76話:チャンスだよ?
コミケ3日目。
ジャンルは様々だが、18歳未満はダメ!!
と言う様な作品が多いスペースが多々ある。
俊哉たちはと言うと、お目当のジャンルが余り無いため会場内を見て回るだけである。
「そういやトシ君。昨日の一年の子は今日来てるの?」
「柚子ちゃん?今日は買うものも無いし来ないってさ」
「そうなんだぁ。あの子結構前から来てるんだよね〜」
「そうなんだ?」
「そうそう。まさか後輩とはね〜」
ハルナと俊哉がそんな話をしながら歩く。
そのまま特に大きな展開もなく時間だけが過ぎていきお昼過ぎ頃となった。
会場外に設置された屋台で食べ物を買い、立ち食いをする俊哉たち一行。
「どうする?」
「ん〜・・・もう見尽くした感あるしなぁ」
青木の問いに俊哉が答えた様に、目的が無く歩き回るコミケは正直キツい。
「司ちゃんたちはどうする?」
「ん〜、離脱しちゃう?」
「それが良いと思うです。」
「わ、私もそれで。」
俊哉の問いかけにハルナ、由美、司が答えると男子陣を含めた6人はお昼過ぎにビックサイトを離れる事にした。
かといって他に何処か行く場所はあるかと言われれば無いし、3日間の疲労とここ近年の猛暑の為外を出歩く気にもなれない。
「え〜・・・どこか喫茶店でも入る?」
『賛成〜』
そのアイディアが俊哉から出たのは、国際展示場から電車を乗り継ぎ秋葉原へと着いた時だった。
「少し遠くに来ちゃったね」
「電気街口の裏路地まで来たね」
結局長い時間歩いてやっと空いている店を見つける俊哉たち。
電気街通りから一本裏へと入った喫茶店だ。
雰囲気も良くいかにも喫茶店と言わんばかりの作りだ。
「ハァ〜・・・」
全員が大きく息を吐いた。
よく3日間持ったなと自分を褒めてやりたいほどの時間だっただろう。
「でも、楽しかったよね〜」
ニヘラと笑みをこぼしながら話す俊哉に対し青木らもウンウンと何度も頷く。
涼しい店内に冷たい飲み物は、彼らの疲れを癒したであろう。
落ち着いたら、次第に会話を増えていき一角は賑やかになってくる。
「そういえばさ青木。今日も泊まるんだよね?」
「あぁ〜。その予定」
「山本は帰るんだよね?」
「帰らねぇよ!?勝手に返すな!?」
「あはは〜」
「何それ!今どう言う感情!?」
俊哉の話した通り、男子陣3人はこの日も東京へ留まり宿泊予定だ。
「司ちゃんたちは?」
「私たち?うん、泊まる予定だよ〜?」
俊哉の問いに答えるハルナ。
どうやら女性陣3人も泊まる予定の様だ。
「そこでね。ちょい問題発生しましてねぇ」
突然話を切り出したのはハルナ。
彼女の言葉に全員が注目すると、ハルナはゆっくりと口を開く。
「実はねぇ。昨日菫から連絡が入って、向こうの手違いで今日のホテルのお部屋取れていなかったんだってさ」
『はいぃ!!?』
当然の反応である。
全員が驚きの表情を見せている中、ハルナは続けて話を切り出す。
「んで、菫の方から慌てて取ってもらったんだけど・・」
「だけど?」
「そのねぇ、部屋がツイン3つになっちゃった」
「なんだぁ取れてたのかぁ〜」
部屋が取れた事に安堵の表情を見せる一同。
しかし、由美がハルナの言葉に1つ違和感を覚えた」
「ん?今部屋3つって言ったですか?」
「そうなのよ〜」
「え?6人だから3つは大丈ぶ・・・あ」
6人の人数に対し部屋3つはなんらおかしい点はない。
だが青木は気づいた。
「待て、それって・・・」
「そう言う事よ青木」
青木の言葉にビシッと指を指しながら話すハルナ。
