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『勇者』だと知られてからのこと ②

 俺とネノは宿から出た。

 目立たないように、人がほとんどいない夜の時間帯に移動している。こういう夜中だと暗くて周りも俺たちのことを認識しにくいものである。それにこういう時間帯にダンジョンの方へ向かう人って中々いない。

「夜中だし、気づかれてなくていい」

「そうだな。メルもおいてきたしな」

「うん。メル、ちょっと騒がしいから」

「まぁ、メルは寝るの早いから起きていたら寝ぼけてそうだしな」

「ん」

 ネノとそんな話をしながら、夜の街を歩いている。

 気配を完全に消して、二人だけでこそこそと話しながら歩くのはなんだか妙に楽しい。

「夜もレオと一緒、楽しい」

 ネノも俺と同じことを思ってくれていたらしく、それを聞くとなんだか嬉しかった。

 そうして俺とネノは会話を楽しみながら、ダンジョンの入り口へとたどり着く。そこにいる兵士は眠たそうに欠伸をしていた。こういう夜中にダンジョンを訪れる冒険者がほとんどいないからかもしれないけれど気を抜きすぎじゃないか? なんて思ったりする。

「ねぇ」

 俺とネノは気配を消して近づいた。そしてネノが声をかければその兵士はびくりっと身体を震わせた。それからネノの顔を見て驚いたような顔をする。

「ゆ、『勇者』様――」

「ちょっと静かにして。人が来る」

「す、すみません!!」

 『勇者』であるネノが目の前にいることに対して大変動揺している様子を見せている。

 ネノは『勇者』であると知られてから宿にこもったままだったし、彼も驚いたのだろう。

「『勇者』様、こんな真夜中にダンジョンに潜るつもりですか?」

「違う。話あってきた」

「話ですか……?」

「ん」

 ネノの『話がある』という言葉にその兵士は表情を引き締めている。何を言われるのだろうかと、緊張した面立ちである。

「私、レオと宿する。街とダンジョン半々がいい。いい?」

「え?」

「聞こえない? 私たち、ダンジョンで宿したい」

 ネノが言った言葉はその兵士にとっては想定外のものだったのだろう。彼は素っ頓狂な声をあげている。

「だ、ダンジョンで宿ですか?」

「ん。ダンジョンの中で宿、楽しそう。やりたい」

「ええ、ええっと、私では判断がつかないので一度上に掛け合う形でもいいでしょうか?」

「ん。それでよし」

 ネノはそれだけ言うともう話が終わったとばかりに、俺の方に駆け寄ってくる。

「レオ、これで大丈夫」

「そうだな。話をつけてくれるならダンジョンの方はこれでいいだろう。あとは街の方か。そっちは商業ギルドに後で行くか」

「ん」

「流石にあっちは夜は空いてないから……、諦めて日中に出るか」

「そうする。煩い人たちは黙らせるから大丈夫」

 ダンジョンに宿をやるのは、話をつけてくれるらしいので問題はない。ただ街で宿をやることに関しては商業ギルドに話をつけて土地を借りる必要があるだろう。まだしばらくネノが『勇者』だと広まったことで騒がしくなりそうだから最初はダンジョンで宿をやるとしても、先に土地は確保しておいた方が楽だろう。

「ネノ、少し夜のデートするか?」

「する」

 折角夜に外に出たので、すぐに宿に戻るのももったいないと思った。

 なのでデートに誘えば、ネノは嬉しそうに頷いてくれた。やっぱり俺のネノは可愛いなぁと思う。

「お店は空いてないから外行くか」

「ん」

 夜中にはお店は大抵開いていないので、街の外をぶらつくことにする。夜だからこそ見られる光景があるかもしれない。

 ネノと一緒に手を繋いで、街の外に出る。

 暗闇の中に星空が輝いていて、キラキラしていた。

「星、綺麗」

「そうだな。ちょっと寝転がるか」

「ん」

 暗闇の中、草むらの上に寝転がって空を見上げる。時折魔物の鳴き声が聞こえてくるけれど、俺とネノに襲い掛かってくる気配はないので放っておく。

「ネノ、ダンジョンでの宿経営許可出るといいな」

「ん。許可、出してくれないと嫌」

「嫌っていっても無理だった場合は仕方ないからなぁ」

「その時は交渉」

「そうだな。ちゃんと交渉して、許可出してもらえるのが一番いいな」

「ダンジョン、宿、楽しそう。やりたい」

「俺も楽しそうだと思う。ダンジョンの中で宿だとそこまで忙しくないだろうし、少しはのんびりできそうだな」

「ん」

「その分、街で宿をやると忙しそうだけど。メルもダンジョンの中だと沢山遊べて満足だろうし」

「うん」

 ネノと一緒にダンジョンで宿をやる話をしているだけで楽しいものだ。それにしてもダンジョンで宿をやっている前例とかあったりするんだろうか? 初めての事だったらより一層面白いと思う。

 ネノと一緒に他の誰もやったことのないことを出来るってそれだけでワクワクすることだしな。

 

 ――そしてしばらく寝転がって会話を交わした後、俺たちは宿へと戻った。

 翌日になって俺とネノが二人で出かけたことを知って、メルは「僕も行きたかった」と少しだけむくれていた。





 

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