神聖な場所で盛ってはいけません
絆創膏を貼ったことで靴ずれの痛みから解放された由良は、穴場という言葉に一抹の不安がよぎっていた。
脳みそが下半身についているような男たちにナンパされ、乱暴目的で車に連れこまれそうになった由良は、ふと思い出したのだ。
浴衣に花火、そして穴場。この条件は漫画でよく見る、夜空に咲く大輪の花をバックに外で生ハ○セックスをされるパターンではないかと。
いつもとは違いあわらになった細い項と下着をつけていない浴衣姿。胸元へ手をいれやすい襟元と暴きやすい裾。そして何より夏の夜というムードによって男が獣になるのは自明の理、そして自然の摂理だ。
ただの男でさえそうなのだから、雄の中の雄と言わんばかりにスパダリオーラを放つワイルドな恭弥が何もしないわけがあろうか。いやない、と由良は青ざめる。
由良がエッチな漫画で培った知識が正しければ、恭弥のようなタイプの男は女を抱き飽きているため、違ったシチュエーションでのエッチを好む。
そう、いつ誰の目に止まるかと不安に駆られた女が余計に興奮し、火照った肌を撫でる風にさえ感じてしまうようなこの非日常のシチュエーションを恭弥は好むはずだ。由良はそう思った。
(間違いない! これは絶対にアオカンされる……!! 花火が見える穴場とかうそぶいたキョウに神社の裏手に連れこまれ、乱れた浴衣の襟から手を突っこまれて花火をバックに夜空の下アオカンされる……!)
「ここだ。のぼるぞ。足元気をつけろ」
石段を前にした恭弥は、裾が長い浴衣姿で足元が見づらい上、慣れない下駄を履いている由良を気遣って声をかける。しかし由良は、眼前に広がった建物に身構えた。
「ここが穴場ですか? 神社……?」
(ほらきた! やっぱりアオカンする気だなキョウ……!)
花火大会の会場からそれた住宅街に、ひっそりとした石段が続く神社があった。
(ここで、キョウに犯される……!?)
ごくりと生唾を飲む由良。妄想は花火のように夜空へ舞い上がり開いた。
ドン、ドン、と腹の底に響くような音を立てて、夏の夜空を花火が彩る。花火が上がる度に神社の裏手が照らし出され、快楽に溶かされる由良の顔を妖しく照らした。
『ん……キョウ……誰か来るかもしれないから……やめ……』
漏れ出る喘ぎ声を抑えるため、口元にやった手を噛んで快感に耐える由良。すでに恭弥の巧みな指使いによってグズグズに溶かされた下半身は浴衣によってかろうじて隠されているものの、裾の合わせ目には恭弥の逞しい腕が入り、由良を翻弄している。
下半身から響く水音が羞恥を煽り、由良の自尊心を傷つけた。乱れた浴衣から覗く太ももは情けなく震え、波のように襲いくる気持ちの良さに抗おうとするが立っているのがやっとだ。
とうとう膝から崩れ落ちそうになった由良は、毛嫌いしている恭弥の腕に縋って持ちこたえるしかなかった。
いっそ怖ささえ感じるくらいの快感を霧散させようと首を振れば、それを嫌がっていると捉えた恭弥に、乱暴に胸元をまさぐられ浴衣越しに主張している部分を弾かれる。我慢しきれず哀れな声を漏らした由良の眉は、苦悶に歪んでいた。
また一つ、恭弥の後ろで大きな花火が咲き誇る。蒼く照らし出された恭弥の顔は、欲望に染まっていた。
『キョウ、待って……こんなところで……』
『神様に見られるかもしれないと思って興奮するか? 淫乱な女だな』
『ちが……っきゃあっ』
口答えをするなと言わんばかりに、由良の肌を滑る恭弥の手つきが性急さを増す。そのまま片足を抱え上げられた。大事な場所が空気と恭弥の目に晒される。
『や、足、おろして……』
『そのままじゃ繋がれないだろう?』
『そんな……』
厳かで神聖な雰囲気が漂う場所で、淫らなことをしている。その背徳感が由良を酔わせ、背中をぞくぞくとした快感が駆けあがった。
皆は純粋に花火を楽しんでいるのに、自分たちだけが淫らな行為に溺れている。湿った肌を撫でる風でさえ快感の材料にしかならなくて、由良は戸惑った。
『だめ、だめなの……っだめなのに―――――……!』
「どうした?」
黙りこんだ由良を不審に思ったのか、恭弥が覗きこんできたため我に返った。しかし、由良は心の中で
「どうもこうも、貴方がエロの権化だからですよ……!」
と臨戦態勢に入った。自然と拳を握ってしまう。
先ほどは恭弥の力に叶わなかったが、恭弥にだって隙くらいあるだろう。大事な部分を蹴りあげて再起不能にしてやってでもアオカンを阻止してやると由良は決意を固めた。




