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第六話 『旧校舎の人体模型』

 上長東高校には旧校舎がある。

 漫画じゃあるまいし、さっさと取り壊してしまえば良いのにと思うが、何か事情でもあるのだろうか。

 

「明さん、気を引き締めて入りましょう!」


「っふ、こ、怖くなんかないぞ!」


 誰もそんな事聞いていないのだが。

 という訳で――。


 俺達は、初めての部活動へ取り組もうとしていた。


「それにしても、どうして壊されないのでしょうか」


 桜木も俺と同じ疑問を口にする。 

 まぁ、殆どの上長生は同じことを思っているだろうが。

 桜木の疑問に、光貴が答えた。


「おそらく、結界だ」


「結界?」


 まぁ明らか答えになってない返しではあるが。


「ここ一帯には、ある禁呪キンジュが罹っているんだ。それを封印する為に、この校舎は残されている」


 最後に「っふ」と言って旧校舎を見上げる光貴。

 何枚か通販で買ったであろうお札を握り絞めていて、少し足が震えている。

 清々しいほど頼りない。

 というか意味不明なのだが、禁呪の封印ってなんだ。


「そんな秘密が、凄いです光貴さん! どこで知られたのですか!?」


 真に受ける桜木である。

 いやはや。


「ごめん桜木さん、これは言ってはいけないんだ。最悪、桜木さんの身に危険が及ぶかもしれない」


 どう解釈すれば危険が及ぶのだろうか。

 光貴の脳内設定を聞くと、何かしらの祟りでも起こるのやもしれん。

 ……んな訳なかろう。


「桜木、あまり真に受けるな。というか一切真に受けなくて良いぞ」


「ですが……まぁ、明さんが言うなら」


 光貴がしょぼんとする。

 無視しておこう。


「さて桜木、今回の目的の整理だ」


 そう言うと、桜木の表情が締まる。

 俺は続けた。


「旧校舎にいる意思を持った人体模型、それが今回俺達が旧校舎に入る目的だ」


 いや、少し語弊があるか。


「ええ、その正体を解明できれば、オカルト研究部に入部してくれる方がいると」


 補足してくれた桜木に心の中で少しだけ感謝をしておく。

 言伝ではあるが、光貴がとりつけた入部希望者がそう言ってきたらしい。

 コミュ障の光貴が希望者を見つけるとは思っていなかったが、光貴なりに桜木へ償いをしたかったのだろう。


「人体模型と言うのだから、とりあえず理科室を探そう、効率を上げる為に三人別々で――」


「いや」


 光貴が被せるように否定してきた。


「もしもの時がある、三人で探そう」


 俺の目を見て、真剣に提案してくる光貴。


「……お前が怖いだけだろ」


「っふ」


 ごまかすなよ。


「では、三人で探しましょうか!」


 そう言えば桜木は怖くないのだろうか、むしろいつもよりテンションが高い気さえするが。

 オカルト好きの血でも騒いでいるのやもしれん。


 さて。


 入るか。


――――


――


――旧校舎――


 中は思ったよりキレイだった。

 おそらく定期的に清掃を行っているのだろう。

 外観の古さから多少の覚悟はしていたのが、拍子抜けである。


「いやぁ、良かった! 悪霊の気配は一切無さそうだ!」


 謎のテンションになった光貴。

 言いながら握っていた怪しい札をポケットに入れた。

 恐怖心は無くなったのだろうか。


「やっぱり、別々で探した方が良いかもね!」


 いやはや。


「折角ですし、このまま一緒に探しませんか?」


 三人一列になって歩いていたのが、桜木は足を止めて言い返す。

 

「初めての部活動ですからっ」


 振り返って見たのは、春風が似合いそうな笑顔だった。

 

「それも、そうだね」


 気まずかったのか、愛想笑いをする光貴。

 一方俺は、


「どっちでも良いさ、早く理科室を探すぞ」


 どうでもよかった。

 いずれは辞める部活、別れる事になる奴等なのだから。


――。


 理科室は二階の最奥にあった。

 だが。


「駄目だ、封印されてる」


 普通に鍵が閉まってると言え。

 さて。


「どうしましょう、明さん」


 横から俺をチラリと見てくる桜木。

 少し不安げな表情、もしかして頼られているのだろうか。


 人の期待に応えることは、無色透明の理念には合わない。

 だが失望されることもまた、一つの後悔である。


――鍵か。


「職員室」


「え?」


 光貴が聞き返して来た。


「何所かに保管されてあるはずだ、旧校舎の鍵は。でないと人体模型の噂が出てくるハズが無い」


 桜木は顎に手を当てる。


「火の無い所に煙は立たない、ということでしょうか」


「ああ、だがあくまで可能性だ」


 旧校舎の管理者がまとめて鍵を保管している可能性は高い。

 だがその場所が職員室であるとは言い切れない、一つの可能性だ。


「明さん、なんだが探偵みたいですね!」


「――ッ」


 別にそんなつもりで言ったワケじゃない。

 でも、ちょっとだけ、妙に自分が褒められたような気がして。

 ああクソ。


「早く行くぞ、暗くなったら流石に危ない」


「ふふっ」


 妙に心を見透かされた微笑が聞こえたが、無視だ無視。

 気安く俺の心に入って来るんじゃない。


――。


 職員室にはすぐに到着した。

 一階を探索中、既に見つけていたからだ。


 職員室のドアを開ける、カギはかかっていないらしい。

 そして――。


「なんだ、アレ」


 最初に目に入ったのは、錆びだらけの箱だった。

 横には紙。和紙であろうか、達筆な字で何か書かれている。


 職員室を少し見渡して他に異常が無いことを確認し、桜木と光貴も中に入れる。

 ……というか、何故俺が主導しているのだ。

 

