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青色の下で・・・静岡聖陵編  作者: オレッち
第壱章~新たな出会い~
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11話:様々な思い

山本のファインプレーが飛び出し良い感じのまま迎えた終盤戦。

しかし、打撃陣が続かない。

俊哉がヒットで出るも明輝弘はホームランを強く意識してなのか変化球に対して強引に振りに行き空振りの三振。

前の打席でも同じような変化球を空振り三振を喫しており二打席連続三振。


「クソが、変化球投げやがって、男はストレートだろ」


と誰にも聞こえない音量で呟きながらベンチへ帰る明輝弘。

周りには冷静に見せようとしているものの、バッティンググローブを強めにベンチへ叩きつけるなど多少なりとも形に出ていた。

だが、打撃の状況は芳しくないのは確かであり俊哉が塁に出ても後続が返せないという状況が出ていたのである。

春瀬監督はベンチに座りながら色々と考えていた。


(確かに横山、庄山をはじめ一年生は驚くほど能力が高い。だが、このままでは・・・)


と悩む春瀬監督。

そんな悩み事を余所に試合展開は意外と早く進んだ。

6回、7回、8回と聖陵打線が全く機能しなくなり、また同じように相手打線も桑野からバトンされた左腕の長尾のいい感じに散らばるストレートに的が絞れず凡打の山を築く。

そして試合は早くも9回裏の聖陵の攻撃を迎えたのである。

聖陵の打線は2番の山本から。

山本はこの試合2犠打とヒットは無しである。

一球目、二球目と見てワンストライクワンボールのカウントとなった三球目の高めへのストレートに山本は振りに行きカキィンと響かせた打球はフラフラと上がりセカンドとライトと間にポトンと落ちるヒットとなった。


「ナイスラッキー!えっと…村田!」


「山本だよ!!掠りもしてねぇぞ!」


とベンチからの竹下の言葉に鋭いツッコミを入れる山本。

何はともあれ無死でランナーが出て次の打者は今日3安打の俊哉。

するとその俊哉に対して相手バッテリーの取った作戦はなんと敬遠。


この光景を見て怒りが沸き出たのは次打者の明輝弘である。


「ほう、俺なら余裕かそうか…」


と呟きながら打席へとゆっくりと入る明輝弘。

大きく構える明輝弘に対し相手投手の投じた球はカーブ。

このカーブに明輝弘は今日一番のフルスイングを見せると風を切るようなスイングに一瞬だが投手が怯んだ。

その投手が投じた二球目は真ん中に入ってくる棒球。

明輝弘は逃さずその棒球を叩きに行くと打球は低い弾道を描きながら一二塁間を抜けていくヒット。


「なんでだよ…」


と気持ちはホームランであった明輝弘にとっては納得のいかない打撃で、打ち直せるものなら打ち直したいが時すでに遅しである。

そしてその打球に完全に怯んでいた相手投手の投じた初球を5番の望月が逃さなかった。


望月の放たれた打球はライナーで右中間を真っ二つに抜ける打球となり山本、俊哉を還す2点タイムリーツーベースを放ったのだ。

この望月は試合初ヒットであるものの、今までの打席ではすべて外野へのライナーを放っておりヒット性の打球であった。

3度目の正直ならず4度目の正直となった望月の打球を見て春瀬監督は彼の才能に惚れ惚れしていた。


(バッティングも良い…荒っぽささえなければ上位も打てる、良いセンスだ)


と望月の才能に感動すら覚える春瀬監督。

監督的にもこのまま逆転と行きたかったところであるが、そうは上手くはいかず6番堀、7番長尾、8番池田とあえなく凡退してしまいゲームセット。

結果7-4の敗北で試合を終えてしまったのである。


挨拶とグラウンド整備を終え帰路へと着く電車の中、各々がこの試合で何を得て何を見つけたのかを思い返しながら乗っていたであろう。

また春瀬監督もこの試合でこのチームに必要なものが見つけれたのであろうか?


