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ダンジョンに潜る ⑦

 翌日、想像していた通りに噂が出回っていた。

 令嬢たちはまだダンジョンから救出されていないらしい。ダンジョンで魔物を相手にするだけの力がないのに、ダンジョンに潜ったダンジョンの自業自得である。

 ――令嬢が帰ってこない。それはあの二人のせいらしい。

 ――貴族がダンジョンで死ぬなんてことになれば大変なことになる。

 噂話は巡っている。

 そしてそれは『勇者』を名乗る自称『勇者』たちの心を刺激したらしい。

 彼らは『勇者』という存在のことを誤解している。『勇者』とは困っている人を誰でも無条件で助ける、正義の味方であるなどとそんな幻想を抱いていたりもする。

 ただしそれはあくまで理想である。

 歴代の『勇者』たちがどうであったかは俺は知らない。けれども、ネノに関して言えばそういう風に誰かのために戦うとかではない。ネノが『勇者』を全うしたのはあくまでそれを求められたからだけである。

 歴代の『勇者』も大変だったのではないかと思う。

 そういう風に決めつけられてしまって、周りの評判のことばかり考えてしまって動くのも大変だったのかもしれない。

「レオ様、ネノ様、凄い嫌な視線向けられているね。凄い嫌だなぁ」

「気にする必要はないだろ。勝手に周りが色々言っているだけだし。それにしても……自称『勇者』たちは面倒くさそうだけど」

「ん。全部無視。面倒な人はどうにかする」

 メルは面白くなさそうな顔をしている。

 俺たちが街を歩いていると、冷ややかな視線を向けられている。

 令嬢が俺たちのせいで帰ってこないなんていうのは結局、責任転嫁でしかない。

 ダンジョンに潜るかどうかというのは、本人が決めることだ。普通の冒険者であるのならば、それで終わりだ。だけれども帰ってこないのが貴族の令嬢であるという点からこれだけ大騒ぎになっている。

「貴方たち!!」

 街をただ歩いていただけなのに、自称『勇者』の一味に声をかけられてしまった。

 その自称『勇者』一味は、メルをパーティーメンバーにしようとしていた人たちである。

 物凄い目でこちらを睨むように見ている。

 ただ『勇者』を名乗っているだけで本物の『勇者』でもないのに、本物の『勇者』であるネノにそんな視線を向けるなんておかしな話だと思う。この自称『勇者』たちもネノが本物だと知っていればこんなことは言わないだろう。

「何」

「何ではありません!! 貴方たちのせいでご令嬢がダンジョンの中に取り残されているのですよ! 私はその状況を『勇者』として見過ごせません。人としてご自身たちのせいで令嬢が行方不明になっているのならば、助けに行くべきでしょう!!」

「そんな義務はない。あの貴族は勝手についてきた。ダンジョンに入るのは本人の自己責任。私たちは拒否した」

 ネノは淡々と告げる。

 事実のみを告げているのだが、その自称『勇者』からしてみれば面白くないらしい。

「そんなことを言って!! 冒険者ならば貴族令嬢のことを放っておくのはいけないことです。貴方たちはダンジョンの奥に潜るだけの実力があるのでしょう。ならば助けに行って、恩を売るべきです」

「私たち、冒険者ではない」

「え? でもダンジョンに入っていたのですよね?」

「それはただ興味本位。冒険者登録はしてない。貴族は勝手に入った。私たちは何も関係なし」

 俺たちは冒険者ギルドに登録しているわけではなく、本当にただ興味があってダンジョンに潜っただけだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

「でも……貴方たちのせいなのですよ」

「私たちのせい、違う。文句言うならあなたが行く」

「……令嬢は奥の方に行ったのでしょう! そんな奥には潜れません」

「結局自分が可愛い、そして助ける力ない。なら、人に文句言うの違う」

 自分がどうにも出来ないのに、人にはやれというのは結局自分勝手な考えでしかない。力があるとそれを使うことを強要してくる人はそれなりにいるけれど俺はそういうのはなんだかなって思う。

 ネノの言葉にその自称『勇者』は言い返せないらしい。

「で、でも、貴方たちのせいです! 冒険者であろうとなかろうとも令嬢のことは助けた方がいいです! そうしないと貴方たちはまともに生きていけなくなりますよ」

「そんなことない」

 ネノはそれだけ言うと、興味なさげにこちらを見る。

 結局、貴族たちに俺たちが干されると言う事態になったとしても、それはそれで人里離れた場所で生きていくだけだろうし。

 そもそもこの街には冒険者たちが多くいるのだから、助けにはいっているだろう。

 令嬢がダンジョンの奥で行方不明ならば、死んでいる可能性も高いだろうけれど……まぁ、冒険者たちには捜索依頼が出されているのだろうなと思う。

「話はそれだけ? じゃあ、行く」

 ネノはそれだけいって、もう返事をする気もないようである。

 その日は視線が煩わしかったけれど、街で買い物をして宿へと戻った。



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