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青色の下で・・・静岡聖陵編  作者: オレッち
第壱章~新たな出会い~
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10話:あれ位は序の口

初回に4失点を喫し静まり返るグラウンドに一人の選手の声が響き渡る。

その声の主は俊哉。


「大丈夫です!!自分たちが守ります!」


と声を飛ばす俊哉にうつむいていた桑野がフッと顔を上げた。

そして続く6番打者に対して桑野の投じた一球目は今までよりも遥かにいい球が放られ竹下の構えたミットに収まる。



「ストライク!!」


ストライクのコールが鳴り竹下がボールを返すと俊哉がすかさず声を掛ける。


「ナイスボールです!この調子で行きましょう!」


その俊哉の言葉に桑野は不思議な気持ちになった。

掛けられる言葉はいつもと変わらない、どこの野球部でもかけているであろう言葉。

しかし、俊哉の言葉は少し違っていた。



(力が抜けて…腕が今までより振れる!)


と二球目、三球目と投じるとすべて竹下の構えたミットへと放られ打者は驚いたのか手が出ず見逃しの三振。

続く打者は平凡なショートへのフライとなり早川が難なく捌いてツーアウト。


しかし次の8番打者は、キィィンという金属音が響くと打球は右中間への強い当たりとなり更なる1失点を覚悟した。


しかし、そこには俊哉が走り込んでおり腕を思いっきり伸ばしながらのランニングキャッチを成功させたのだ。


俊哉のプレーに“おぉっ”とざわめきが聞こえる中、秀樹や堀とハイタッチを交わし最後は桑野とハイタッチを交わしながらベンチへと戻ってきた。



「俊哉ありがとう」


「いえ。まだ大丈夫ですよ。勝てます」


と桑野のお礼の言葉に応える俊哉。

その彼の言葉に桑野はビビッと電流が流れた。


「お、おう!よっしゃ早川出ろよ!」


「おう!」


と打席へ向かう早川に激を飛ばす桑野。

このまま怒涛の反撃!!という訳にもいかず1番の早川がセカンドゴロ、続く山本もセカンドへのゴロとあっけなくツーアウトとなり、打席には俊哉が立つ。

右打席でバットを構える俊哉。

その彼を見ながらピッチャーはフッと口元をニヤつかせた。


(この俺様がこんな底辺校に打たれるかよ。これでも俺、中学じゃあ県大会ベスト8だったんだぜ!悪いが同じ一年同士だが、お前らとは実力に雲泥の差が…!?)


と全てを言い終わる前に投じられたボールが投手の顔面の横を通り過ぎていく。

俊哉の放った打球はセンターへのきれいなヒット。

ツーアウトながらも一塁とランナーを置き打席には4番の明輝弘が入る。


「…あのピッチャー大した事ないのか?」


「は?」


「いや、あんな綺麗なヒット簡単に打つからよ」


「アホか。アイツ中学では県内ベスト8の投手だぞ?お前頭沸いてんの?」


と明輝弘とキャッチャーとのやり取りをしながら、明輝弘は打席でゆっくりとバットを構える。

明らかに動揺を見せている相手投手を見ながら明輝弘はハァっとため息をつく。


「んでも、打ったヤツ。日本一らしいぞ?」


「は?んなわけねぇだろ?馬鹿か?」


「俺もそう思う、いや思ってた…が」


と話しながら投じられたボールに対しスイングをする。

その振りぬかれたバットにボールがめり込むと打球はまるでピンポン玉の様に弾かれるとライトの遥か後方へと飛んで行った。


「バカはテメェらだ。馬鹿が」


と呟きバットを放りゆっくりと走り出す明輝弘。

ダイヤモンドをゆっくりと回りホームを踏むと俊哉が待っており手を差し出しながら言う。


「ナイバッチ。久しぶりに見たよあんな打球」


「いんや。あれ位は序の口。もっと見たことない打球見せてやるよ」


とパチンとハイタッチを交わす2人。

そして明輝弘の心には少しだがある感情が出てきていた。



(俊哉と野球することが、おもしろい)


そんな感情が出てきていた自分がなんだか恥ずかしく感じる明輝弘。



試合は初回から4-2と大荒れの展開を見せた。

その後は2回、3回、4回と聖陵の先発桑野が粘りを見せるピッチングで無失点に抑えるものの聖陵打線が中々打てず点差を縮められない。

そんな中で迎えた5回に再び桑野が掴まってしまう。


先頭に四球で歩かせてしまうと続く打者にはピッチャーの股下を抜けるヒットで一二塁にされると3人目の打者には四球を与えてしまい無死満塁。

そして打席に立った打者に・・・


カキィン…


と快音を響かせてしまいライト線に落ちるヒットを放たれる。

一人二人と走者が還りついには三人目の走者もホームを踏まれるタイムリーツーベースヒットで7-2と点差を広げられてしまった。

茫然と立ち尽くす桑野に竹下が立ち上がりマウンドへ駆け寄る。


「ドンマイっす」


「あ、うん」


と意気消沈といった受け答えをする桑野。

そんな彼を見ながら横目にベンチの方を見るとベンチ横のブルペンでは長尾が投げ込みをしている。


(長尾が肩出来るまで少しかかるか…このまま引っ張るしかないか)


と考えた竹下は桑野の胸元をポンとミットで軽く押すとニッと笑みを浮かべながら話し出す。


「バックがいますから安心してください。この回の桑野さんは力みすぎです。先頭に四球を出してからストライクストライクと意識がモロ出だったので、逆に行かなくなってましたからもう四球出しても良いやくらいの気持ちで行ってみましょう。」


と話す竹下に桑野はハッとどこか我に返ったようになり、その表情は先ほどと比べてはるかに良くなっていた。

桑野の表情を確認した竹下はそのままホームへと戻りマスクを被りなおす。


(少しは気持ちが楽になったみたいだ。さて、あとはバックの頑張り次第だ。)


とサインを出す竹下に桑野はコクリと頷き投じた初球はインコースに決まるストレートでストライクを取るとテンポが良くなったのかなんとすべてストレートを投じコースにドンピシャに決まるストライクで見逃し三振に打ち取る。

そして続く打者に対しては変化球から入りツーストライクと追い込んでの外へのストレートを投じる。

だが、そのストレートを読んでいたのか打者のスイングしたバットにボールがめり込むと低い弾道で桑野の右を抜けていく。


(ヤベッ!)


とヒヤリと一瞬感じた竹下であるが、彼の目線の先に見えた光景にヒヤリとした感覚は無くなった。

低い弾道で一直線に二遊間を抜けようかという打球に山本がダイビングキャッチを見せたのだ。

腕を伸ばしたグラブの先にボールが納まると山本は逃がさんとばかりにグラブでしっかりと掴みながら滑り込み、立ち上がるとグラブと中に見事に納まっておりアウト。

すかさず山本の目線はセカンドベースへと向けるとランナーは抜けたの思ったのか飛び出しており二塁ベースから半分ほど離れていた。


「早川さん…間に合わない…なら」


と早川へトスをしようとするが早川もベースに付けていなかったため、山本は二三歩駆けると再びダイビングをしボールの納まったグラブで叩きつけるように二塁ベースにタッチ。


「アウト!」


審判の判定を待たずとも余裕のタイミングでのアウト。

山本のファインプレーでダブルプレーをして見せたのだ。


「ナイスプレー!!」


野手から山本に言葉を浴びせると山本は気恥ずかしそうにベンチへと戻る。

そして試合は中盤から終盤へと向かう。


次回へ続く。


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