冒険者の街に到着 ③
着替えてから、街をぶらぶらと歩く。
冒険者の街だというのだけあって、冒険者が沢山いる。これだけの数の冒険者がいるのを見るのは何だか壮観だなと思った。
俺とネノの住んでいた村は小さな村だったから、こういう場所に来れると心が躍る。
ネノと一緒に世界を見て回る事はずっと二人の夢だったから、こういう新しい場所に行けることがとても楽しいと思う。
それにしても冒険者が沢山いる街だからこそ、荒くれ者のような冒険者も沢山いるようだった。
だから喧嘩をしているものたちもたまに見かける。
メルが何だか面白そうな顔をして、そちらを見ていた。何だか混ざりたそうにしているメルを掴んで、飛び出さないようにさせる。
「メル、目立った行動はしないように」
「分かっているよ。レオ様ー! でも喧嘩している人たち結構多くて、何だろう、混ざったら楽しそうだなぁって」
「駄目だって」
「分かっているよ」
なんて言っているけど、本当にわかっているのだろうかと少し心配な気持ちになった。
ただメルにちょっかいを出す相手がいるのならば、それはやり返すのは仕方がないと思っているけれど。
「レオ、武器屋も多いね。素材屋とか」
「ああ」
武器屋や素材屋が多いのは、やっぱり冒険者が多いからだろう。あとはダンジョンがあるからこそ、こういう店が栄えているのだろう。ダンジョン目当てにこの街に留まっている冒険者や、このダンジョン目当てに外からやってくる冒険者。沢山の冒険者の姿が見られる。
ネノと手を繋いで歩いている。
メルはもう片方の手でつかんでおく。メルはすぐにでも飛び出しそうだ。何だかメルが興味を引くものが沢山ある様子。
そしてそうやって歩いている間に、『勇者』という単語が聞こえてきた。まさか俺たちが此処にいることがもう知られたのだろうか……って思っていたらどうやら違うらしい。
違う存在が『勇者』だとか言われていて何だろうと思って、周りにいる冒険者に声をかけてみる。
「自称『勇者』がいるんだ」
とかいうそういう話だった。
どうやら冒険者たちは、『勇者』に憧れる者が多く、誰がやりだしたのか不明だが、自称『勇者』が続出しているらしい。初めに『勇者』を名乗った二人組は本物の『勇者』だと信じられていたらしい。ただダンジョン内で依頼に失敗し、逃げかえってきた時に実際の『勇者』ではないと発覚したらしい。
ちなみにその自称『勇者』たちに関しては、『勇者』が夫婦だという噂を聞いて、二人組でいっているらしい。あと面白いのはメルの偽物みたいなのも連れているものもいるらしい。
というか、最近は自称『勇者』がこの冒険者の街の名物になりかけているようだ。……俺もネノもそれを想像していなかったのでちょっと驚いた。まぁ、ネノはそういうのどうでもよさそうだけど。
そうやって何も気にしていないのが、ネノらしくて、そういうところも好きだなと思った。
俺たちが夫婦で旅をするようになってから、この自称『勇者』が名物になったのならば最近名物になっているのだなと思う。
街の人たちの話を聞いたところによると、誰もその自称『勇者』たちの中に本物がいるとは思っていないらしい。それはそうだろう。というか、それだと本物の俺たちが此処にいても本物だと思われない可能性が高いか。
とりあえず宿を開始するまではのんびりして、宿を開始したら俺たちが本物だとは流石にバレるだろうけど、それはそれでいいしな。
「自称『勇者』は何人かいるみたいだけど、やっぱりネノが一番可愛い」
「レオも一番かっこいい」
面白いことに、自称『勇者』の一覧のパンフレットみたいなのもある。『勇者』っていうよりも、何だか街の有名人的な役割らしい。それぞれにファンがいたりとかするようで、本物の『勇者』であるとかどうでもよくて、ただただ人気を競っているようだった。
「何で、僕いないの? 僕連れていても普通の人間だし」
「普通に考えてドラゴンと一緒に旅はあんまりできないだろう」
メルは何だか自分の代わりにいるのが、普通の子供なことに不満そうだ。
というか、俺たちがメルを連れていることは知っていても、こんなに離れたところまではメルがドラゴンだっては広まっていないだろうし。そもそも広めたところで、メルのようなドラゴンを連れてくることは出来ないだろうし。
メルが軽い調子で「ネノ様とレオ様は『勇者』だよ」って言ったら笑われた。多分、冗談だと思われたのだろう。
でもそう考えると宿屋のおばあさんは、自称『勇者』の人たちを知っていたはずだけど、俺たちを本物の『勇者』だって思ったみたいだし……。何だか不思議な雰囲気の宿屋を経営しているおばあさんだから、そういう勘とか、情報網とか凄いのだろうか?
面白そうなので、自称『勇者』たちをちらほら見に行くことにした。
メルは「レオ様とネノ様の方が凄いよ」と自称『勇者』たちに小声で駄目だししていた。