 桜木と光貴も箱に気付いたようで、俺をチラと見て来た。

 これ以上主導する気は無かったので、そっぽを向く。

 そして、桜木が紙の文字を読み上げた。


「上長の学び舎で歩む者達、それらを知れば、封印は解かれん」


「封印だと!?」


 やはりそこに反応したか光貴よ。

 封印とはおそらく――。


「多分、この箱のことでしょうね」


 桜木が箱を喋りながら呟く。

 箱には三桁の数字を入力できるダイヤルがあった。

 おそらく正しい数字を入れれば、箱が開く仕組みなのだろう。


 一気にキナ臭くなったな。

 明らかにこれは人為的に配置されたモノだ。

 置いた犯人は――この噂を流した張本人、入部希望者だろう。


 オカ研が入部するのに相応しい部活なのか、試しているのか?

 それとも只の愉快犯、どちらにせよ――。


 気になるな。


「桜木、それ見せてくれないか」


 知的好奇心、なのだろうか。

 俺には生まれつき妙に気になった事を知りたがる癖があった。

 無色透明の理念と相性は悪いが、こればかりは治せない。


 桜木から紙を手渡しされ、自分でも読み返す。


『上長の学び舎で歩む者達

 それらを知れば

 封印は解かれん』


 ナゾナゾ、ですらないなこれは。

 だが難易度は異様に高い。

 

「明、わかったか」


「わかったも何も、そのまんまだ」


 眉根に皺を寄せる光貴を見て、少しだけ優越感を覚える。


「人数だ、在学中の上長生の人数を入れれば良い」


 桜木がパンと手を叩き、


「なるほど! 確かに生徒人数を入れろと読めますね! ですが在校生だけとは限らないのでは?」


「それは無いな、ダイヤルは三桁、卒業者の人数を入れると四桁どころか五桁は超える」


 確かに、と言って桜木は顎に手を当てて、計算を始めた。


「そのままの計算で行けば五クラス四十人、特進クラスのA組が二十人で三学年ですから、六百六十人」


 これを仕掛けた奴が単純な人間であれば、『660』が正しいだろう。

 まぁ、あとは前後を弄るだけでいいし、そのまま回すか。


 自分の中に残る疑問を無視して、錆びた箱のダイヤルを回してみる。

 

――回らない。


 堅い、どうやら中も錆びているらしい。

 なんとか回し始めたものの、一度止まればもう回せるかどうかすら危うい。

 三桁目の数字を『6』にまで合わせはしたが、さて。


「問題を出すにしても、もっとマシな道具を使って欲しかったな」


 三桁目を再び回そうとするが、案の上回らない。

 おそらく、他のダイヤルも同じ状況になっているだろう。


「つまり、失敗は許されないと」


 桜木の息を呑む音。

 どうやら疑問を解決する必要がありそうだ、再び文を読み返す。


『上長の学び舎で歩む者達

 それらを知れば

 封印は解かれん』

 

 まぁ、この書き方なら、こっちだろうな。

 二桁目の数字を『5』にまで合わせ、止める。


「明さん、六では?」


 少し焦りの入る声で言う桜木。

 

「いや、これで良い。アバウトな人数を入力すれば良いのなら『それらを知れば』なんて書かない、と思う」


 あくまでこれは俺の推理だ。

 不満を言いたげな桜木だったが、それを光貴がたしなめる。


「っふ、大丈夫だ桜木さん。明はこういう時、絶対に間違わない」


 光貴の主観では確かにそうかもな。

 失敗したら、ルーズ&リープを使えば良いのだ。

 だがそれはあくまで失敗したら、なるべく使いたくはない。


「光貴、お前の力を借りてもいいだろうか」


 であれば、光貴の能力が必要不可欠だ。

 もっとも能力と言えるほどの代物ではないが。


「もちろんだ! なんだ、邪眼か? でも悪い明、今日は少し調子が――」


「違う。全校生徒の具体的な人数を、教えてほしい」


 おそらく入部希望者が望んでいる数字は、正確な数字。


 上長の校則は緩い、そして緩すぎるが故に、毎年恒例の様に退学する生徒が現れる。

 なら二桁目は六ではなく五、他にも転校とかの理由で学校を去る生徒もいるだろうしな。

 逆に転校してくる生徒もいるだろうが、退学する人数を上回っているとは考えにくい。


「全校生徒は、六百五十一人だ」


 危なかった。

 あぶないあぶない、十人以上退学か転校をしている生徒がいる可能性を想定していなかった。

 いやはや。


 ダイヤルを回し、『1』に数字を合わせる。

 そして――。


「凄いです二人とも! 開きましたよ!」


 中には鍵が入ってあった。

 間違いなく、理科室の鍵のハズだ。


「っふ、当然! 明と僕にかかればこの程度!」


 なんとか一発目で成功できたか。

 最悪リープ繰り返すことも視野に入れていたが、なによりである。


「それにしても凄いですね光貴さん、いつ全校生徒の人数を?」


「週刊上長に書いてあった」


 さも当然のように応える光貴。

 だがもちろん、桜木は納得し切れていない。


「光貴の記憶力は異常でな、だから少し見ただけの情報も、大体覚えてる」


「っふ、これも明の推理あってこその力さ!」


 推理か、悪くないな、うん。

 そう言えば桜木のクラスはどこなのだろうか。

 未だ腑に落ちない桜木に、クラスを訪ねてみる。


「A組ですが、どうされました?」


 ……初推理は失敗だったらしい。

 確かに桜木は頭も良さそうさだし、特進のA組でも違和感は無いな。

 なんとも、微妙な推理力である。


――。



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