネノは最高に可愛いんだろうなって」
俺がそういえば、ネノは小さく笑った。そして、使者の方を向く。
「パーティー、レオと一緒なら参加してもいい。でも嫌なことあったらすぐ帰る。あとついでにメルも連れてって良い?」
「ありがとうございます!! メルというのは一緒に居る少年ですよね。その方についても招待するようにご主人様に伝えます!!」
ネノの言葉に使者は一気に元気になった。ネノがパーティーに参加してくれるという成果を主に持ち帰れることが嬉しいのだろう。
「ん。じゃあ、帰って。パーティーの日付いつ? 招待状くれる?」
「はい!! 招待状はお送りします!」
「あと、私たちダンジョンにすぐ行くかも。その時は招待状、ダンジョンの入り口で兵士に渡すとかでいい。メルに取りにいってもらう」
「かしこまりました!! ご主人様に伝えておきます!!」
使者はネノの言葉に元気よく返事をすると、そのまま去って行った。
使者が去った後、ネノは何処か楽しそうな様子を見せている。
「レオ、パーティーの衣装、新調する」
「そうだな。俺はそういうの参加したことがないから衣装ないからなぁ。ネノも可愛いドレス準備しよう」
「うん。レオに、可愛い言ってもらう」
そんなことを言うネノは本当に可愛いなぁと俺は思ってならない。
それにしてもネノはどんなドレスでも似合いそうだけど、どんなものを着てもらおうか? それにメル用にも衣装を用意しないと。
メルはパーティーで大人しく出来るかな。それだけは心配だからちゃんと大人しくするようにはいっておかないと。