第一話!
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朝の日差しは何よりも敵である。
これが俺の持論であり何よりも端的に自分の状況を表していると思う。
「朝ってなんで毎日来るんだろう。」
それは、いつも思っている事であるので何故自分の現在の状況を端的に表しているのかというと、
〝ドンドンドン〟
この扉を叩く音に起因している。
「おーい。藤田さーんいるのはわかってるんですよ。開けてくださーい。早く開ける方が身の為だと思いますよー。」
なんども聞いたドスの効いた声が外から聞こえて来る。
あいつだって最初はこんな声じゃなかった。もっと温厚そうに柔らかい声で話していたじゃないか。
まさか、こいつ別人か!
なんてな。これがこいつらのやり方さ。
藤田と呼ばれる家の中にいる男が現実逃避をしている間に扉は無情にも開かれる。
「藤田さーん。やっぱりいるじゃないですかー。最初から開けてくださいよ。」
男はニッコリと笑顔を向けている。しかしそれが本当に心から笑っていない事など一目瞭然である。
「いやー。笹野さんお久しぶりでございます。え、俺のこと呼んでたんですか?全然気づかなかったですよー。呼ばれて開けないわけないじゃないですかー。」
「藤田さーん。いつまでその茶番を続けるんですかー?お金はもちろんよういできてるんですよねーぇ。」
いかん。笹野さん目が本気だ。今日は本気で待ってくれないやつだ。とりあえず状況の整理だ。
俺は25歳(無職)。かつてはバスケットボールのスター選手で学生時代にはかなりチヤホヤされていた。その後一流企業に就職するが、会社の突然の営業不振によりリストラ。現在では五百万ほどの借金があり、笹野とかいう強面のお兄さんにお金を取り立てられている。まさに今ここ状態である。
もちろん彼女なんていやしない。嫁ならたくさんいるがどうやら二次元において来ちまったようだ。全く俺も罪な男だぜ。しかし!俺はDTではないのだ!これが唯一他のヒキニートに優っている点であろう。これだけは高校時代の俺に感謝したいねっ!
いかん、ついつい現実逃避してしまっていたようだ。
そう、自分に言い聞かせて今まさに直面している問題へと向き直った。
それにしてもどうやって笹野は入って来たんだ。入って来るまでの間に窓から逃げるつもりだったというのに。
すると後ろには見慣れたボンバーアフロの小柄なシルエットが見えた。
その手にはこのアパートのマスターキーが握られている。
(う、裏切ったな、大家ーーーー!!
てめぇ、覚えとけよ。絶対アフロの中にガムとか吐いてやる。家賃なんて払ってやらんぞ!)
心の中で大家に対して怒りを募らせていると痺れを切らした笹野はさらに藤田に迫って来た。
「払えるのか払えないのかはっきりしろや!1000万あるんかないんかどっちや!」
ドスの効いた声は寝起きの藤田の目を覚まさせるのに十分な効果を発揮した。そして何より驚かされたのは1000万という額面である。
「いや、1000万はおかしいでしょ!先週は500万でしたよね!?」
「あのなぁ。借金には利子ってゆーもんががあるんや。」
「そんなの、どこかのVシネの悪役が言う暴論じゃないですか!暴利にもほどがありますって!」
「つべこべ言うなや!ええからとっとと払わんかい!」
そう言うと笹野は胸ポケットから刃渡り30㎝ほどのドスを抜き、藤田に向け突き出して来た。
「いやいや、これって脅しってやつですよね?本当は刺さないあれですよね?でも、なんかフラグ立っちゃってません?そんなこけた拍子にグサって刺して「いや、やるつもりは無かったんです」ってそんなドラマティックなことないですよね?」
そう言いながらも藤田は刃先にビビりながらジリジリと下がって行く。それにつられるように笹野も藤田ににじり寄って行く。
「お前にはすでに保険金がかかっとるんや。殺されたく無かったらとっとと金を工面せい。」
「払いたくても払えないから困ってるんですよ。」
藤田はついに壁まで追いやられこれ以上下がるところがなくなってしまった。
笹野の目は本気だ。
俺ここで死ぬのかな。全然いいことなかったな。やり直してぇ。全部1からまた始まんないかな。
藤田が諦めきっていると笹野の足元にあった目覚まし時計が鳴り響いた。
緊迫した状況に突然の爆音である。笹野は動揺したのかビクッと体を震わせ音の震源地を探す。
さすがはネットで噂の世界一うるさい目覚まし時計である。
ここだ。このすきに逃げるしかない!
