ダンジョンに潜る ⑥
「あなたたち! 私に雇われなさい!! そうすれば名誉が手に入るわよ」
――そんなことを俺たちに向かって言ってきたのはダンジョンの中でも似たようなことを言っていた貴族令嬢である。
お金と地位さえあればどうにでもなるとでも思っているのかもしれない。
普通の平民や冒険者だったらまずこういう貴族相手には逆らえない。だって貴族は権力を持つから。
だからまず俺たちが簡単に断るのを見て、俺たちがどういう立場とかを想像したりとかしないのだろうか?
俺はともかくネノは『勇者』なので、そこらの貴族よりは権力があるし。
「無理。邪魔」
ちなみに今、居るのはダンジョンの入り口だ。
俺たちは今日もダンジョンに潜ろうとしていて、それで貴族令嬢と遭遇したのである。それにしてもあれだけ危険な目に遭ったのにまた潜ろうとしているのか……ってびっくりする。
ネノは興味なさげに彼らを一瞥して断っていた。
「レオ、メル、行く」
「ああ」
「うん」
俺たちは別にそいつらを相手にする必要も何もないので、ダンジョンにそのまま潜ることにする。
「待ちなさいよ!!」
後ろから声が聞こえてきたが、俺たちは無視してダンジョンの中へと潜った。ダンジョンの中にまで追ってくる可能性もあるけれど……まぁ、ついてこないほどのスピードで潜れば問題はないだろう。
「ああいうのうざい」
ダンジョンを下りながらネノが淡々とした声でそういう。
「面倒だよな。ネノが『勇者』だって知ったらそういうことは言わなくなるだろうけれど」
「『勇者』でもそういうこと言ってくる人いる」
「その時はその時だな」
「うん。私はやりたくないことはしない」
ネノの『勇者』という地位はとても偉大だ。『魔王』を倒した英雄で、誰よりも名が知られている存在。
だけれどもそんなネノにだって横暴な態度をする人はいるのだ。俺とネノが離れている間に、ネノは本当に色んな嫌な思いもしてきたのだと思う。『勇者』は華やかな地位ではあるけれども、良いことばかりではないだろうから。
そんなことを考えながらダンジョンの奥へ奥へと進んでいく。
相変わらずメルは張り切っていて、人目がないからと本来の姿に身体を変化させて魔物にとびかかったりしていた。ダンジョンは不思議な空間だからメルが本来の姿でいても問題ない広さはある。ただメルがドラゴンの姿でうろうろしていればダンジョンの魔物と間違えられて攻撃でも受けそうな気もする。
『レオ様、ネノ様、このお肉美味しいよ!』
メルは嬉しそうに声をあげながらバクバクと魔物の肉を生で食べていた。
そうやって魔物を倒したりしながら奥へ奥へと進んでいく。
ダンジョンのボスを倒すのは、俺、ネノ、メルで交互に倒していった。特に苦戦するような相手はいなかったので、どんどん進んでいく。
しばらく奥まで潜って、満足するだけ潜れたので俺たちはダンジョンから出ることを決めた。
俺たちがダンジョンの入り口へと戻った時に、その場は騒がしかった。
俺たちに気づいた兵士が慌てて近づいてくる。
「君たち、令嬢は一緒じゃないのか??」
「なんで一緒に居ると思ったの?」
兵士は俺たちが令嬢と一緒に居るように思っていたようだ。
ネノが不思議そうに言った言葉に、兵士は激高したように言う。
「どうしてだ! 令嬢は君たちについていったはずだ。どうして君たちは彼女と一緒じゃないんだ??」
「知らない。一緒に行ったわけではない」
「しかし……令嬢に何かあれば大変なことになるんだぞ? それなのに気にしないなど!! 君の冒険者人生も終わってしまうかもしれないのに」
「冒険者じゃない。潜ってるだけ。どうでもいい。潜ったら自己責任」
ネノはそう言い切る。
そうダンジョンに潜るというのは、自己責任である。貴族であるかどうかなんて正直いえば関係ない。でも関係ないとしても言われていても結局貴族令嬢であるという地位を周りは気にするのだろう。
「レオ、メル、帰ろう」
「ああ」
「うん」
俺たちにとって本当に自己責任であるとしか言いようがないので、そのまま泊っている宿へと戻ることにした。
なのだけど、兵士や周りにまた止められる。
「――君たちをおいかけて帰ってこないんだぞ。それに彼女は貴族の令嬢だ。見つからないというのは問題になる」
「知らない」
「君たちが冒険者じゃなかったとしても貴族令嬢に恩を売っておくべきだ」
「うるさい。探したいならそっちで探して」
ネノはばっさりとそう言い切った。
もしかしたらこの兵士は貴族令嬢がダンジョンに時々潜っているというのもあり情でもわいているのかもしれない。
結局、俺たちはそのまま宿へと戻った。兵士とかは色々言っていたので、もしかしたら後で嫌な感じに噂になったりはするかもしれない。




