冒険者の街に到着 ②
「わぁ、面白い雰囲気の宿だね!」
たどり着いた宿で、メルがはしゃぎながらそんな声をあげた。
街で宿に関する情報収集をしている中で、出会った女性――フヤさんの知り合いがやっている宿は、想像していたよりも面白い宿だった。
中の雰囲気が独特というか、隠れ家みたいな雰囲気の宿だ。
しかも人通りから外れた場所にあって、お客さんも見つけにくそうな場所だと思った。そこの宿屋の店主は、年老いたおばあさんで、それがまたこの宿の雰囲気を良くしているように見えた。
こういう宿も面白いなと思わず興味深く見てしまう。
「こういうのいいね」
「ああ。参考にするのもありかも」
「こういう不思議な雰囲気ってたまにくるからいいんじゃない?」
そんな会話を交わしながら受付を済ませる。
そのおばあさんに「あんたたちも同業者かい?」などと聞かれる。会話から宿をやっていたことが分かったのだろう。
「はい。俺たちも宿をやっているんです」
「へぇ、宿は休んでいるのかい?」
「そうですね。一休みしています。ただすぐに宿は開業できますが」
「開業出来る?」
「《時空魔法》を使えるから、持ち運べるんです」
「……あれ、あんたたち、もしかして『勇者』夫妻かい?」
おばあさんは一瞬驚いた顔をして、そんなことを問いかけてきた。『勇者』であるネノが俺と一緒に宿をやっていることは噂になっているらしい。
「そう。おばあさん、私たちのこと、知っている?」
「ってことは、このお嬢ちゃんが『勇者』かい。こんな可愛い子が『魔王』を倒したのか……。
信じられない。しばらく行方不明になっていたと言う話だが……」
「ちょっと人気がない所にいただけ」
ネノがそう答えたら、おばあさんは面白そうに笑った。ついでに俺たちがこの街に滞在していることを広めないようにも頼んだ。おばあさんは頷いてくれた。
宿の部屋は、一部屋でとった。
メルは「えぇ、二人と一緒だと落ち着かないし、いちゃいちゃするなら僕、一緒の部屋じゃない方がいい?」なんて言われたけど、俺とネノもメルがいる前で流石に大人の時間にはならないのでそういうの気にしないでいいんだが。
その広い部屋は色んな飾り付けがされていて面白かった。
部屋の中も遊び心満載というのは、面白いものだと思う。
「わぁ、こういうのも面白いかもー」
メルがそう言いながら面白そうにベッドで飛び跳ねて……勢いをつけすぎたのか、天井にぶつかりそうになったので、魔法で回収した。別にメルが怪我をするだけなら問題はないけれども宿が壊れたら大変だから。
メルは「あ、ごめん」と言いながら大人しくなった。
まったく、ドラゴンだからといってそういう加減がないのは困る。
じっとメルを見たら、「……も、もうしないから怒らないで!」と言われる。ネノが頷いたので、これ以上追及しないことにする。メルがほっとした顔をしていた。
「それでレオ、しばらくこの宿にいるとして……その後どうする?」
「とりあえず少しのんびりしたら、宿を建てられる土地を借りるか。それとも宿は一旦やめておいて、ダンジョンにでも潜るか?」
「んー。悩む」
「ゆっくり考えるか。時間はあるし」
「うん」
それにしても冒険者が沢山いる街だからこその独特な一面がきっとこの街にはあるはずだ。そういう面を見た上で、宿をどんなふうに運営するか考えてもいいかもしれない。あとは借りられる土地があるかとか調整もしないといけないし。
あんまり『勇者』が此処にいると騒がれると面倒だから、しばらくはバレない限りゆっくりする方向の方がいいだろう。
「明日また街を見て回る予定だけど、二人で行く?」
「ん。レオとデート」
そんなこんな俺とネノが話している間に、メルは一つのベッドを占領して眠っていた。新しい街について少しはしゃいでいたからだろうか。本当にそこでただ眠っている様子はただの少年にしか見えない。こういう人の出入りの多い街だと、メルに目を付けるような人も多いかもしれない。
メルには改めて、そういう連中に絡まれた時のことを話しておいた方がいいかもしれない。
「メルもう寝た。早い」
「そうだな」
「……メル、ぐっすり。キスぐらい出来るから。する?」
「ああ」
ネノがキスをしたいといってくれたので、口づけを交わす。流石に同じ部屋にメルがいるので、それ以上のことはしないけれど口づけぐらいならいいだろう。
そして口づけを交わした後、ネノと一緒にベッドに入る。部屋の中にベッドは二つあるので、メルが眠っていない方のベッドにだ。
ネノを抱きしめて、眠りに付いた。
そして翌日、「レオ様、ネノ様、朝だよ!! 起きて!!」という元気なメルの声に起こされる。昨日、一人早く寝たため、早起きしてしまったらしい。
あまりにも騒いでいたメルは、「煩い」というネノの言葉と共に吹き飛ばされていた。壁にぶつかる前に魔法でメルを回収しておいた。




