冒険者の街に到着 ④
自称『勇者』のパンフレットを見る。
ネノは興味がなさそうだったけれど、俺が興味を持っているからって一緒についてきた。ネノが俺と一緒にならってこうやって一緒にいてくれようとしてくれることが嬉しいし、やっぱり俺のネノは世界で一番可愛いなぁって思う。
それにしても、色んなパターンの自称『勇者』たちがいる。
夫婦にそろえているのはともかくとして、性格設定が色々で、色んな性格がいるのもなんかアレだし。というか、劇みたいな感じ? これはこれで、催しとして面白いと思う。
メル役の小さな子供は、『勇者』の弟とか、『勇者』の子供とかそういう設定になっているらしい。ネノとの子供はいつかほしいけれど、流石に俺とネノに人型のメルと同じ大きさの子供がいたらおかしすぎると思う。そういうところの統合性とかどうなってるんだろうか?
そういう自称『勇者』たちに関しては聞こえてくる本物の『勇者』たちの情報を集めた上で、そういう風だったらと想像して演じているとかそんな感じだろうか。
中でもちょっと面白いなと思ったのは、
「みんなー!! 『勇者』だよ!!」
と声をあげている自称『勇者』たちだろうか。
何故だか分からないけれど、その自称『勇者』グループは舞台の上で、踊って歌っていた。何だろう、旅芸人か何かと『勇者』を勘違いしているのだろうか?? ちなみにその自称『勇者』たちには熱狂的なファンがいるらしく、凄く騒がれていた。
それにお金ももらっているらしい。
『勇者』として旅をするために、歌とダンスでお金を稼いでいる設定だとか。なお、魔物退治などはしていないらしい。普通に自称『勇者』としてではなく、それで食べていけるんじゃないかなとも思った。
「おー、ダンスキレッキレ! 僕も踊る」
ちなみになぜかメルは、そのダンスが気に入ったのか、滅茶苦茶真似していた。メルも運動神経は抜群なので、すぐに踊れるようになっていた。見た目の良いメルが躍っているからか、とても目立っていた。……何で歌って踊っている自称『勇者』たち以上に目立っているんだろうか。
メルが完璧に踊りきると拍手が起きていた。
自称『勇者』たちはどういった反応をしているのだろうかとそちらに視線を向ければ――何故だか、メルのことをキラキラした目で見ていた。此処は注目を奪われたとかではないんだろうか。よくわからない。
「メル、ダンス上手」
「ネノ様に褒められた! やった!」
ネノもメルもマイペースなので、そんな会話を交わしていた。
メルは周りの視線何てどうでもよさそうで、ネノに褒められたことを嬉しそうに笑っている。
これはすぐにこの場から離れたほうがいいかな? なんて考えていたら「そこのあなた!」と大きな声が聞こえる。
それは自称『勇者』からあげられたものらしい。
自称『勇者』の少女と、その相棒の少年がこちらへとずかずか近づいてくる。
なんなのだろうか。
そう思っているとメルの手をがちっと掴もうとして、メルに払われていた。メルはそうやって腕を掴まれたくなかったらしい。
腕を掴めなかった自称『勇者』は少しだけショックを受けた表情を浮かべて、でもめげない様子でメルに言う。
「貴方、私たちと一緒に踊りませんか!」
何だかよく分からない申し出である。
「……なんで?」
「なんでって、『勇者』は貴方のような美しい少年を連れています。あれだけ踊れるなら、私たちと一緒に、稼げるはずです!!」
この場でメル役を調達しようとしているらしい。まぁ、周りもこの街の自称『勇者』たちがあくまでも本物の『勇者』ではないことは把握しているからこその行為だろう。とはいえ、此処にいるのは本物のメルなのだが。
「嫌だよ。僕、稼ぐのとか興味ないし。そもそもそういう人間の――」
「悪いね。メルが望んでいないようだから、諦めてくれるか?」
自分が人間ではないといった発言をしたら益々メルをメル役にしようとされそうなので、割って入って置く。
それにしても本物のメルに、メル役を頼もうとするなんて中々面白い状況だと思う。
俺の言葉に自称『勇者』はがっかりした様子で諦めた様子だった。でもその自称『勇者』たち以外はそうではないらしい。
自称『勇者』が騒ぐからこそ注目を浴びていて、他の多くの自称『勇者』たちがこちらを見ているようだ。中には今のメル役から、メルをメル役におさめようと話しているのも聞こえた。何だか面倒なので、ネノとメルに声をかけて俺たちはすぐにその場を後にした。
そして宿へと戻る。
宿屋のおばあさんは相変わらずどこから情報を仕入れてくるのか、「本物の『勇者』夫妻とその連れにうちの街の『勇者』たちが絡むなんて面白いことだね」なんて言っていた。
そしてその翌日、昨日の騒動がそんなに広まってなければいいなと思っていたのだが……、街に出たら早速絡まれてしまった。




