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そうじゃないんだ異世界転移!  作者: 高月 和
第二章
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第一話 可愛い子と会うのが旅の醍醐味だと思うの。

第二章始まります。

 何十時間も歩き続けるというのは、思ったより苦痛だった。肉体的な疲労というよりは精神的な疲労が。

 特に風景に変わりのない森と草原を越えるのホント苦痛。体力が有り余っているからと寝ずに歩き続けたのも痛かったし、人に会わないのも痛かった。

 なんか普段ぽつぽつと人が歩いている道を通ってる時、誰ともすれ違わないと少し不安になるじゃん。ヤバい、遭っちまったか神隠し、って思うじゃん。そんな感じで微妙に怖いし退屈でヤバかった。

 不安をひしひしと感じつつ、獣道と言って差し支えない荒れた道を抜けて満月の宿が見えてきた時の安心感と言ったら。宿の周りはちょっとした町のようになっていて、馬車やら人やらが動いているのが遠目に見えたのだ。

 少し歩くペースを速めて人混みの中に飛び込む。どうやら満月の宿あたりから大きな道がぶつかっているらしく、各方面への駐屯地として発展しているようだ。予想していた満月の宿はこじんまりとした建物だったのだが、それを裏切る庶民的な豪華さだった。

 宿屋は主に冒険者向けの無駄を省いたカラッとしたイメージだと思っていたので、大きな花瓶に大輪の花が活けられ、随所にファンシーなぬいぐるみ的なのが置いてあるのはなんだか不思議な気持ちになったわ。所構わず偏見かます腐女子でごめん。

 受付のお姉さんは乳がでかいしか言えないくらい乳がでかかった。乳がでかい。

 その豊満なバストに思わずガン見してしまったのだが、お姉さんは頬を赤らめながらもテキパキと仕事をこなして部屋の鍵を渡してくれた。少し期待するような目で見られたのは、多分勘違いではないだろう。フォスト君は顔が良いしな。

 すまんけど男の体で女を抱く趣味は無いわ。当て馬として攻めに抱かれててくれ。

 そんなこんなで部屋になだれ込んだ後は、疲れていたのか夕方まで眠りこけてしまった。


「〜♪ 〜♪」


 ガヤガヤと賑わう食堂では、様々な人が夕飯を楽しんでいる。掻っ込んで噎せる人もいれば、酒を煽り上機嫌な人も。

 そして先程から私の視線を奪い続けているのは、小さめのステージに置かれた椅子に座っている吟遊詩人の男性だ。深い緑色の、肩下まである髪を束ねて横に流している。ゆったりした服が旅人らしく少し汚れているものの、その口から紡がれる美声が似合う優美さが感じられる。

 むっちゃイケメン。

 抱きたいわ。

 私がフォスト君じゃなくて汚いおじさんだったらな。おじさんだったらどんなに、どんなにいいか。

 本日のオススメ定食をもごもごしつつ吟遊詩人の方を眺めていると、彼はふと閉じられたいた瞳を開けて私に微笑みかけてくれた。

 どどどきん。うそ、なんだよこっち見んなレイプすんぞ。


「旅の方、何かリクエストなどはありますか?」


 琴の弦が弾かれ、涼やかな音を奏でる。微笑みと音色が相まってすごく聖域って感じだ。

 くそう、私が汚いおじさんであったなら。


「ありがとうございます。えっと、世界樹に纏わる物語とかありますか?」

「世界樹ですか」


 ポロン、と零される音色。

 モルドさんの病気を治す材料の一つは、世界樹から採れる実だ。とりあえず物語でも何でもいいから、情報を仕入れたいところ。他の二つはまあまあ正攻法で採取できそうだが、世界樹からとなると何かしらゴタゴタがあるだろうと予想される。

 だってお前、世界樹やぞ。

 世界の宝だぞ。多分、世界自然遺産とかだぞ。


「そうですね…それでは一つ唄わせていただきます」


 囁くような、アルトに入るであろう男にしては高めなそのボイス。伏せられた睫毛が頬に影を落とし、なんとも言えない色香がゾクゾクと背筋を這い上がる。

 きっと、詩の他にも人の目を楽しませるものとして自分を磨いているのだろう。あんたの判断は正しい。天職だよ、吟遊詩人。今この瞬間目と心が大いに楽しんでるわ。

 この人に人生を狂わされた男とか、山のようにいそう。

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