8話:野球部メンバー
聖陵学院野球部の入部者は全員で11名。
俊哉、隆彦、山本、望月、明輝弘、青木の他に一年生は他に5名いる。
坊主頭でやや褐色肌が特徴の長尾雅信。
短髪ながらツンツン頭で低い身長ながらも良い体格が特徴の鈴木康廣。
身長は明輝弘とほとんど変わらずだが少々線の細い色白の優男風の内田浩輔。
身長は俊哉らとほとんど変わらず160センチ後半で髪の毛は少し眺めで少し暗めな表情の池田聡太。
そして最後は身長は160センチ後半で体格が良く、太めの眉毛が特徴の堀義隆の5人がその他の新入部員である。
因みにこのメンバーの中で、隆彦が誘って連れてきた選手は長尾雅信、堀義隆、池田聡太と山本、俊哉の5人とまさかの人数不足になりそうという状況であった。
望月等がいたから良いものの、彼らがいなかったら人数が足らずと言う状態になっていた恐れがあったが、隆彦曰く「まぁ揃ったから良いじゃん。結果オーライ」との事である。
因みに他のメンバーはと言うと、鈴木康廣は県外の神奈川から来た生徒で野球経験は中学ではやっていたがチーム自体も弱小チームで本人もまともに練習してなかったという事である。
そしてもう一人の内田浩輔はと言うと、野球経験は無い素人で体育でソフトボールくらいしかやった事が無いのである。
この新入生11名と二年生の早川悠斗と桑野慶介の二人を含めた13人が今年の野球部メンバーである。
そして監督は春瀬京壹。
彼は正直今年もこれからも期待はしていなかった。
ここ数年でも入部はろくになく入部しても9人に満たないなど部活としての活動をしていない状況である。
しかし今年は俊哉や望月をはじめ有望な一年生が入部し、春瀬監督自身としてもようやく軌道に乗ったという形ではあるものの嬉しい限りである。
しかし、そんな中でいまいち乗り気になれない選手がいた。
(はぁ、まさかこんなに人がいるとは…)
とため息をつきながらキャッチボールをするのは明輝弘。
彼は元々野球部には幽霊部員になるつもりで入部したのだが、10人超えの新入部員が入っただけでなくやる気があるという事に悩んでいた。
(何やる気を出してるんだ。こんなチームじゃあ勝つのは無理だ。俺がやる気を出せば行けるかも分からんが、なんせ俺は高校野球を本気でやるつもりは無い。今だけ真面目に出て来週くらいから休みだせば…)
と考えながらキャッチボールをする明輝弘。
この後は流し気味に練習をこなし終了後はグラウンド整備をし部室で着替えをする。
着替えをしている部室では竹下らが談笑をしていた。
「いやぁ一年だけで10人はすげぇよな。しかもトシの他にヒデも来てくれて、あと明輝弘」
「ん?俺か?」
「当たり前だろ?明輝弘は俺が誘おうとしてたヤツだしよ。てかなんで電話に出ねぇよ」
「俺は番号知らない奴の着信は出ない主義なんだ悪いな」
「そうなんだ。まぁでもこれで来年…いや今年にも行けるんじゃね?甲子園!なぁ明輝弘」
「あ、あぁそうだな」
と内心は“無理だろ”と考えながら受け答えをする明輝弘。
こういうお気楽な人間は嫌いではないが、ここまで来るとウザったいほどである。
「あとトシもだぜ?俺の一番の功績さ」
「何俺が育てたみたいに言ってんのさ」
「まぁまぁ。でもトシが来てくれて嬉しいぜ~」
と俊哉と肩を組む竹下に俊哉は笑いながら言う。
「まぁやる気なきゃついては来ないよ」
と笑いながら話す俊哉。
そんな俊哉を見ながら明輝弘はとある疑問が頭をよぎっていた。
(俊哉、俊哉って、そんなに凄いのか?いつも見てても凄いとは思えない。ホームランを打てる体格にも見えないし雰囲気も何も感じない。)
と思いながらもすぐに自分自身には興味がないとばかりにすぐに着替えて部室から出ていく。
1人歩く明輝弘、するとその先にすでに部室を出ていた望月が自販機の前でジュースを飲んでおり、明輝弘は彼なら話易いかな?と感じたのか近づき話しかけた。
「おう、確か望月だっけ?」
「あぁ、庄山だっけ?」
「明輝弘で良いよ」
「じゃあ俺も秀樹とかヒデでいいぜ?」
と互いに初めて話すのか軽く自己紹介をする二人。
少し間を開ける二人であったが、明輝弘の方から話を始めた。
