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第三十七話 『転校生、委員長、変態』

 ……終わった、俺の夏休み。


 夏祭り、桜木の浴衣姿、ナツとの再会、ホームズの読破、実に高校生らしい、充実した夏休みであった。

 球技大会では苦い思い出をしたが、まぁ引きずる程でもない。

 

「さて、皆さん席が一席増えているのでお気付きかと思いますが、転校生がこのクラスに来ます」


 少し教室がザワつき、静止する為我がクラスの空気先生、千葉がパンパンと手を叩く。

 意外にも早く静まり、千葉が続けた。


「では、入って来て下さい」


「――はい!」


 そいつらしい底抜けの明るい返事が返って来ると、扉が開かれた。


 ショートカットに焦げ茶の髪、少し日に焼けた肌と何所も主張していない体が、なんともスポーツ少女らしい。

 もっとも、本人は運動できる程の体力は無いハズだが。


「名前と挨拶をお願いします」


 相変わらず感情の起伏なく進行に努める千葉である。

 奥さんから逃げられて感情を無くしたとかなんとか、あくまで噂だが。


 ナツはまた「はい!」と元気よく返事をし、


「山中夏未です! えっと、色々あって引っ越してきました! 一杯仲良くしてください! よろしくお願いします!」


 礼をするナツに合わせ、パチパチパチとクラスの皆が拍手をする、もちろん俺もである。


「席はこちらです」


 千葉がコチラと言ってナツに示した席は、俺の隣である。

 つまりは最前列、後ろに雅也、委員長がいる場所だ。

 そして委員長を見てみると、妙にそわそわしている。

 