そんな様々な思いを抱きつつ、聖陵野球部の今年初試合を終えた。



そして次の日の授業後には野球部はいつもの様に練習を始める。



(明輝弘は来るだろうか…)


とキャッチボールをしながら明輝弘を待つ秀樹。

また俊哉も来ることを待っており部室棟の方を見ながら待っていると、一人背の高い青年がゆっくりとした足つきでやってきた。


「来たか」


と安堵の表情を見せる秀樹。

彼の目線の先にはユニフォーム姿の明輝弘が立っていた。

何事も無いかのように入ってきた明輝弘に対し最初に会話をしたのは秀樹。



「おう遅いんじゃないか?」


「うるせ、トイレだ」


と言い訳にも似た言葉を発する明輝弘に対し秀樹はクククッと笑う。

続いて俊哉が来ると彼も笑顔を見せながら話す。


「大?小?」


「だからうるせっての!」


からかうように話す俊哉に言い返す明輝弘。

そしてそのまま練習が自然と始まりあっという間に練習が終了。

空も暗くなり片付けを終えた部員たちが部室で着替えをしたりして帰路へと着く中、明輝弘は秀樹を呼び止めた。


「おい望月」


「ん?」


と呼び止めに応じ立ち止まる秀樹。

明輝弘は少し黙ると口を開き話を始める。


「俺が来たことに何も反応はないんだな?」


「あ~、ぶっちゃけ嬉しいよ?勿論俊哉も他の連中も同じだと思う。でも、多分皆の心には必ず来るという思いがあったからなぁ。だから普段通り接し普段通り練習を行った。」


と話を続ける秀樹に明輝弘はどこか復雑な思いのほかに、安堵というような思いがあった。

恐らく明輝弘の中ではドラマの様なワッと皆が集まるようなシーンを連想していたであろう。だが現実は普段通りと変わらない光景が広がった。

また、明輝弘本人の性格上ドラマの様な光景は好きでは無く、ワッと来られても痒い思いしかしなかったであろう。

むしろ、普段通りの光景で良かったのかもしれないと思っていた。



「まぁこうして来たけど、俺はまだ正直疑心暗鬼だ。このチームでやっていこうかどうかも、俊哉の事もな」


「中々頑固だね」


「まぁな。。。でも、このチームには俺のようなスラッガーが必要だろ?」


と半分自慢げに話す明輝弘に秀樹は多少の間を置くもコクリと頷きながら話し出す。


「うん。確かに明輝弘の長打力は必要不可欠だ。その面では残ってくれたことに非常に感謝してるよ。」


と素直な感想を述べた秀樹に対し明輝弘は少し痒い思いを秘めながらも秀樹からその言葉を聞けたのは嬉しかった。


「そんなら、高校1のスラッガー目指してくれよな?」


「何言ってるんだ。もうすぐそこさ。来年にはなってるかもな」


「おぉ強気だねぇ。んでもまぁ…ぶっちゃけキツいかもなぁ」


と空を見上げ苦笑いを浮かべながら話す秀樹に明輝弘はすぐに反応を示した。

明輝弘自身、自分の長打力に置いては同学年では並ぶことはあっても抜きん出る奴はいないだろうと自負をしていた。

だが、すぐに秀樹の出てきた言葉に不満というよりは対抗心が出てきたのだ。


「ん?誰だ?」


「知ってると思うけど、神坂だよ」


「…知らん」


「え?中学の時にも新聞やTVにも出てたけど?」


「テレビは全く観ていないし、スポーツ新聞も読んでない。ていうか俺の中学ん時のチームが全国出てないのもあるが、選手の名前とか知らん。」


とキッパリと言う明輝弘に秀樹は“よくさっきの台詞が言えたなぁ”と思いながら苦笑いを浮かべる。


「ほら、俊哉の同じチームの4番だ」


「ほう。楽しみだな。高校で潰れないと良いがな」


とやや上から目線の発言をする明輝弘に秀樹は感心した。

知ってても知らなくても恐らく明輝弘は同じ言葉を言うであろう、そう感じると同時にこの屈託のなさと怖いもの知らずの性格は上手くいけばドンドンとレベルが上がっていくし、チームとしても柱としては十分であると秀樹は感じていた。


「まぁ、よろしく頼むよ明輝弘」


「あぁ。こちらこそ」


と軽く握手を交わし二人も帰路へと着くのであった。


次回へ続く。


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