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青色の下で・・・静岡聖陵編  作者: オレッち
第弐章〜激闘の年〜
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46話:静かな怒り

 2回のピンチを無失点に抑えた聖陵学院。

 そして3回表の攻撃で再び動き出す。


 打順は1番琢磨からだが琢磨は芹沢のパームボールを狙うもセンターへのフライに終わってしまいワンアウト。

 続く2番の山本は、意表をつくセーフティバントを繰り出す。


「・・・あ?」


 コツンと上手く当てた打球は一塁線へと転がる絶妙な打球。

 スタートが遅れた石井はドタドタと身体を揺らせながら取りに行くも一塁送球できずにセーフとなる。


「よし・・・」

「・・・チッ」


 舌打ちをしながら悔しがる石井はムスッとしながらボールを芹沢に返し守備位置へと戻って行く。

 そして打席には3番の俊哉が入る。


「トシちゃ〜ん」

「と、俊哉さ〜ん」


 俊哉が打席に入るのを見てスタンドからはマキと司が声援を送る。

 また他の生徒らも俊哉に対して声援を送る。


(女からの声援とか、下手くそのくせに生意気だし)


 などと僻む外岡。

 また同じように石井も声援を送るスタンドを睨むように見ながら“チッ”と舌打ちをし守備をする。


 俊哉が打席へと入り試合再開。

 外岡は俊哉に対してもパームボールを連投させる。


「ストライク!」

(これで追い込んだし。やっぱり打てないし)


 最後もパームボール。

 そうサインを出す外岡はニヤリと笑みを浮かべながらミットを構える。


(無様な姿晒すし)


 そう思いながら芹沢から投じられるボールをミットへと受けようとする外岡。

 だが、俊哉のバットはボールにかぶるように振られると“カキィィン”と打球音を響かせた。


「何?!」


 弾き返された打球は一塁線へと飛んで行く。

 打球はあらかじめ二塁よりに守っていた石井の横をあざ笑うかのように抜けて行き、ライト線へ転がるヒットとなった。


「セーフ!!」


 一塁ランナーの山本は三塁へ到達。

 そして打った俊哉は二塁へと到達する二塁打を放ち一死二三塁のチャンスを作ったのだ。


「ま、まぐれだし!じゃなかったら右打者であんな綺麗な一塁線への流し打ちなんかできないし!」


 マグレだと言い張る外岡。

 しかし俊哉は二塁よりに守り一塁が広く開いているのを予め確認していた。

 ミート力に優れている俊哉にとっては、あのコースに打つことは難しいことでは無いのだ。

 そして何より、山本の打席で見せたセーフティバントを取りに行く石井の動きが遅いことも頭の中に入っていた。

 それが見事にハマり一塁線を抜けて行く長打へとなったのだ。


「・・・チッ。狙いやがったなかクソが」


 狙われたことに静かに怒る石井。

 だがこれで一死二三塁としチャンスの場面で打席には明輝弘が入る。


(パームボール連投だし)


 変わらずパームボール連投をさせる外岡。

 変化球打ちを克服はしたもののまだ完璧とは言えない明輝弘だが、そう何球も見せられれば合わせる事くらいは出来る。


「バカに・・するな!」


 “キィィン”と打球音が響く。

 明輝弘の打ち返した打球はライトへと高く舞い上がる。

 三塁ランナーの山本はタッチアップの構えを取る。


「俺たちがアウトになったんだ。アウトに決まってるし」


 マスクを取りながらそう話す外岡。

 ライトの選手が捕球すると山本はスタートを切る。

 バックホームを試みるライトの選手。

 しかしライト深くで捕球した為、山本の足が速くホームを踏みセーフとなった。


「セーフ!!」

「な?!マグレだし!!」


 マグレも何も、余裕のホームインを見せた山本。

 これで2点目が入りリードを広げる事となった聖陵ベンチは盛り上がりを見せる。


「ナイス犠牲フライ」

「合わせる事が出来て良かったよ」


 ベンチに戻り明輝弘にハイタッチを交わして行く選手たち。

 だがこの回はこれ以上の得点は出来ずにチェンジとなってしまったが、着々と得点をして行く事が出来ている。

 さらに得点を重ねていきたいところだ。


「4回!しまっていこう!!」

『おう!』


 4回の攻防。

 この回の長尾は先ほどまでの好投とは真逆に制球が悪い意味で安定しない。

 先頭の一番打者に対してはスリーボールから入れに行ったストレートを打ち返されセンター前ヒットで出塁すると2番明吉は送りバントを決め二塁へと進める。


 一死二塁となり、打席には3番打者が入る。

 マウンドの長尾は落ち着かない様子で立っており、その落ち着きのなさが裏目にでる。


 キィィィン・・・


「うわ・・・」


 長尾の投じたスライダーが真ん中付近へと投じられると打者が打ち返す。

 打球は長尾の横を抜けて行くセンター前のヒットとなってしまい、これで一死一三塁とピンチを広げてしまった。


「タイム」


 タイムを出す竹下。

 マウンドへと向かうと長尾に話しかける。


「長尾、大丈夫か?」

「あぁ・・・」


 言葉少なに答える長尾。

 疲れは無いようだが、やはり連打が応えたのか表情が曇っている。


「大丈夫だよ竹下。まだ投げれる」

「あ、あぁ・・・わかった」


 だが長尾の目は死んではいなかった。

 竹下はその目を信じ守備へと戻る。


(さぁ正念場だ)


 マスクを被りミットを構える竹下。

 その長尾の初球。


(甘い!!)


