思い出の樹の下で(公開当時タイトル無し)
短編小説です。
あまり長くはないので
さらっと読めると思います。
「・・・そろそろ時間かな」
そう言って僕はコートを羽織る。
時計の針は6時30分を指している。
ここから最寄りの駅までは、歩いて約10分。
さらに約束の駅までも約10分。
・・・そして約束の時間というのは7時・・・
きょうはこの日のために用事を早めに切り上げて、この時を心待ちにしていた。
実際、いまも胸の高鳴りを感じている・・・
「クリスマス・・・かぁ・・・」
そう、きょうは12月24日・・・クリスマスイヴ・・・
1年に1度しかない日・・・
「こんな日にこっちに来るなんて・・・もっと別の日でもよかったんじゃないか・・・?」
そんなことを呟きつつも、どうしても頬が緩んでしまう・・・
そうこうしてるあいだに駅に着いてしまった。
・・・予想通り駅構内、さらには車内にいたるまでカップルでごった返している。
こんな時間にこんなとこをひとりでうろつくのもなんかシャクだったが、相手との待ち合わせもある。
駅に着くなり、早足で改札を通りすぎ待ち合わせ場所のクリスマスツリーの根元へ・・・
このクリスマスツリーは、車内からも見えるほどの大きさだ。
・・・実際、位置的にも駅の目の前ということから、カップルたちの待ち合わせ場所として貢献している。
幾つもの電球やら飾りやらに彩られて、寒いはずのこころを和ませてくれる・・・
・・・クリスマスツリーを眺めてるあいだにいつのまにか約束の7時を数分回っていた。
「・・・そろそろだな、あいつはいつも時間通りに来たことないからなぁ・・・」
わずかに笑みをもらしながら、相手の到着を待つ・・・
何気に携帯のメールをもう1度確認する・・・
『12月24日のクリスマスイヴの夜、あの駅のクリスマスツリーの下で待っています。』
『・・・あっ、時間は7時ね~』
・・・あいかわらずそそっかしいヤツだ。
約束するのはいいが、時間を明記するのを忘れているんだから・・・
・・・そのとき、携帯の画面に一粒の白い物が・・・
「雪だ・・・」
周囲のカップル達が一斉に騒ぎ出す。
・・・こんなときほど、ひとりでこんなとこで待っているのがツライと思うことはない。
雪は、積もるのではないかという勢いで降ってきている・・・
「・・・ホワイトクリスマスかぁ・・・」
・・・しかし遅い。
ふと腕時計に目をやると、すでに7時30分を回ろうかというころだ。
雪が降ってきているということもあり、かなり冷え込んできている・・・
「ごめん、待った~?」
「・・・ったく、遅いんだよ・・・」
と言いつつ、振り返る・・・
・・・
・・・別の人だった。
・・・待ちわびてたせいか、声すらも判断できないようだ。
「あ~っ、遅いっ・・・」
・・・と、そのとき、ふと肩を叩かれた感触・・・
「・・・やっほ」
「・・・ったく、いつまで待たせるんだ」
と言いつつも、顔は笑ってしまう。
「・・・髪の毛切ったんだね」
「あぁ・・・もう立派な社会人だからな」
実際、かなりさっぱりとした髪型になっている。
「・・・おまえ、それにしてもよくわかったな、別の人だったらどうしてたんだ?」
笑いながら問い掛ける・・・
「わかるよ・・・後ろ姿はいつまで経ってもかわらないんだね」
「・・・そうか~?」
「うん、いまだってすぐわかったもん」
くすくすと笑いながら昔懐かしい笑顔を見せている彼女・・・
「・・・しかし、どうしてまた突然会おうなんて言い出したんだ?」
「・・・あのねぇ・・・まさか忘れたなんて言わせないよ?」
・・・もちろん憶えている。
以前、彼女が東京から出ていくときのこと・・・
「・・・20歳になった年のクリスマスイヴ・・・私・・・あなたに会いに来るから・・・」
「あ、あぁ・・・」
「・・・昔の約束・・・憶えてる・・・?」
「・・・あぁ、憶えてる」
「じゃあ言ってみて」
「・・・ここで言うのか?」
「うん」
「・・・おほんっ、『大人になったら・・・結婚しような』・・・だろ?」
「・・・うん、憶えててくれてるんだね」
「・・・あたりまえだろ?」
「・・・うん」
「・・・あんな恥ずかしいこと忘れろって言ったって忘れられやしないよ」
「あはは・・・たしかにそうだね」
「それじゃあ・・・ごめんな、いろいろあったけど・・・やっぱりこれでお別れなんだよな・・・」
「・・・うん・・・でも、またきっと会えるよ・・・」
「・・・そうだよな、そのときまでのさよならだよな」
「・・・うん、じゃあ約束・・・」
「あぁ、約束だ」
「それじゃあ・・・必ず迎えにくるからねっ・・・」
「・・・約束・・・憶えてたんだな・・・」
「当たり前でしょ? 実際にこうやって会いに来てるじゃない」
「そうだよな・・・」
「あはは、変なの~」
「変とはなんだよ・・・」
ふたり同時に吹き出す。
こうしてふたりで笑うのも何年ぶりだろうか・・・
「ごめんね、遅れちゃって・・・」
「いや、ぜんぜん待ってないぞ」
「・・・うそばっかり、雪積もってるもん」
「・・・あぁ、本当だ、すっごく待たされたぞ」
「ごめんね~、電車1本間違えちゃって・・・」
「相変わらずドジだよな、お前って・・・」
「ドジとはなによ・・・これでも、7時前には着くつもりできたんだから」
「・・・当たり前だ、お前から来るって言ったんだろ?」
「そ、そうだけど・・・」
・・・結局、待ち合わせ場所から1歩も動くことなく1時間ほど話しこんでいた。
お互い、雪が積もりかけている・・・
「・・・寒いね」
「当たり前だ、僕なんかもっと前から待ってるんだぞ?」
「あ、そ、それよりも・・・ほら・・・このクリスマスツリー、昔とぜんぜん変わらないね」
「・・・そうだな」
「なんか昔を思い出すよね~」
「あぁ・・・懐かしい・・・」
「・・・あのときの約束も・・・ここだったよね」
「あぁ・・・」
「それに、結婚の約束も・・・」
「そ、そうだな・・・」
「あ、照れてる~」
「だ、だれも照れてなんかいないよ・・・」
「うそだ~、顔、まっかっかだよ?」
「そ、そんなことはどうでもいいだろ・・・そろそろ行くぞ」
「・・・そうだね、そろそろ行こっか」
「あぁ、ここにいても凍えるだけだしな」
「・・・うんっ」
それから僕達は思い出のクリスマスツリーをあとにした・・・
そう・・・ふたつの約束と、再会というたいせつなできごとを見守ってきたこのクリスマスツリーを・・・
これからも見守っていてくれるよう祈りながら・・・
fin
初めて物語と呼べる物を書いた物です。
執筆・公開は○年(あえて伏せます)前、
学生時代の頃です。
「・・・」という部分が多くてすみません。
当時は微妙な間の表現方法がうまく出来ず、
かなり多用してしまっています。
色々と詰めが甘い部分や
作品としての設定や面白さ、出来栄え等、
完成度はかなり低く恥ずかしいのですが
思い切って投稿してみました。