3話:至福の時間
俊哉達1年生が入学し数日たつと新入生は各々の部活へと入部届を出していた。
サッカーやバスケ、はたまた武道系や文化系など多くの部活動がある中で生徒ひとりひとりが自分の入りたい部活動へと入部届を持っていく中、俊哉も入部届に“野球部”と書き担任へと提出をした。
そんな活気づく中での昼休み。
屋上の建物の壁に座り寄りかかりながら週刊マンガを読む少し眺めの髪の毛でツンツン頭の長身の男子生徒がいた。
その生徒の隣には紙パックのコーヒーとパンが置いてあり、おそらく昼食を取りながら週刊マンガを読んでいるのであろう、集中しているのか黙々と読んでいる。
すると彼の前にぬっと人影が現れる。
その人影はボブカットで少し目がキリッとしているボーイッシュな感じが特徴の女子生徒が両手を腰に当てながら立っていた。
「ちょっと入学早々いきなり漫画ぁ?」
と話す女子生徒だがその男子生徒は集中しているのか聞いていない。
何度か声をかける女子生徒であるが、聞く耳を持たない男子生徒を見てハァっと一つ溜め息を着くと勢いよく読んでいた漫画をバッと取り上げた。
「あ!このアマ!」
と威圧感たっぷりの口調で怒りをあらわにする男子生徒。
「アンタが話聞かないのが悪いのよ。」
「うっせぇ。俺は自分の時間を邪魔されるが一番嫌いなんだ。それを返せ」
「そんなモンいつでも読めるでしょ!」
「今が良いんだよ」
としばらく取り合いをするがさすが男性と言うのか、男子生徒が力づくで奪い取る。
その彼の態度にフウッとため息をつくと話を再び切り出す。
「A組でアンタだけなんだけど、入部届出してないの」
「あぁ?だってねぇんだもん」
「何がよ」
「バンド部」
「はぁ・・・アンタ好きねバンド」
「俺のソウルだからな」
と自慢げに話す男子生徒に女子生徒はため息をつきながら彼の前に立ちながら少し黙るも再び口を開く。
「アンタ、野球してなかったっけ?野球部あるよ?ここ。アンタもそれなりに有名じゃなかったけ?」
「野球はやらん。高校まで来て真面目にやってられっか。今の時代はバンドだよ。泥だらけの青春は今の俺には必要ない」
と言い放ち再び漫画に目を落とす男性生徒。
女子生徒はそんな男子生徒を見るとまた漫画を取り上げた。
「あ!!この!」
「これは没収。学校には漫画はいりません」
と言いながら週刊マンガを持って歩き出す女子生徒。
立ち上がり追いかけようとする男子生徒であるが、めんどくさくなったのかドカッと座り直し置いてあった紙パックのコーヒーを一気に飲み干す。
「まったく・・・おいだったら金払え230円」
「いやよ。」
「この・・・!」
「ホント、アンタ中学ん時から変わらないわね」
「あぁ?なんで中学の俺を知ってんだ?なんだ?俺のファンか?」
「アホ。同じ中学なだけよ。でなかったらアンタなんか知りたくもないわ」
と言いベッと舌を出しアカンベをする女子生徒はそのまま校舎の中へと入っていってしまった。
「あぁクソアマが・・・俺の至福の時間を邪魔しやがって・・・」
と紙パックのコーヒーを潰す男子生徒。
青空が広がる空を見上げながらしばらくボッと眺めていた男子生徒だったが、午後の授業が開始される五分前のチャイムが鳴ると少し慌てながら昼食のパンを口に押し込み校舎へと戻っていく。
(ったく、最悪だぜ。アイツにぜってぇ返してもらう。あの・・・ん?名前なんだっけ?まぁいいや同じクラスっぽいし放課後にするか)
と考えながら廊下を歩く男子生徒であった。
この男子生徒、彼の名は庄山明輝弘。
彼もまた、この物語の高校3年間を過ごす生徒の一人である。
次回へ続く。