冒険者の街に到着 ⑤
「貴方が噂の少年ね! 是非とも私たちと一緒にパーティーをくみましょう!!」
「君が居れば俺たちは本物『勇者』に――」
メルを連れて歩いていると、俺たちは囲まれてばかりである。
本物の『勇者』とその夫であるネノと俺ではなく、一緒に居るメルにばかり注目を向けているのは、良い隠れ蓑ではあるけれども……なかなか面倒な事態だ。
俺とネノのことを侮っているのか、俺たちを買収してメルを引き取ろうとする者もいる始末である。正直そこまでお金にも困っていないし、そもそも幾らお金を積まれてもメルを渡す気はない。
そもそもお金で人を買えると思っている者がそれなりにいることにも驚く。奴隷もいるが、だからといって借金をしているわけでもない子供を金で買うと言うのは何とも言えない気分だ。
それだけこの場所が冒険者の街で、荒くれもののような人たちが多いのかもしれない。あとはダンジョンがあるからこそよそからの来訪者も多く、治安も荒れている地区もあるようだ。
メルが一緒にいると、目立ち、色々と厄介なのでしばらく宿にいてもらうことにした。メルは「僕も見て回りたいのに。むかつく」と怒っていたが、俺とネノがしばらくだからというと大人しく宿で過ごすことにしたらしい。
メルが退屈しないように、本なども置いていった。
俺とネノだけで外に出るとメルのことで話しかけてくる人もいたが、それ以外では概ね目立っていなかった。俺とネノよりも、自称『勇者』たちの方が目立っているぐらいである。これはネノが本物の『勇者』だとバレたらどれくらいの騒ぎになるのだろうか。
ネノと一緒に冒険者の街をぶらぶらとする中でも、やはり自称『勇者』たちの姿が沢山見える。自称『勇者』たちはそれぞれ好きに動いていて、とても目立っている。
自称『勇者』たちの中にもそれなりの実力者も数少ないがいるらしい。ダンジョンに潜ったり活躍している人たちは、別に自称『勇者』を名乗らなくても活躍できそうなのになと思う。まぁ、本当に自分の力だけで成り上がれる者たちは自称『勇者』なんてしないだろうから、自称『勇者』を名乗る者達はそれなりの実力しかないということなのだろう。
「ネノ、あとでダンジョンに行くか?」
「うん」
「宿やる前がいいよな?」
「うん」
この冒険者の街でも宿を俺たちはやる予定である。流石に宿をやり始めたら俺たちが『勇者』夫妻だということは公になるだろう。その前にダンジョンに潜って遊ぶのもいいかもしれないと思ったのだ。
ネノは『勇者』をやっていた頃にダンジョンに潜ったこともそれなりにある。でも俺はずっと村でネノの帰りを待っていたからダンジョンは経験したことがない。
ネノと離れていたのはたったの半年だけれども、ネノはその半年で大きな成果をあげていて、その間ネノは俺が経験したこともないことを沢山経験していた。
ネノとダンジョンに潜れると思うと、俺は結構ワクワクしている。
「ダンジョン、レオと一緒なら楽勝」
「俺とネノが一緒なら苦戦何てしないだろうしな」
「うん。私とレオで苦戦するなら、難易度が高すぎるダンジョン」
ネノはそう言いながらも少しだけ表情を緩めている。
ネノも俺と一緒にダンジョンに潜れることを楽しみにしてくれているらしい。どうせメルもダンジョンに行きたいと言うだろうから、三人で一度潜ってみよう。
ダンジョンというのは、普通の場所とは異なる場所らしいから、俺はネノに教わりながら進むことになるだろう。苦戦何てしないだろうとは思うけれど、ダンジョンって予想外のことも結構起こりうるらしいって話だから。
なので、警戒心はきちんと持っておく。慢心することは、何かしらの失敗につながるものだろうから。
ネノと二人で街をぶらつきながら、ダンジョンに入るための手続きが何かあるのかなども調べておいた。ダンジョンごとに色んな条件があるらしいが、幸いにもここのダンジョンに関しては規制が緩かった。
希望者は受付簿に記録し、誰でも入れるものらしい。
流石に年齢が足りない子供は色々条件があるらしいが、大人に関しては自己責任でダンジョンに潜るようにとのことである。ダンジョンでお宝を見つければ富を得られるというのもあり、ダンジョンに潜るものは沢山いるらしい。
ちなみにここのダンジョンはまだ攻略されていない。最深部まで突入すれば、ダンジョンの破壊なども可能だ。とはいえ、此処みたいにダンジョンが生活の一部になっている場所だと攻略されてもダンジョンを残すと言う選択をすることだろう。逆にダンジョンがなくなれば露頭に迷う者が後を絶たないだろうから。
「……メルだけ見た目が子供だから色々条件があるのか」
本性はドラゴンとはいえ、メルは人の姿の時はただの子供なのでそのあたりの条件をクリアできなければメルにはまたお留守番してもらおう。
……メルは「僕も行きたい」って絶対に言うだろうけれど。