ダンジョンに潜る ⑧
それからも割と、色んな人に俺たちは絡まれた。
見返りも何もなく、俺たちのせいで令嬢が行方不明になったのだから無条件で助けるべきだという考えの人が多いみたいで、俺はなんだかなとは思う。
世の中には力があれば無条件にその力をふるうべきだと考える人が多すぎると思う。
そういうことに喜びを感じる人ならともかくとして、そうでないのならばどうして色んなものを犠牲にしてまでそういうことをしなければならないのだろうか? とは思ってしまう。
というか、俺もネノも、メルも条件次第では遺品探しぐらいをするだろう。しかし、俺たちに話しかけてくる人たちは揃いも揃って名誉だとか、当然のことだとかそういうことしか言わない。
あとこちらに色々言ってこない冒険者たちは、ダンジョンに自分から潜った令嬢の落ち度であると分かっているのだと思う。
それなりに力のある冒険者たちは、令嬢を探すために行動している者と令嬢とかどうでもいいとばかりにダンジョン攻略を目指しているものとで分かれているらしい。
ただ、自称『勇者』たちに限って言えば実際に探しに行くものはほとんどいないようだ。まぁ、中には何の力もないのに『勇者』を名乗っているプライドかダンジョンに潜ろうとする者もいるらしい。流石にそういう人たちに関してはダンジョン入り口の兵士に止められているんだとか……。
「ねーねー、レオ様、ネノ様、いつ宿は開業するの?」
「もう少ししてからかな」
「ん。もうちょい色々見てから」
宿でメルから問いかけられた言葉に、俺のネノはそう答える。
宿をこの街で始まるタイミングをいつにしようか、というのはまだ悩んでいるところである。
もう少しダンジョンで遊んでからでもいい気はしている。もっとダンジョンの奥の方へと潜ったらどんな光景があるのだろうか、どんな楽しいことがあるのだろうか――とそう考えると楽しいから。
「ネノ、次にダンジョンに潜るのはもう少し落ち着いてからにしよう」
「ん。今行くと、多分煩い」
「早く本人でも遺品でも見つかればいいな」
あの令嬢の生死は不明。そのうち本人か遺品は見つかるだろうからそれまではのんびりすることにする。
「街の外にダンジョン以外にも面白い場所あるから行こうよ! 僕、この魔物食べたい!!」
そんなことを言うのはメルである。
どこからか周辺地域の情報のまとめられたパンフレットをもらっていたらしい。この冒険者の街の周辺にはダンジョン以外にも魔物が多くいるエリアがある。そういう場所も冒険者たちにとっての仕事の場ではあるらしい。
メルはそこに生息する魔物のお肉が食べたいらしい。
よっぽど美味しいと噂に聞いているのか、口からよだれが出ている。
「そうだな。ダンジョン以外の場所も見て回るか」
「うん」
そういうわけで一旦俺たちはダンジョン以外の周辺のエリアを見て回ることにした。宿屋を開く際の食材集めにもなるし、メルが行きたそうなので行こうと思った。
宿から出る時に、宿屋のおばあさんから「出かけるなら大変かもしれない。街内は騒がしい」と助言された。不思議な雰囲気のおばあさんは、宿から離れている様子はあまりみかけないが色々情報収集能力を持っているらしい。
俺たちがダンジョンや街ではなく外に行くと言えば「それなら大丈夫だろう」と言っていた。
街中で色々声をかけられるのも面倒なので、三人ですたすたと歩いて門へと直行した。門では「令嬢をダンジョンに残しておきながら逃げようと言うのか!?」みたいにつかってくる面倒な兵士もいた。
その兵士は新人だったらしく、他の兵士に止められていた。
「すまないな。こいつは新人なんだ。許してくれ」
そうやって代わりに頭を下げられる。新人兵士はそんな風な様子が信じられない様子だ。俺たちに謝る様子もなく、この街から逃すなんて――みたいに考えているようだ。
そもそも俺たちは別に街から去ろうとしているわけではないのだが……思い込みが激しい人たちに関しては俺たちが何を言っても理解しないだろう。
「なんだか戻ってきた時にも色々言ってきそうだね? 殺しとく?」
「メル、そういうのはいらないよ。全部無視しとけばいいんだよ」
なんだか色々言われるのが煩わしいのか、物騒なことをメルが言うので止めておく。
俺たちはその後、周辺の森や山などに足を延ばした。幸いなことに冒険者の姿は少なかった。ただ数少ないその場にいた冒険者の話に聞き耳を立てていたところ、令嬢捜索の方に冒険者の数がさかれている影響らしかった。
人が少ないうちに俺たち三人はそのあたりの探索をして、採取をしたり魔物を倒したりした。
メルがお目当てにしていた魔物も無事にメルに捕食されることとなった。美味しかったようだ。
そういう目的のことが終わって、街に戻ったら――どうやら奇跡的に件の貴族令嬢が生きていたらしく救出されたことが分かった。