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そうじゃないんだ異世界転移!  作者: 高月 和
第一章
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第一話 ここは異世界らしい。


連続で失礼致します。


「いい天気だねぇ」

「そうですね…」


 あれから茫然自失のまま草むらに腹這いで寝っ転がっていた私を、通りがかった馬車が親切にも拾ってくれた。

 何も言わない私に声を掛けながら顔についた泥を拭いてくれた御者さんは、モルドさんと言うらしい。柔和な笑顔が記憶に残るなかなかのナイスガイ。

 こういうふんわかしたおじさんは絶対、実父に虐待された不幸な身の上の受けちゃんが援交に走ってしまう所をやんわりと押し留め万札を握らせ、攻めとの幸せに導いてくれるタイプの人だ。知ってる、知ってるぞ。ぼたぼた涙を流す受けちゃんを優しく頭を撫でて慰めてくれて、攻めが待ってるよと囁いてくれるんだ。そういうモブおじも好き〜!


「…話しにくい事ならいいんだが、どうしてあんな場所に倒れていたのか教えてもらっていいかな?」

「あっ…は、はい…」


 現実逃避を開始していた脳内妄想が吹き飛ぶ。完全にモルドさんを柔和系財閥モブおじに仕立てあげてた。

 深呼吸で頭の中を入れ替え、真剣に考え込む。ここは日々鍛えた妄想力が発揮されるところだ。考えろクソ腐女子。お前は考えることしか出来ないんだから考えるんだよクソ腐女子が。


「…よく、覚えてないんです」


 呟くようにそう零す。怪訝そうな顔を向けるモルドさんに曖昧な笑みを返して、再び思考する。

 こういう時は真実を交えた方がいいって、偉い人もエロい人も言ってた。


「えっと、ホモ…や、欲しいもの…?を手に入れようとしてたんですけど、気づいたらあそこにいて…」


 しどろもどろになりながら顛末を話す私を見ながら、モルドさんは神妙そうに頷く。優しい人だ。私だったらこんなコミュ障陰キャほっとくぞ。


「君は…その格好を見る限り冒険者なんだろう? 迷宮によっては厄介な罠もあると言うしね。それに引っ掛かってしまったんじゃないかな?」


 どうかな?、と私を伺うモルドさん。つまり、冒険者である私が迷宮を冒険していたところ運悪く転移魔法に引っ掛かり、ぶっ飛ばされた挙句記憶が曖昧になったと。

 ふむ。

 冒険者、迷宮。モルドさんが口にする単語は、聞き覚えのないものだ──少なくとも、現実世界では。

 私は腐女子。腐女子なのだよ。異世界モノか好きなクソ腐女子。ホモじゃない異世界小説を読んでは、これはどう考えてもホモだろ…?と困惑してた腐女子だ。

 突然変わった景色。聞き覚えのない単語。この状況から察するに──


「異世界…転移…?」


 そうだよ。なんで通りすがりの馬車があるんだよ。馬車ってなんだよ馬車って。あとなんだこの草原と青空が広がる景色は。いくら私の地元が田舎だからってこれはないわ。田んぼも畑もねぇじゃんか舐めてんのか。そしてこの柔和系モブおじモルドよ。あなたはどう見ても日本人じゃない。

 ドキドキとうるさい心臓を押さえつけるように丸まっていると、モルドさんが心配そうに声をかけてくれた。


「大丈夫かい?」

「いえ、ははっ、大丈夫です…むしろ…」


 ──願ったり叶ったりではないか。

 上がる口角を抑えられない。

 だってそんな、そんな。異世界ハッピーうはうは腐女子ライフがここに。夢にまで見た異世界がここに。美形優秀エルフ×平凡ギルマスの寿命が行く手を阻む報われない恋とか。伝説の傭兵×助けられた少年の憧れが綯交ぜになった恋とか。魔王×勇者の戦場の愛とか。従魔×テイマーのど性癖異種姦とか。

 全部、全部。

 高揚の疼きが走る。背筋に、下腹部に、ゾクゾクと。これはもう、私に息子が付属されていたら確実におっきしていた。てかおっきっきしてる。この疼きは確実に、この存在感は確実に。女だけどこれはわかる。

 そう、確実に勃ちあがってい──る?


「…っ、へ…?」


 なんだ。なんなんだ私の中心でその存在を主張しているこれは。モブレ小説を読んで、モブレ漫画を読んで、幾度となく渇望したこの、この肉棒はっ。


「そういえば名前を聞いてなかったね」

「えっ?」


 モルドさんが柔和に微笑み、私の動揺が上滑りしていく。

 早く答えなければ、いやでも中心のこれは。纏まらない思考の中で唐突に頭を占めたのは、個人サイトの樹海の名。


「…ふ、フォ…ス…フォスト、です…」

「フォスト?」


 こくこくと頷く。ぶっちゃけよく考えられてないけど頷く。


「『栄光』…か、いい名前だね」


 おそらく、この世界で『フォスト』というのは『栄光』という意味なのだろう。大層だ。

 腐女子にはもったいないぞ、名を捨てろ。

 悶々としている間もモルドさんは流暢に語っていく。


「最初見つけた時は王子様なんじゃないかと勘繰っちゃったよ」


 ははは、と陽気に笑うモルドさん。王子様、王子様て。

 その時やっと、視界の端々に映る長めの銀髪と眼下でおっきっきする棒の存在を認めた。

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