俺の『勇者』(嫁)が『魔王』退治を終えたらしい。
『魔王』とは時折この世界に現れる災厄の名を指す。
『魔王』が出現する頻度は決まっておらず、今回は前回の『魔王』が現れてから百年ほど経過して『魔王』が出現した。
さて、今代の『勇者』ネノフィラーは、まだ十六歳の少女である。
雪を思わせる真っ白な髪と、黄金にきらめく瞳を持つ美しい少女だ。その剣技と魔法の腕前は他を突き放している。
『勇者』という言葉が良く似合う美しき、最強。
ネノフィラーは元々、只の村人である。この国の辺境の地に住まう村人。しかし、十六歳の誕生日に聖痕が現れ、『勇者』として選ばれた。
『勇者』として選ばれたネノフィラーは王都へと迎えられ、『魔王』退治に相応しいパーティーメンバーが選出され、たった五人で『魔王』退治の旅に出た。
『勇者』ネノフィラー。
第二王子であり、剣術と魔法共に優れているテディ・アリデンベリ。
最強の騎士と名高い若き騎士団長ドゥラ・カラスコ。
魔の申し子と言われる魔法使いジュデオン・ラヤーム。
聖魔法の使い手である神官ボリス。
『勇者』のみが女性で、後は男性であった。
美しくも強い『勇者』ネノフィラーに、四人は夢中であった。
口数は少ないが、気遣いが出来優しくも強い『勇者』ネノフィラー。
彼女の気を引こうと、四人はあらゆる手を使ったものだが、『勇者』のネノフィラーは彼らに興味がなさ気であるという噂である。
『魔王』退治をたった半年で終えた最強の『勇者』パーティー。
王都へと戻った後に誰が『勇者』の心を射止めるのだろうと噂されているらしい。
が、『勇者』の生まれ育った村ではそんな噂は一笑されていた。
それもそのはずである。
『勇者』ネノフィラーが、『勇者』パーティーと結婚しない事を彼らは知っている。
俺——レオニードもネノフィラーが『勇者』パーティーの誰とも結婚しない事を知っている。
というより、『勇者』ネノフィラーが誰の嫁であるのか知っている。
「レオ、ネノは『魔王』退治終えたなら帰ってくるんだな」
「奥さんが半年も『魔王』退治に行くとか災難だったなー」
「あのネノが他と結婚するはずねーよな」
同じ村の連中は『勇者』が『魔王』退治を終えたという事を聞いて口々に俺に向かってそう言い放ってくる。
そう——、『勇者』ネノフィラーは俺の嫁である。