第2話マイネームイズ…
ユークリッド。これが僕の今世の名前だ。
高校生の知識でユークリッドといえば、ある有名な計算方法を編み出した人だっていう程度。
そんな人と同じ名前なんて今にも計算が速くなりそうだけど関係なかった。
とにかくこの世界、少なくとも僕のいる国もしくは地域は名前の付け方は前の世界と同じらしい。そしたらトムとかジョージとかいるのかな。ルートヴィヒとかもいるかも。
とかそういうことを考えるぐらいこの状態は暇だ。
初めて母親と思しき人と会ってから大分経った。感覚的には半年ぐらい。
でもベビーベットから見る外の景色や使用人さん達の服は変わらない。冬の装いだ。
使用人さん達は厚着、少なくとも長袖で毎晩部屋の暖炉の火は途絶えないようにしていた。
暖炉の火が消えると次の瞬間には使用人が入ってきて一瞬で火を灯してくれるのでなにかセンサーか、タイマーみたいなのがあるのかもしれない。
そして窓の外。今の僕は最近やっと数秒つかまり立ちが出来るくらいなのでちゃんとは見てないが、使用人さんがたまにカーテンを開けてくれるので見てみると一面の雪景色だ。それに感覚的にだけど1週間に1度くらい猛吹雪の日がある。
だから実際に過ぎた時間は1ヶ月も経ってないかもしれない。ここが雪国だったらもっと経ってるかもしれないけど。それに地球の時間経過とは違うかもしれないし。
他にもいくつか観察していて気付いたことがある。
まずこの世界には獣耳の人がいる。使用人の中に何人か混じっているが、帽子のところから猫耳っぽいものが見える人がいる。あと尻尾も。
ただそういう人たちは他の獣耳がない人より少し服が汚れてたり継ぎ接ぎだらけだったりするので位が低いのかもしれない。中世っぽい世界観から考えるともしかしたら奴隷かも?
そして言葉。この世界、もしかしたら地域かもだけど少なくとも英語とかフランス語とか地球でメジャーだった言葉は使われてないらしい。もしかしたら僕の知らないアフリカの奥地の少数民族の言葉という可能性もあるけど。
そしてもう一つ、これが一番の驚き。この世界では…魔法がある。
正確には“魔法かもしれないもの”だ。「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」って誰かが言ってた。
でも十中八九魔法だろう。暖炉に火をつける時になにか呟いた瞬間火が灯ったのを見たからね。ライター的なものは無かったと思う。そして呟いた瞬間使用人さんのまわりの空気が動いた気がした。多分魔力の流れ?そんな感じなのかも。
たまに手に小さな鳥籠のようなものを持っている人が火を灯しにくる。中にいるのは小さな赤いトカゲ。それがボーッと火を吹く。
前世のファンタジー知識から考察するに多分サラマンダーとかいうヤツかも。そういう幻獣とかがいる世界らしい。スライムとかゴブリンもいるのかな?見てみたいな。
さらに観察していると、使用人一人ひとりが何か発してるといつことに気付いた。それは波長とか色みたいなもので特に魔法を使う時に強くなるからDNAみたいに固有のものがあるのかも。
たまにそういうのが極微小にしか感じない人がいる。そういう人はさっきのサラマンダーを連れてくるので多分魔力を持たないのかも。
繰り返し魔法を使う人を見ていると自分の周りにもそういうものがあるのに気付いた。人から出てくる者とは違ってとくにこれといった波長は感じなし色のようなものも見えない。もしかしたら純粋な魔力ってやつかな?わからないことが多い。
そして最近の発見、というより課題かな?
僕は魔法が使えるのでしょうか?
僕としては折角魔法のある世界に来たのだから使えるなら使ってみたい。でも残念なことに使い方はさっぱりわからない。僕自信こういう異世界ファンタジー物のゲームと小説は嗜む程度には読んでたけどなぁ。
言葉を発することが起爆剤となるならしばらくお預けになってしまう。
でも、言葉を発してないサラマンダーはどうやって火を吹いてる?サラマンダーも火を吹く時魔力の動きが感じ取れるのであれも魔法なのだと思うけど。
もしかしたらこの周囲に漂う無色な魔力が関係してる?
注目して動けと念じてみると渦を巻いた気がする。これを集めればなにかできるかな?
とりあえず火よ灯れと念じてみる、
……うーん、一瞬渦が動いたような気がするけど。駄目っぽい。
まあここでほんとに火が灯って騒ぎを起こしてもねぇ。危険だし。
とりあえずこの魔力の動きは注視しておこう。
あー、早く自分で何でもできるようになりたい。乳児の体は何かと不便だし暇だ。ベビーベットの柵につかまらないで歩く練習とかもしてみよう。
それに言葉がわからないのも辛い。たまに部屋の外で使用人たちが聞こえてくるから注意して聞いてみようか。リスニング苦手なんだよなぁ。
ある程度分かってきて、簡単な会話ができるようになったら次は読み書きだな。少なくとも本は読めるようになりたい。この世界のことを詳しく知りたい。
どうせ時間は今の所は腐るほどある。一つ一つ確実に出来ることを増やしていこう。