第三話 人生イージーのチートが欲しい。
夜空には星が瞬いている。私はさっきまで半ば呆然としながら森やら空やらを眺めていた。あ、あの星とあれとあれ繋げるとオリオン座っぽーいとか思ってた。
クソかっての。
じわじわと状況を思い出す。空に煌めくオリオン座っぽい星座。あれはオリオン座じゃない。だってここは、異世界だもの。
異世界に来たらまず真っ先に考えることはなんだよこのクソ腐女子め。
そうだよ、俺TUEEEEだよ。
今は馬車の中で眠っているモルドさんは私に大切な事を教えてくれた。この世界には魔法があるってことだ。なんで今までそこに触れなかった。愚問です私がモブおじになれなかったから。
なりたかった。レイパーの称号とか欲しかった。
ぶんぶんと首を振って無駄な思考を掻き消す。こういう腐女子特有の脳内暴走やめてください。
「…火よ」
とりあえずモルドさんが言っていた通り言葉を発する。案の定というか、特に何も起こらない。
「…火よ!」
今度は強めに、なんか意思を吹き込む感じで。
何も起こらない。
ていうかなんか恥ずかしくなってきた。モルドさんの方をちらりと伺い、起きていないことを確認して縮こまる。その振動が伝わったのか、抱え込んでいた大剣がカチャリと金属音をたてた。
そう、そうだよ大剣。
私は大剣を背負っていたらしい。微塵も気付かなかったけど。意気消沈する腐女子ホント何も見えてねぇな、モルドさんが来なかったら死んでたぞ。
モルドさんにありがとうは?
モルドさんありがとう。
とにかく、全く身に覚えは無いがこの大剣は私の武器だ。
私の──私と認めるのは嫌なのでフォストと言おう──フォストの身長は、おそらく160センチ後半程度だ。大してこの大剣は刀身だけでも180センチはあろうかという巨大っぷり。柄も含めれば2メートルをゆうに超えているだろう。
小柄な体に大きな剣。なるほどフォスト君、わかってらっしゃる。
フォストの装備は革で固められており、その中でなんか玄人くさいこの大剣が異質だ。まぁフォストは顔がいいからシンプルな革装備でも見れる感じになってる。革の方が通気性とかあっていいって言うしね。
少し素振りでもしようかと、モルドさんを起こさないようゆっくり立ち上がる。一応夜の番をかってでたのだ、見張りらしく襲撃に備えようではないか。
「お…?」
試しにゆっくりと両手で構えてみるが、思いの外大剣は軽かった。片手で振り回せそうな勢いだ。
少しもたつきながらも両手で一閃。ブン…と風を切る音がする。
もういっちょ。
またもや風切り音。と思いきや、カサっと音がして枝が落ちてきた。青々とした葉がついたままの枝だ。大剣アタックで頭上の枝が折れてしまったのかとも思ったが、断面はとても綺麗なものだった。すげぇ切れ味のやつでスパッとやられたっぽい切り口だった。
恐る恐る大剣を見る。少ない知識で見る限り、見た目は西洋風の普通の剣だ。それが大きくなった感じ。目を引くところと言えば、柄に赤い石が埋まっているところくらいだろう。その隣には同じ感じの石が嵌りそうな窪みがいくつかある。
こういう西洋風の剣は、『斬る』というより『叩く』感じで使われていたとテレビで見たことがある。対して日本刀なんかは正しく『斬る』武器だとも。
たたっ斬られた枝に目を向ける。何が『叩く』武器だ。斬れてんじゃねぇかよ。しかも綺麗にいってやがるぞこいつ。
とんでもないものを手にしてしまった。これは受けをつけ狙う不埒な者共をたたっ斬るしかない。私なんかをな。
月明かりを反射する刀身をじっと見つめる。すると、突然視界に四角いものが現れた。
“??の剣
???????????????。
ATK:+40%
DEF:+20%
LUC:+801%
魔法無効
自動修復”
なんだよ公式に爆弾落とされた腐女子のツ〇ートっぽいな。
西洋剣うんぬんは合ってるかどうかわかりません。めっちゃ昔の記憶ですので。