ダンジョンに潜る ①
「本当にそんな子供を連れて潜るんですか?」
この冒険者の街にあるダンジョン、そこの入り口で俺とネノは信じられないものを見るような目を向けられる。
それはメルをダンジョンの中へと連れていくことに対する警告である。
メルの本性はドラゴンであり、並みの人間よりは断然強い。だけれども人の姿をしたメルは美しい少年でしかない。そんな風に言われるのも仕方がないのかもしれない。
俺とネノがダンジョンに潜ることを言えば、メルは当然のようについていくと告げた。
許可を取るために、ネノが本物の『勇者』であることを一人には知られてしまったけれど、公に広まるまでそれを広めないように言っているので問題はないだろう。
さて、『勇者』であるネノのお墨付きであるということでメルもダンジョンに足を踏み入れることが許可されたわけだが、人の少ない早朝の時間にやってきても……やっぱりそれなりに此処には人がいる。
「僕は問題ないよ! そもそも此処の魔物程度に負ける僕じゃないし」
メルが自信満々にそう告げる。
メル自身がそう言ったところで、ダンジョン入り口の兵士は心配そうな顔をしていた。彼からしてみれば、こんなに幼い子供をダンジョンに連れ出す人でなしのように俺とネノのことが見えているのかもしれない。
ひとまず正式に許可をもらっていることを知ると頷いてくれたが、人でなしのように見られるのは何だか嫌な気分だ。
「あの人間、僕のこと見くびりすぎ。こんなダンジョン程度で、僕が危険な目に遭うわけないじゃん」
「メルがただの人間の子供にしか見えないからだろ。まだ幼いメルを俺たちは連れまわしている悪人のように見えたんだろ。まぁ、ダンジョンから出る時に元気な姿を見せれば問題ないと思うけどな」
これからもダンジョンにはちょくちょく潜る予定なので、毎回メルが元気な姿を見せていればあの兵士の態度も軟化することだろう。
初めてのダンジョンは何だか不思議な感覚になった。
普通の自然環境とは何だか違う、不思議な魔力が漂っている。
今はネノの手によって『魔王』が倒された後なので、魔物もそこまで多くない。ただ『魔王』がずっと存在し続けていれば、この場所からも魔物が溢れ続けていたことだろう。ダンジョンで荒稼ぎすることを目標にしていたものにとっては、ネノがさっさと魔物を倒したことを逆恨みしている馬鹿もいるらしい。
冒険者は基本的に、力のあるものに憧れている。でももしかしたら色んな冒険者が集まるこの街だと、ネノのことを恨んでいるものもいるかもしれない。最もそういう存在が居たところで、どうにでもするだけだが。
此処の街のダンジョンは地下迷宮型である。地下にどんどん潜っていく形だ。
ダンジョンというのは不思議な魔力の充満している場所なので、実際の物理法則を無視していたりもする。多分、《空間魔法》の一種が作用しているのだと思う。そうでなければこんな空間生み出せないだろうし。
浅い階層には、主に冒険者になりたての者ばかりがいるものらしい。実際にそこに生息している魔物は弱いものばかりである。そういう魔物はそもそもメルのドラゴンの気配を感じて俺たちの前に出てくることはほとんどなかった。出てきてもメルが遊びながら倒していたし。
というわけでどんどん下に下ってみる。
ちなみにどういう理屈かは分からないけれど十階層ごとに帰還ポイントがあるようだ。ダンジョンとはそういう仕組みのものらしい。ただ難易度の高いダンジョンだと、帰還ポイントがなく、大変だったりするようだが。
何故ダンジョンがそう言う仕組みになっているかはまだまだ解明されていない。一説では、ダンジョンは冒険者を呼び込むことによって何か得をしていると言われている。冒険者を呼び、それなりに攻略してもらわなければならない何かがダンジョンにはあるのだろう。だからこそわざわざそういう仕組みになっているのだ。
ダンジョンに宝物がおかれているのも、言ってしまえば冒険者を呼び出すための餌であると言える。
「ちょっとずつ面積広くなってる?」
「そうだな。上の方だと狭いエリアだったが、下に行けば行くほど、一階一階が広くなっている。こういう風だから途中で力尽きる冒険者もいるわけか。それにしてもよっぽどの実力者じゃないと、広いエリアの探索は難しいだろうな」
「だから、弱い冒険者、上ばかり。でも下の魔物を倒さないと、時々溢れる」
ダンジョンでどんなふうに魔物が生まれているかは分からないが、倒されなければ増えていくのは当然であろう。
ダンジョンを有している街というのは結構管理が難しいものらしい。
初心者の冒険者ばかりの街であれば浅い階層しか者が倒されず、時々奥から魔物が溢れることもあるらしい。
だからこそ、街に定住して、街に雇われているそこそこ高位の冒険者というのもいるらしい。