ダンジョンに潜る ④
ダンジョンの魔物たちが強力になっているという話だけど、俺たちにとって特にその実感はわかなかった。ダンジョンの中で魔物達を倒しながら進んでいるけれど、今のところ、そこまで戦い甲斐のある相手はいない。
素材は手に入るので、その点は満足しているけれど……今のところ、それだけだ。
奥の方へと進んでいって、それなりに時間が経過した。
「ねぇねぇ。レオ様、ネノ様、結構飽きてきた!」
「そうか。一旦帰るか? ネノ、どうする?」
「私もそろそろ、帰る気分」
メルが飽きたと口にするので、ネノに問いかければ、ネノにもそういわれる。
まぁ、俺もダンジョンは面白いなと思っているけれどずっとこもっているのも飽きは感じる。十層ごとの帰還ポイントに登録をすれば、何度でもそこから始められるらしいので次の帰還ポイントで一旦帰ることにする。
メルは帰るということを決めると、嬉しそうに笑って気合を入れたようだ。
ちょっと暴走気味に突撃して、ダンジョンの壁に思いっきりめりこんだりしていた。本当に何をしているんだろうか……。まぁ、メルならダンジョンにめりこもうが、死ぬことはないので問題はないけれど。
「レオ、お腹すいた」
「家帰ったら作るよ、ネノの好きそうなもの」
「ありがとう」
お腹がすいたといいながら俺に近づくネノは可愛い。
ダンジョンの中だけど、気にせずネノに口づけをしてしまったぐらいだ。その途中に魔物が襲い掛かったりしたけれど、さっさと倒した。
帰還ポイント前のボスに関しては、張り切っているメルが瞬殺していた。
一瞬過ぎてボスが可哀そうになるレベルである。ちなみにそのボスは電気を帯びた四足歩行の魔物だった。多分、一般的な冒険者はその電気に苦戦して負けたりしてしまうのだろうと想像が出来る。
俺もネノもそういう魔物に触れずに倒すことも出来るし、そもそも接近戦でもやりようは幾らでもある。でもそれは俺とネノだからであり、普通の人はおそらくその対策に苦戦するはずだ。こういう特異属性を持つ魔物に対する対策の防具や道具は大変よく売れるらしい。
ダンジョンに潜る冒険者というのは、そういう対策をせずに命を落とすものも多いとも聞く。
この街ではそういうのはよく売れるらしいから、宿を開くときにそういうものも売っていてもいいのかもしれないと思った。
「こういうびりびりのも食べれるのかな」
「うまく処理したら食べれると思うから、一旦保管するか」
メルは死してなお、びりびりとした電気を発しているその魔物をみながら食べたそうにしていた。多分普通に食べたら食べられないだろうから、うまく処理することは必要そうだ。
ただこの魔物に関する処理方法を俺は知らないので、一旦調べてからにすることにする。《時空魔法》でしまっておく。
こういう食べられるか分からない魔物をうまく処理できると嬉しいからな。それにしてもダンジョン内だと見たことがない魔物もいるから処理したりするのも知識がいる。
その後、俺たちは帰還ポイントからダンジョンの外に出た。
ダンジョンの入り口にいた兵士は、メルを見てほっとした様子をしていた。見た目が子供なので、メルが死んでしまうのではないかと相変わらず心配していたらしい。
メルが「僕はこんなダンジョンぐらいでは死なないよ」と言っても、信じていなさそうだった。
あと俺とネノも服に汚れもついていなくて、全く入るときと変わらないように見えたからかダンジョンの浅い部分にしか入ってないと思われてしまった。下の方まで行ったといってもこの兵士はなかなか信用しないだろう。
ダンジョン内で手に入れた素材も今のところは、どこかに卸すつもりもないし。
別に俺たちは冒険者ギルドで登録をしているわけでもないので、そのあたりを報告する必要も特にないし。
そういうわけで適当に兵士と話した後に、俺たちは宿へと戻った。
宿のおばあさんはダンジョンに行ったのに全く疲労の様子も見せない俺たちに「流石だね」と笑っていた。
おばあさんに許可を得て、台所を借りる。
作った料理をおばあさんにもおすそ分けして、借りている部屋で俺たちは食事を取った。
「レオ、おいしい」
ネノが小さく笑ってくれて、俺は嬉しい気持ちになった。
翌日は一旦また街をぶらついてから、夕方にダンジョンに潜った。
二日続けてダンジョンに潜る俺たちを入り口の兵士は心配そうに見ていた。悪い人ではないと思うけれど、大丈夫なのに止めようとされると少し困る。
兵士からしてみればメルが前に無事だったのは運が良かったからとでも思っているらしい。
宿を開店したら俺たちが『勇者』夫妻だってわかるからこういうことは言われれないだろうけれど、その前に潜って遊んでおきたいからなぁ。そんな気持ちでその日もダンジョンに入った。