第四十一話 『深夜活動』
深夜の学校に平気で出入りする部活動、それがオカルト研究部である。
オカルト研究部なのだから、ある程度先生方も深夜に活動できないよう警告はしてくると思っていたのだが、部の結成以来、そんな話は一度として聞いたことが無い。
これは桜木がA組の優等生であることが大きいだろう。
あとは部員が基本的に害がなさそうな生徒だから。
なので警戒されずに、二日連続で普通であれば立ち入り禁止の深夜学校に入れているというワケだ。
「では皆さん、今日は幽霊と話すのが目標です、頑張りましょう……!」
声を潜めて言う桜木。
それに応える様に頷き、今日で自由の島津像を解明することを覚悟する。
時間は有言だ、タイムリミットは不明、だからこそ急がなければならない。
「拙者、桜木たんの肌が心配でござるよ」
言うチャタロー、確かに一理ある。
無理をするなと言いたい所ではあるが、桜木がそれを素直に聞くとは思えん。
それならこの深夜活動を、なるべく早く終わらせるのに限る。
「心配して下さってありがとうございますチャタローさん、でも大丈夫です、部長ですからっ」
部長であることと肌のコンディションは関係しないと思うのだが。
「そ、それで、いつ動くのかな、あれ」
光貴が一ダースはあるであろう札の束を握り絞めて言う。
門限はどうしたのだろうか。
まぁ俺が聞くことじゃないか、そこまで重要な話でも無いしな。
「わからん、昨日動いた時間は二時半は過ぎていたから、同じ時間に動くのならもう少しだ」
島津像を見てみる、そう言えばじっくり見てみると、僅かにだが昨日とポーズが違う気がする。
もしかしたら今までも毎日少しだけ違うポーズだったのかもしれん。
「というかチャタロー、本当に来て良かったのか? あれを見てまだ協力するなんて、よっぽどだぞ」
光貴は部員だしわかる、ちなみに東堂は深夜活動は不可。
そんな中自称名誉部員として自由の島津像に参加しているチャタローだが、こいつがそこまでして参加する動機が不明である。
チャタローはあっけらかんとした表情で、
「何を言ってるでござるか明殿、拙者名誉部員でござるからして?」
よっぽどオカルトが好きなのであろうか。
「お前、こういうの好きなのか?」
「深夜徘徊? もちろん好きでござる」
……いやはや。
どうやら自己欲求を満たすための口実として、オカ研は利用されているらしい。
もしもの時はチャタローを囮にして島津像とコンタクトを取るか。
さて。
「まだ時間に余裕はあるが、早めに昨日と同じ場所で待機しておこう。俺とチャタローは島津像と早く接触できる場所で、桜木と光貴は安全な場所で見ていてほしい」
言って、桜木と光貴が不満な表情を見せた。
「悪いな、桜木は部長だがそれ以前になんだ、怪我されたら困る、というか、そんな感じなんだ、わかってくれ」
相変わらず不器用だなと自分でも思いつつ、すぐ光貴の方を向く。
「光貴はまだ島津像の動いてる所を見たことがないだろう? 実際まだ半信半疑な部分もあるハズだ、だからまずは見ていてほしい……それに」
「それに?」
光貴が聞き返してくる。
少し言うのは恥ずかしいのだが、
「もしもの時は桜木を守って欲しい、頼めるのはお前だけだからな。チャタローじゃ逆に危険度が上がる」
「拙者危険人物扱い!? いやまぁ一理あるでござるが、そもそも拙者の立ち位置が危険な役割で確定している件について」
光貴はそれを聞いて驚いた様に口を開かせたが、すぐに口を閉じ、目つきを変える。
「っふ、任せろ明、俺の邪眼で全てを焼き尽くしてくれる」
「ああ、頼んだ」
光貴は信用ができる。
だからこそ嘘を吐かれた時は怒ったが、あれは俺への依存からくるモノだった。
依存が関係しない事柄なら、光貴は俺が一番信用している人間だ。
「なんだか頼ってばかりですね、申し訳ないです」
桜木が言う。
「気にするな」
好きでやってるだけだ。
――――
――
「やはり、昨日のは間違いじゃなかったでござるな」
今日も、島津像は動き出した。
昨日より警戒している様子はあるが、先日と同じくラジオ体操をしている。
「走るぞチャタロー、アイツの足は遅い」