 珍しく浮かれているのだろうか、気持ちはわかるが。

 小声でナツが挨拶をしてきた。


「よろしくね、アックン」


「おう」


 軽く返事、すると予想外に、委員長が割って入って来る。


「ふゅ、二人とも、知り合い?」


 声が裏返った事には何も突っ込まないでおこう、良かったな委員長、俺が事なかれ主義で。

 これにはナツが答える


「うん、引っ越す前友達だったの、それがまた会うなんて私もビックリ!」


「コホン」


 ワザとらしく千葉センが咳払いをして、こちらに注意をしてきた。

 慌てて前を向く俺とナツ。


「ではこれから全校集会があるので――」


――――


――


「ここが体育館、殆ど授業で使うのは、この体育館だね」


「ふむふむ、なるほどマークン、という事は別の体育館もあるという事だね!」


「マ、マークンって、はは」


 初日の授業を終え(といってもホームルームがほぼだったが)俺と雅也は、ナツに学校の案内をしていた。

 本来委員長だけが案内する予定だったらしいが、ナツがどうしても言うので、俺も付いてきた次第である。

 ただまぁ、夏休み明けの初めての部活が待っているので、頃合いを見て抜けるつもりだが。


「旧体育館ってのがあってな、運動部が部活で使ったり、球技大会で使ったりしてる」


「え、球技大会あるの!? いつ、いつ!?」


「もう終わった、というかナツは参加できんだろ」


「ぶー」


 頬を膨らませるナツ。

 一息間が空いて、雅也が口を開いた。


「え、えっと、山中さんって運動したらいけないのかな?」


「タブン大丈夫! 自転車は漕げたし」


 タブンで済むのか? 済まないと思うのだが。

 ……当時の俺の記憶は曖昧だが、ナツは見た目に反して、不幸にも体が弱かった。

 回復したように見えるが、当時のナツを知っている身からすると、不安が残る。


「あとマークン、私の事はナツって呼んで、そっちの方が話しやすいし!」


「流石に慣れなれしすぎじゃないか?」


 フレンドリーすぎるぞ。


「アックンの時もこんな感じで仲良くなったんだし、良いの!」


「良いのか」


 後に続く断定の言葉を聞けなかったことに少しの違和感を感じたが、相手は桜木じゃなく、ナツなのだ、当然である。

 ……というか思考の合間に、桜木の存在がチラつく回数が多い気がするのだが。


「じゃ、じゃあ僕も……ナ、ナツって呼ばせて貰うよ!」


 顔を桜木程ではないにしろ……ああまた出てきてしまった、いやはや。

 委員長が顔を赤くする。


 普段は女子を軽く流している委員長が、どうしてナツ相手にキョドるのか。

 ある意味で積極的な相手が苦手なのやもしれん。


「じゃ、じゃあ次は旧体育館に行こうか、ね、黒木君!」


「俺に許可を取られましても……。まぁ流れ的には良いんじゃないか」


 決定権を委ねられるのは苦手だ、必然的に目立ってしまうし、失望される可能性もある。

 だからこういう場面では、委員長みたいな仕切りタイプが俺としてはありがたいのだが、どうにも調子が悪いらしい。

 転校生という存在が、そうさせているのか?


 気になる。


「じゃあ旧体育館まで、レッツゴー!」


「あ、待って山な……ナツさん! そっちじゃないよ!」


 ……だがまぁ、俺が知る必要も無いか。

 慌ててナツを追いかける雅也を見送りながら、今こそ頃合いと思い、多目的棟へ向かった。

 委員長なら大丈夫だろう。



――――


――


 理科室まで辿り着き、ドアに手をかける。

 すると、見慣れた人物たちの中に、一人だけ見慣れていない……いや、一応面識はあるが、ここに居ないハズの男が居た。

 ドア越しから声が聞こえてくる。


「――いやぁ、それにしても明殿は遅いでござるなぁ」


「――転校生に校内の案内をしてるから、まだ時間は掛かるんじゃないかな」


「――おや、内田君。明君が率先してそんな事をするとは思えないのだけれど、基本的にそういった案内は、委員長が行うものでは?」


「――子供の頃の女友達らしいよ、また越して来たんだって」


「――幼馴染、でしょうか」


「――多分」


「――かーっ! 桜木たんが居ながら、別の女子に手を出すとは、明殿のすけこましぃ!」


 ……普通に会話に混ざるな。


「悪いが、俺の陰口はそこまでにして貰うぞ」


 一斉にこちらを見てくる一同。


「やぁやぁ明殿、遅かったでござるな、ささ、こちらへ座るでござる」


 そう言ってチャタローは席を立ち、その席へ俺を案内してきた。


「なに、気にすることは無いでござるよ! イスが冷たそうでござったから、拙者が温めておいたのでござる! ガハハ!――って、別のイスに座るんでござる!?」


「季節を考えろ季節を、夏にイスが冷たくてストレスを溜める奴なんてそうそう居ないぞ、それにチャタローが座ったばかりのイスに座るのにも抵抗があるしな」


 そう言って、光貴の隣にイスを持ってきて座ろうとしたのだが、東堂が口を挟んできた。


「それは構わない、むしろ当然。でも黒木君、バランス的に桜木さんの隣へイスを置いた方が良いと思うよ」


「ちょっと待って、さり気に拙者二人から虐げられてない? いや拙者としては大歓迎でござるが」


 ……東堂、妙に席にうるさい部分があるような気がするのだが、気のせいだろうか。

 まぁ一理ある、桜木が座っている隣には誰も居ない、一方男子側は三人既に座っている。


「悪いな桜木、邪魔する」


「ふふっ、どうぞ、明さんの為に空けておきましたので」


――ッ!


 やばい、今のはダメージが強すぎる。

 顔の温度が急激に高くなったのを感じ、空調の効いていない理科室の熱さも相まって、汗が滲む。


「ん?」と首を傾げる桜木だったが、しばらくして自分が言った事を理解したらしい、桜木も顔が赤くなった。


「あ、いえ! 明さん違います! チャタローさんの真似ですっ!」


 ああ、そう言えば俺の為に豊臣秀吉の如く、椅子を温めていたと言ってたな。

 それの真似か、なんだ良かった。


「二人とも、この夫婦漫才を見ながら部活をしているのでござるか」


『……まぁ』


 別にそういうつもりは無いのだが、というか――。


「おいチャタロー、なんでお前がここにいる」


「今更でござるか!?」



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