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偉大なる先人

作者: 目262

 星々が輝く宇宙空間に一人漂いながら、俺は途方に暮れていた。

 事の起こりは数時間前、人工衛星の修理のため、母船から離れて活動をしている時だった。奇跡のような確率で突然飛来した小石ほどの隕石が、俺と宇宙船を結ぶ命綱を断ち切ってしまったのだ。衝撃のせいで俺は遥か遠くに飛ばされてしまった。宇宙服の姿勢制御用のガスを吹かしてどうにか停止する事はできたが、もはや肉眼では母船を発見できない距離まで飛ばされてしまった。

 宇宙服に残された酸素はあと僅か。限りあるガスを使って勘を頼りに動いても母船に辿り着くのは不可能だ。

 俺はすっかり観念して周囲を見渡した。地球は俺の足元で蒼く美しく輝いている。対照的に、周囲の空間の汚い事。ロケットの破片や老朽化した衛星がデブリと化して至る所に漂っている。

 だが、これらは人類の夢の残骸だ。ガガーリンやアームストロングといった偉大なる先人達が切り開いた道に佇む道標だ。その道標の一つに俺はなるのだ。世界最先端の科学技術の現場で働いてきた事を、俺は誇りに思う。だからここで死んでも悔いはない。俺は目を閉じて、最後の瞬間が来るのを静かに待つ事にした……。

 やっぱり死ぬのは嫌だ!一分もたたない内に、俺はパニックに陥っていた。やりたい事も我慢して、懸命に訓練に励んで宇宙飛行士になれたのに、こんなゴミ溜めで干物になるのは真っ平だ!誰でもいいから助けてくれ!

 その時、必死にもがいている俺のヘルメットの後部に軽く何かが当たった。それに目をやった俺は仰天した。

 科学技術の粋を凝らさなければ到達できないこの空間には全く不似合いな物だったのだ。だが、これが本物ならば帰れるかもしれない。駄目で元々。俺は最後のガスを使ってその物体に近づき、意を決してまたがった。


「やはり、あれを持ち帰る訳にはいかない」

 船長が苦い顔をして帰還した俺に言った。

 当然だろう。地上に帰っても、 説明できないからだ。ヘタをすれば正気を疑われて、飛行士のキャリアを失ってしまう。俺が乗ってきた物は、ガガーリンの数百年前に宇宙に到達した偉大なる先人が存在した証拠なのだ。

 俺は溜息をつき、心の中で偉大なる先人に詫びた。彼女、おそらくは黒装束でとんがり帽子をかぶり、天を駈けた鉤鼻の老婆には悪いが、歴史の闇に消えてもらわなければならない。

 俺はエアロックに行き、古びたほうきを漆黒の宇宙空間に返した。

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