現行犯で捕まえるしかない。
「明殿って、命知らず?」
「いや、昨日の島津像の行動を考えるに、こちらへ敵意は持ってない、そう思った。それに万が一の時には肉壁がある」
「拙者を見て言わないで、まだ色んな痛みを感じたいのでござる」
チャタローの言葉を無視し、走り出した。
言葉でこそチャタローに協力は仰いだが、こいつは一般人だ、危険なマネはさせたくない。
だから付いてこなくても良いと思ったのだが。
「まてぇーい! 悪霊退散でござるよぉ!」
どうやら、本気でオカルト研究部として活動したい様である。
チャタローの声に気付いた島津像は、慌てて昨日と同じ退路に行こうとしたが、
「どっせーい!」
チャタローが島津像を捕まえた。
早すぎだろ、瀧よりも早いのではないだろうか。
だが島津像の力は相当らしく、じわじわ島津像が歩んでいく。
「ぐ、ぐぬぬぬ」
チャタローの踏ん張りの甲斐もあり、俺も追い付き島津像を引き留める。
怖さはある、だが関係ない。
「おい! 俺達は別にお前を壊そうなんて思ってない、分かるか、喋れるのか!?」
とりあえずコミュニケーションを図る。
だが島津像からのアクションは無い。
じりじりと進んでいく島津像、一体どうすれば、そもそも自由の島津像の解決って何を指すんだ。
くそっ……。
「――お願いです! お話だけでも!」
桜木の声だ、どうやらたまらずこちらへ来てしまったらしい。
いやまぁ、この状況を見て駆けつけない桜木ではないか、目をやると光貴も付いて来ている。
そして気のせいかはわからないが、島津像の歩みが止まった気がした。
『オレ、コトバ、ワカラナイ』
重みのある声が、響く。
口から出ていると言うより、体から鳴っているような声だ。
「喋ったでござる! 拙者達敵意はないでござるからして!」
「無駄だチャタロー、どうやら喋るのは苦手らしい」
ならどうする……。
『ああスマン普通に喋れるわ、何か喋れないと思ってたけど、喋ろうと思ったら喋れたわこれ』
えぇ……。
『お主ら昨日も来てたよね、物好きじゃのう、絶対怖いじゃろ動く銅像とか、ワシが生きてた頃でも怖いわ、ガハハ!』
ちょっと待て。
「ノリ、軽すぎないか」
『お化けが皆怖いとは限らない、そもそもワシが怖がらせる理由ないし? ただ気が付いたら銅像の中に入っちゃってるだけだし?』
鈍い動きで周りを見る島津像。
目線は桜木の場所で止まり、反射的に手を桜木の前に出す。
『ああスマンスマン、変に警戒しなくでもいいぞマジで、ただこの女子の声と容姿が、ワシの知り合いに似ておってな』
とりえず礼をする桜木である。
「じゃあ話をさせて貰う。まず俺達についてだ、俺達は学校の七不思議を追っていて、深夜に独りでに歩く銅像がいるという噂があったんだ。だからこの時間に学校にいる。この銅像はお前で間違いないよな」
頷く島津像。
『いやまぁ、折角動けるなら動いた方がええじゃろ? なんか動こうと思ったら動けたんじゃよ、喋ろうと思ったら喋れたのと同じ感じで?』
「なら、動き始めたのはいつなんだ? そもそもお前の存在が意味不明だ、その辺りを教えてくれると助かる」
地響きの様に唸る島津像。
『そう言われものぅ、動けるようになったのはワシがこの銅像に入った時じゃ、暦は一カ月も経っていないじゃろう。そもそもワシは守――』
キーンコーンカーンコーン。
鳴った。
鳴るはずの無い時間に、校内放送からチャイムの電子音が。
「え、なんで、何でなるの?」
光貴が明らかに動揺した声色で言う。
他の皆も、この状況を把握できずに沈黙していた。
『……マズいの、邪悪な気配を感じる……お主らは逃げた方が良い、何かが来る』
気配、なんだ、何が来ると言うのだ。
俺がそれを聞くまでもなく――その正体は、姿を現した。
「な、何、アレ……か、影?」
全身が影で覆われた人の様なナニカ。
忘れるはずが無い、アレは桜木が変容した時に見せた――黒の化物。
お待たせしました、更新再開です。
更新頻度は毎日とはいきませんが、三日に一度は更新していきたい所。
これからもルーザー&リーパーをよろしくお願いします。