 甘く入ったストレートに4番の四ノ宮が振り抜いた。

 “キィィン”と打球音が鳴り響くと、打球はライナーで長尾の横を抜けて行く。

 “やばい持ってかれた”と竹下がそう感じた。


 しかし、その打球に飛びついた選手がいた。

 その選手はグラブをいっぱいに伸ばすとボールは地面に着く前にグラブの中へと収まったのだ。


「山本!!」


 山本のダイビングキャッチ。

 見事にキャッチに成功しアウトに取るが、ランナーは山本が起き上がる前に戻りオールセーフとなる。

 二死まで取ったもののまだ一三塁のピンチは変わらずの場面で、打席には5番の石井。


(こいつか・・・)


 石井は前の打席はセカンドゴロ。

 だが油断したら長打になってしまう。


(先ずは外から見て行くか)


 竹下はアウトコースへ構える。

 長尾はサイン通り外へのボールを投じ見て行くが、石井は動かない。


(何を待ってるんだ?)


 打席の石井を見ながら考える竹下だが、彼の表情から何も読めない。

 分かる事といえば、どこかイラつきを感じさせている程度だ。


(クソが、打たせるだろ普通。アウトコースとか投げんなよ腰抜けめ)


 そんなことを考えながらバットを構える石井。

 その石井に対して二球目もアウトコースへの変化球でストライクを取ると、三球目もストレートを投じストライク。

 これで追い込むことに成功するが、竹下はここまで一球も振ってこない石井に恐怖を覚える。


(何を待ってるんだ?怖いわコイツ)


 待っているのは何か、竹下は頭の中で色々と考えながらサインを出す。

 そして四球目も竹下はアウトコースへ構える。


(徹底的に外で勝負だ)


 ミットを構える竹下。

 長尾が投じた四球目、左腕から投じられたボールは竹下の構えた外ではなく内側へと入ってきてしまった。


(やばい!!)


 竹下が脳裏でそう叫ぶ。

 その失投を石井は振りに来ていた。


(ノーコンめ、これを待ってたんだよ!)


 カキィィィン・・・


 振り抜くバットにボールがめり込み弾き返された。

 打球は低い弾道で左中間へと飛んで行く。


(抜かれた・・・)


 あの打球は左中間を抜ける。

 そう確信してしまった竹下。

 そして打った石井も左中間を抜けたと確信しニヤリと笑いながら一塁へ走り出す。


「ふん。余裕だぜ」


 そう呟きながら一塁へと向かう石井。

 だが、球場から聞こえた歓声は石井のタイムリーでは無かった。


「な・・・に!!??」


 左中間へと飛んだ打球。

 その打球に俊哉が走り込み腕をいっぱいに伸ばしながらグラブの中へと収めたのだ。


「アウト!!」


 勢いのまま転げる俊哉は起き上がりながらグラブを差し出すと白球がしっかりと収まっており審判が確認するとアウトを告げる。

 その瞬間、球場中から大歓声が響き、大ファインプレーを決めた俊哉に向けられたのだ。


「ナイス!!」

「ナイスだトシ〜!!」


 マウンドの長尾は飛び跳ねるように喜び、竹下はグラブを叩きながらガッツポーズをし喜ぶ。

 他の選手たちもベンチへと戻る俊哉にハイタッチやグラブタッチを交わしに行くなど大いに盛り上がっている。


「あの・・野郎!!」


 そんな大盛り上がりの聖陵に対して、大きな怒りを向ける石井。

 特に俊哉に対してはより大きい怒りを向けられていた。


(誰の了承を得て俺の打球を取ってやがるんだ!偉そうにしやがってぇ〜・・・横山ぁ!!)


 口には出さなくとも、心の中で静かに怒りを燃やす石井。

 その石井はバットを手荒くバットケースへと叩きつけるように入れる。


「おい洋兵」

「あ?なんだ四ノ宮」

「カッカするな。そうなったらお前のプレーは粗くなる」

「うるさいな。わかってる」


 石井に対し忠告に似た言葉をかける四ノ宮に石井は突っぱねるように言い返しグラブを持ち守備へと向かって行く。

 そんな石井を見ながら四ノ宮は“ハァッ”とため息をひとつ吐き、彼もまた守備へと着くのであった。


 次回へ続く。

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