藤田が決意するのに時間はかからなかった。
動揺して慌てふためく笹野の横をすり抜けドアに向かい一直線に走りぬけ外に逃げだすーーーことはできなかった。
そこにはドアの目前で肩をがっちりと掴まれ動けなくなった一人の男と怒り心頭の強面のお兄さんがいるだけだった。
「藤田ぁ。逃げるとはええ度胸やのう。」
笹野は藤田の喉元ドスの切っ先を突きつける。
「さ、笹野さん。ち、違うんです。出来心なんです。イタッ。ちょっと刺さってますって。」
そして、ここで不運が藤田を襲った。目覚まし時計のスヌーズ機能が鳴ったのである。
目覚まし時計が鳴った瞬間、反射的に笹野のドスが藤田の喉を突き刺した。
「ゴフッ。ガッ。」
笹野はドスから手を離し後ろに倒れこんだ。
半ば放心状態のようで一切状況を理解できていないようである。
藤田は吐血し何か喋ろうとしても声帯を貫いているドスのせいで何も言うことはできない。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ。アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ。
藤田は喉に強烈な痛みと熱を感じ苦しむ。
しかし少しづつ痛みは和らいでいき次第に意識も薄れていく。
いや、本当に、死にたくねぇよ。笹野め、だから言ったのに。本当に刺すなよ。500万で死ぬ男とかシャレにならねーよ。
最後に見るのが男の泣き顔とかほんとに嫌…
そして藤田は息を引き取った。
ーーーーーーーーーー
「おい。おーい。起きろー。」
藤田は手荒な扱いで無理やり意識を覚醒させられた。
頬の痛みを感じる。そこを触ると熱を持っている。生きているのだ。
「え、俺、生きてる?」
藤田が状況を飲み込めていないでいると正面に女が歩いてくる。
おいおい。美人すぎだろ。しかもなんだあの胸は。何詰まってんだよ。爆発するんじゃないか。
藤田が見とれていると突然女は寝転がる藤田の顔に胴回し蹴りを叩き込んだ。腰の入ったいいキックである。
突然の蹴りに藤田は困惑した。しかしそれよりも蹴りの瞬間に見えた黒のパンティーに興奮が隠せなかった。
「これで目が覚めたかしら。」
「はい!覚めました!ありがとうブラック。」
つい口が滑ってしまった。暴力が飛んできたのは言うまでもない。
「ゴホン。では、まず質問と状況の説明を始めますね。」
「え、あ、はい。お願いします。」
状況は理解できんがとりあえず話は聞いておくか。
「あなたは一度死にましたか?」
突然の質問に藤田は固まってしまう。しかし、ラノベ脳の藤田はすぐさま理解した。夢にまで見たあの憧れた状況がいまここにあるのだと。
「わかりました。俺は転生したんですね。」
藤田はニタリと口元に笑みを浮かべる。喜びが溢れて仕方ないのだ。
「ええ、飲み込みが早くて助かります。では、あなたの名前をお願いします。」
「藤田 アツムです。」
「わかりました。これからはアツムと名乗ってください。苗字の方はあまり名乗らないことを推奨します。」
女は医師の診療でもするかのように手に持った紙に質問の答えを書いていく。
質問はいくつかあったがどれも大した質問ではなかった。
「では、質問を終わります。最後にあなたのクラスを言い渡します。」
お、お、クラスだと!職業みたいなもんかな?マジでこれは異世界転生なのかよ。これからの人生は楽しみで仕方ないぜ!
アツムは興奮し前のめりになり、椅子から立ち上がった。上を向き感動の涙を流し、手はグッと握り込まれている。
「クラスは、1のFです。」
「わかりました。僕が魔王を倒して見せま…え?」
目の前に座る女は小さくため息を漏らし言葉を続けた。
「あなたのように勘違いされる方が多いので言いますが、ここは異世界者高等学園です。」
「え?ちょっと、え?あなたは女神で俺に異世界を救ってください的なアレじゃないんですか?それで特別な力云々で…」
アツムはブツブツと今まで読んだラノベのストーリーを一通り説明していく。アツムの脳内書庫にはかなりの量の書物(主にラノベ)がありその話は長々と続いた。
「ええ、そういう人もいるでしょう。しかしその人たちはここには来ず戦士用の召喚ゲートに現れます。」
待て待て待て。嫌な予感だ。こいつ女神じゃなかったのかよ。ならなんのためのその巨乳なんだよ。
「まぁさぁかぁ。自分がぁ勇者だとかぁ思ってましたかぁ?」
語尾は煽るかのように伸び、笑顔はアツムを馬鹿にしたような笑顔であった。
それと同時にアツムも自分の勘違いの甚だしさに顔が真っ赤になるのを感じた。
「大丈夫です。あなたのような方は、いっぱいいますので。」
口元を押さえて笑いだすのを我慢しながら女は言った。
ああ、早くここから解放してくれ。転生してもこの扱いはないぜ。
「では、1のFですので、こちらの扉を進んでください。」
言われるがままにアツムは進む。足取りは早い。ここから逃げ出したくてたまらないのだ。
しかしその途中で考える。
(待てよ。でもここは異世界。つまりここにはケモナーとか合法ロリとかいるんじゃないか。それだけでも十分前の人生よりもましなんじゃないか。)
そして扉の前で立ち止まり、振り返りながら女に言い放った。
「この世界には、いるのか。」
女は何を言われているのかわからず頭の上にハテナを出している。
「獣の耳を持った女の子はいるのかと聞いている!」
アツムは叫んだ。それは女を萎縮させるに足るほどの威圧感を携えていた。いや、それは引いていただけかもしれないが。
「え、ええ。いるわよ。」
「ありがとう。それだけで十分だ。俺はまた生きていけそうだ。」
そう言い残し扉を抜けた。
扉が閉まると同時に部屋から大きな笑い声が聞こえてきたのが恥ずかしかったのでまっすぐの道を駆け抜けた。
クソ。絶対に異世界で充実ライフ送ってやる