するとそのハルナはくるりと俊哉、司を見ると、ニンマリと笑顔を見せながら言い放った。
「だからさ。今晩、トシ君と司。同部屋でお願いね?」
「え?」
『えぇぇぇぇ!!??』
「え?!いやいや!!??」
「ぱ、パル!?そ!そそそそそんないきなり!?」
「大丈夫大丈夫〜」
「パル〜〜!!?」
大慌ての俊哉と、同じ様に慌て顔を真っ赤にしながらハルナに迫る司。
だがハルナは“大丈夫”“二人ならいけるって”と言いながら聞く耳を持たない。
俊哉は青木や山本に助けを求めるが
「裏山けしからんぞトシ」
「男を見せろ」
「お前ら・・・」
二人揃って良い顔をしながらサムアップを見せる青木と山本。
いくら俊哉でもこの時は殺意が湧いただろう。
「無理無理!死んじゃう!!」
「死にはしないって〜」
「恥ずかしすぎてって事ぉ〜!!?」
「良いチャンスだよ?」
「チャンス・・・!?」
「そうチャンス。トシ君と仲良くなれて近づけるチャンス〜」
「そ、それでも〜・・・由美〜」
「チャンスですよ司。ファイトです」
「えぇ〜・・・・」
こちらもこちらで同じ様な反応を見せる。
俊哉と司は半分諦めたのか、そのまま時間が過ぎていきあっという間に夜になってしまった。
ホテルのロビーで鍵を渡される。
「はいコレ鍵ね」
そう言いながらカードキーを渡すハルナだが、受け取る俊哉は未だにポカンとしている。
また司も周りが見えないのか、顔を赤くしながら一点を見つめたままである。
「んじゃあまた明日」
「え?まじで?」
「マジマジ。まぁトシなら大丈夫でしょ。竹下や明輝弘と違って事は起こさんでしょ」
“ははは♩”と笑いながら話す青木。
そのまま流れるように解散となり、ロビーには俊哉と司だけが残されてしまった。
「じゃ、じゃあ・・・行こうか?」
「は、はい」
互いに目を見れない。
バクバクと聞こえるんじゃ無いかと思うほど鼓動が高鳴っており、二人とも気が気では無いようだ。
そんな二人を他所に、先に部屋へと向かったハルナと由美。
由美はエレベーターに乗りながらハルナに話しかける。
「本当に部屋取れてなかったですか?」
「ん〜・・・実は嘘」
“やっぱり・・・”そんな表情を見せる由美は深くため息を吐く。
「そんな事だろうと思ったです」
「まぁいい機会かなってね。ちょい菫に無理言ったわ」
「パルもパルですが、菫さんも菫さんですね・・・」
「まぁあの二人を近づけるいい機会よ」
「趣味悪いですよ?それにいきなり同じ部屋で寝泊りさせるのは・・・」
「あら?由美っちも応援してたじゃ無い?」
「それはそうですが・・・」
言葉をつぐみながら黙ってしまう由美。
(確かに応援する気持ちはあります。ですが、この感情はなんでしょう・・・。いやいや!そんな事はないのです・・・そんな事は・・・)
心の中で生まれる何かと葛藤。
そんな葛藤を心の中で繰り広げる由美に対し、ハルナは彼女を見つめながら首を傾げるのであった。
場所を移して俊哉と司。
エレベータを降り長い通路を歩く二人だが、表情はぎこちなかった。
ドアノブに付けられたセンサーにカードキーを近づけると“ピピッ”と音がなりドアが開く。
部屋に入ると広めの居間が広がり、そこにはテーブルとテレビに冷蔵庫。
そしてベットが2つ並べられていた。
「広いな・・・」
「そ、そうです・・・ね」
会話が続かず黙ってしまう。
沈黙が広がる部屋に、ベットに腰掛けながら俊哉と司がいる。
(ヤバイヤバイ!何話して良いかわからない!!)
(どどど!どうしよ〜!!)
