ヒーローは存在しました
「な、んで……」
声が震える。自分が今見ているのは、夢?
(だって、傷つけた。ひどく傷つけたのに)
どうしてここにいるの。何で、そんな。
(助けにきてくれたの……?)
ドアの前に立った恭弥は息を切らし、激しく肩を上下させていた。どうやら走っていたらしい。長い前髪が額に貼り付いていた。
「キョウ……」
佐山に馬乗りになられたまま由良が弱弱しく呼ぶと、恭弥は無残に脱がされた由良を見て目を見開いた。そして彼の視線はそのまま、殴られたことで腫れた由良の口元へいく。
鷹のような瞳を鋭くすると、恭弥は大股で近寄り、佐山の胸倉を掴む。そのまま強い力で佐山を引き上げ、由良の上から引きずり落とした。
「ひいっ」
床に叩きつけられカエルのように潰れた声を上げた佐山に、恭弥は掴みかかった。
「お前……由良に何してる……」
恭弥は地を這うような声で佐山に唸った。恭弥の恐ろしい剣幕に、佐山は引きつけを起こしたように短い悲鳴を上げる。
「ど、どうして先輩が……」
「由良と約束をしていたんだ。それなのに由良がお前におぶられて保健室に行く目撃情報があったにもかかわらず、保健室に姿はなかった……。だから嫌な予感がして探していればこの様だ……」
「だ、だからって、何で僕らがここにいるって……」
「あてずっぽうで探すと時間を食うんでな。職員室でまだ返却されていない部屋の鍵を調べた。その中のいくつかから更にお前の目撃情報を頼りに保健室と逆の部屋に搾り、そして、部活が中止になったにもかかわらず電気がついている剣道部の部室に辿りついた……佐山お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」
佐山は小さく震えていたが、恭弥に責められ逆上した。
「う、うるさい! 大体、あんたが悪いんだ! 愛し合ってる僕と由良の仲を邪魔するから……僕の邪魔をするな!」
「キョウ!」
佐山がスラックスのポケットからスタンガンを取りだすのが見えた由良は、絹を裂くような声で叫んだ。
佐山は勝ち誇ったようにスタンガンを恭弥へ向けたが、その動きは恭弥に見切られていた。恭弥はスタンガンを寸でのところでかわすと、その腕を捻りあげ、逆の手で佐山の顔を床に押し付けた。
「ぐうっ」
「嫌がる女を無理やり犯そうとして、何が愛し合っているだ……。お前には由良に指一本でも触れる資格はない」
恭弥は冷たく吐き捨てた。
「愛し合いたいと言うなら、独りよがりをやめろ」
「う……うあああああっ! うるさい!」
佐山は全力で抵抗し、恭弥の腕からすり抜けた。獣のように這っていき、隅に立てかけていた竹刀を手にとって振り回す。ロッカーやベンチに激しくぶつかり、由良は竹刀の先端に突かれそうになって身構える。真っ赤になって竹刀を振り回す佐山を、恭弥は侮蔑的な目で見た。
それから恭弥は静かに一歩前に出る。ハラハラと成り行きを見守るしか出来ない由良に一つ安心させるような笑みを投げかけた恭弥だったが、それが佐山を余計刺激したようだった。
「僕を置いて、見つめあうな!! お前さえいなけりゃ由良は……!!」
佐山は竹刀を大上段に振り上げ、恭弥に襲いかかる。しかし――――……。
「そうだな。俺がいる限り、お前は二度と由良に近づけさせない」
矢のような早さで振り下ろされた竹刀を、恭弥は白羽取りで受け止めた。
「な……っ」
渾身の力を込めたにもかかわらず、びくともしない竹刀に佐山はうろたえる。その隙をつき、恭弥は受けとめた竹刀を握り直し、佐山から取りあげた。そして――――……。
「先に手を出してきたのはお前だからな」
竹刀の持ち手の部分で、佐山のみぞおちを突いた。その衝撃に佐山はよろめき、二、三歩下がったあとロッカーに背中をぶつけた。そしてそのままズルズルと崩れ落ち、気を失った。