「あのさ、部活始まってしばらく経つけどよ。正直どうよこの野球部。俺は竹下が言うように勝ち続けるとかは無理だと思うぜ?」
と話す明輝弘に望月は少し黙っているが飲んだジュースをゴミ箱の中へ入れると明輝弘の顔をまっすぐ見ながら話す。
「俺は行けると思うぜ?」
「それマジで言ってんの?」
そう会話を交わす2人の空間には、どこか張りつめた空気が流れていた。
明輝弘の言葉に返す望月に明輝弘はさらに食って掛かる。
「まぁなぁ。今のメンバーが俺を含めて現状以上の力を付ければ不可能ではないと思うよ?」
「そうか、秀樹なら話分かると思ったんだがなぁ。」
「まぁ今の力じゃあ無理なのは確かだよ?」
「そうか。それに俺は、俊哉だっけ?アイツの凄さが分からない。それにぶっちゃけ凄いとは思わないぜ?」
と話す明輝弘の言葉に一瞬だが望月の表情が変わった。
その表情は怒るに近い表情をしており彼の眼は鋭く明輝弘を睨むように感じた。
「そう思うか?」
「あぁ。アイツにホームランが打てるとは到底思えないし。雰囲気的に見ても凄さを感じられないんだが。秀樹もそう思うだろ?」
「そうか。あぁ、明輝弘。お前抜いてるだろ?」
「は?」
「いや、明らか練習してるという感じがしない。」
と話す望月に明輝弘は正直驚いた。
彼はきちんと見ていたのである。
この視力の広さに明輝弘は驚きを隠せなかった。
「さすがだな。結構中学じゃあ有名だったんだろ?そんな視野の広さがあるんなら」
「いや、これに最初に気付いたのはトシだよ。」
「は?」
「明輝弘。お前はトシを下に見てるようだけど…痛い目に合うぜ?」
と話す望月の言葉には異様な重みを感じた。
恐らく望月は俊哉に対して大きな信頼感に似たようなモノを抱いており、俊哉に対してほとんど疑念を持ってはいなかった。
「へぇ、そうか。」
「あと知ってるか?10人の新入生中、5人がトシが入学すると聞いてやってきたんだってよ。」
「マジで?秀樹も?」
「いや、残念ながら俺は招集をかけてた竹下がほぼ諦めてたらしく声が掛かんなかった。んだけど、今こうしてここにいるのは偶然じゃあ無いかも。たぶん声を掛けられたら今この状況だったかもな。」
と笑いながら話す望月に明輝弘は少し困惑していた。
自分では分からないことが他の選手らに分かる。
その事に困惑をする反面、分からなかった事に対して自分に腹が立っていた。
(何故あの俊哉に肩入れをするのかが分からないが、そんな事よりその事実を知らなかったことが腹が立つ。本当に奴はそこまでの人間か?)
と考える明輝弘。
そんな彼の表情を見ながら望月はフッと笑みを浮かべながら話し出す。
「気になって来ただろ。トシが。」
「あ、んん…まぁ否定はしない。もし秀樹や竹下たちが言うように俊哉に対して何か肩入れする力があるというなら、是非とも見てみたいものだ。」
「ははっ。そのうち分かるよ。試合とかになれば分かるかな。つっても、俺も実際の所は良く実感できてねえんだけどね」
と言いながら飲み干した缶をゴミ箱に入れ歩き出す望月。
望月は星が広がる夜空を見上げながら何かを思い、再び明輝弘を見る。
「もし試合とかでも分からなかったら、止めるなり幽霊部員なりになれば良いさ。」
「まぁ元々そのつもりではあったがな。」
「やっぱりな」
と笑みを浮かべ帰路に着こうとする望月を明輝弘は何か思い出したように背を向け歩き出す望月を止め話し出す。
「そういや、秀樹はなんでここに来たんだ?誘われてなかったんだろ?」
と質問をぶつける明輝弘に対し、望月は頬をポリポリと軽く掻きながら間を開けると再び背を向け歩きながら一言話した。
「そのうち話すよ。じゃあな」
「お、おい。まぁいいや」
と一瞬引き留めようとするも諦める明輝弘。
そして明輝弘も空き缶をゴミ箱へと捨てると地面に置いてあった鞄を持ち歩き出したのである。
(全く来週にでも来なくなりだそうと思ったが、秀樹の話を聞いて正直なところ気になってきたじゃねぇか。まぁ良い。俺の眼は確かと言う自負があるし、そんなに長居はしなくて済みそうだ)
と考えながら明輝弘もまた、帰路へと着くのであった。
次回へ続く