ガチガチに緊張をする二人。
そんな中、口を開いたのは俊哉だった。
「先にお風呂入る?」
「ふぇ!?」
「い、いや司ちゃんお風呂入ってる間に、俺外のコンビニで飲み物とか買ってくるよ」
「あ、そそうですね。お願い、します・・・」
「うん。えっとどの位かかるかな?」
「えっと・・・2、30分あれば」
「了解。じゃあ行ってくるよ。飲み物何が良い?」
「と、俊哉さんと同じで大丈夫です」
「OK〜、じゃあ行ってきます」
そんな会話をしながら俊哉は自分の財布とカードキーを持ち部屋から出て行く。
彼なりの精一杯の気遣いなのだろう。
(ハァ〜・・・緊張する)
エレベーターに乗り下がりながら一人大きくため息を吐く俊哉。
また部屋では司が服を脱ぎ、下着姿になりながらシャワー室の鏡を見ながら呟いていた。
「俊哉さんに気を使わせちゃったかな・・・でも、やっぱり俊哉さん優しいな」
俊哉の気遣いに感謝しながら下着を脱ぎ風呂場へと入る司。
ここのホテルはトイレと風呂場が別れているタイプで、風呂場にはシャワーの他に湯船もある。
また司が入った時には湯船にお湯が張っていた。
「俊哉さんが入れてくれたのかな?」
司の予想通り、俊哉は出る前にお湯を入れていたようだ。
「凄いなぁ俊哉さん・・・」
クスリと笑みを浮かべる司。
その司は感謝しながら、今日の疲れと汗をシャワーで流す。
その頃、ホテルの外にあるコンビニでは俊哉が買い物かごを持ちながら飲み物を物色していた。
「ん〜・・・俺、お茶とか麦茶とかしか飲まないけど・・・それで良いのか?もっとこう、オシャレな感じなのが良いのか?」
などと考えながら頭を悩ます俊哉。
結局麦茶とお茶を2本ずつ買いコンビニから出る俊哉。
「コンビニ以外と近くにないよな・・・電気街の方まで出てきちゃった」
ホテルの近くにコンビニが無く、線路と大きな川に挟まれた橋を渡り駅近くのコンビニまで来てしまった俊哉。
もう夜9時を回っているのに大勢の人が行き交う秋葉原の街を俊哉は見渡しながら惚けていた。
「ホント人多いいなぁ。地元じゃあこんなにいないよ・・・」
一人笑いながら呟く俊哉。
スマフォの時間を見ると、ちょうどホテルを出てから20分程経過していたため、ゆっくり歩いて帰ることにした。
その帰り道で、俊哉は明日の事を考えていた。
「明日はフリーなんだよなぁ。どこか行きたい場所ねぇ・・・」
夜空を見上げながらそう呟く俊哉。
すると俊哉の脳内に1つのアイディアが生まれる。
「そうだ!!あそこ行こう!!司ちゃんも一緒に誘おう」
何か思いついた俊哉は、司に提案したいという衝動から自然と歩みを速めて行く。
その頃、ホテルでは丁度司が湯船に浸かっていた。
「ハァ〜・・・気持ちいい」
汗と疲れが全て流れて行く気持ちなのだろう、表情を緩ませながら湯船に浸かる司。
「このまま沈んじゃいそう。出なきゃ」
そのまま寝てしまい沈んでしまいそうになる為、司は湯船から身体を起こし出る。
ポタポタと身体から滴る水。
浴室から出ると司はバスタオルで身体を拭き着替えようとするが、ある事に気付いてしまう。
「あ、着替えの下着。バックに入れたままだ・・・」
着替えを下着を自分の荷物に入れたままに気づく。
居間へと繋がるドアに耳を当て俊哉がいないか確認をする司。
「いない・・・かな。だ、大丈夫だよね?」
意を決したのか、司はバスタオルを身体に巻きドアを開いた。
急いで自分のバッグへと向かい下着を取ろうとする司。
しかし、その瞬間に部屋のドアが開いた。
「ハァ・・・暑かっ・・・」
「あ・・・」
ドアを開ける俊哉。
その丁度真正面には、バッグから下着のパンツを手に持つ司がいた。
固まる俊哉に、司はすぐに立ち上がり風呂場へと入ろうとしたのだが、バスタオルの挟んであった部分が外れてしまう。
ハラリとバスタオルが取れ地面へと落ちる。
「あ・・・」
「ひゃ、ひゃあぁぁ〜!」
「ご、ごめんごめん!!今出るから!!!」
顔を真っ赤にしながらしゃがみこんでしまう司に、俊哉も顔を真っ赤にしながら部屋から飛び出して行く。
通路を早歩きで歩く俊哉。
(み、見ちゃった・・・のか!!?)
(み、見られちゃった・・・)
その後、俊哉が部屋へと戻って来たのは1時間も後であったという。
部屋へと戻ると司は着替えが終わっていたが、俊哉は平謝りしそのまま就寝となったのであった。
(やばい・・・寝れない!!)
布団に包まりながら悶々とする俊哉。
彼が寝付くまで大変だったようだった。
(見られちゃった・・・がっかりされちゃう・・・)
また司はというと、俊哉に見られたという事に対して変な思いを持つのであった。
とんでもないハプニングが起きたコミケ3日目の夜。
果たして翌日はどうなるのか・・・?
次回へ続く。




