第三十三話 『新たな入部希望者、だが断る』
上長東高校の体育館は二つある。
旧校舎があったときから使われている旧体育館と、新しく作られた体育館の二つだ。
男子は旧体育館でバスケを。
女子は綺麗な方の体育館でバレーをする事となっている。
残りの競技はグラウンドだ。
新体育館の中に入ると、黄色い声が飛び交っていた。
……正直、あまり好きではない。
既に試合が始まっていたようで、コートには桜木の姿もあった。
わりかし早く見つけてしまった所から、俺が桜木を相当意識してしている事が伺えてしまう。
まぁ、目立つと言えば目立つタイプだしな。
桜木は長い髪を束ねる為に、ポニーテールにしていた。
桜木が動く度に、揺れる煌びやかな髪。
あと、別のモノも揺れている。
いやはや。
「いやぁ、実に絶景でござるなぁ」
誰だよお前。
隣にいつの間にか男が居た、同学年だろう。
「上長の女子、正直レベルが低いと入学前は思っていたのでござるが、なかなかどうして」
いや、だから誰だよお前。
そいつはグフフと鼻を伸ばしながら、何故か目が見えない丸メガネをクイッとする。
「特に今試合中の……A組でござるかね? ポニーテールの美少女! 是非拙者もお近付きになりたいでござるなぁ」
ぱっと見体育会系で、身長は俺くらい。
髪の毛は俺より短いくらいで、所謂スポーツ刈りに近い髪型だった。
そんなコイツの見た目と話している内容のギャップが、どうにも変な奴っぽい。
「貴殿もそう思うでござろう?」
「思わん、俺はただ応援に来ただけだ」
「ほぁ!? 貴殿と拙者は心通じるモノがあったと思ったのでござるが……リア充は滅っすべし!」
……うるさい奴だ。
「あっ、ちょっと! どこ行くんでござるか!」
「どこかだ」
「なんという冷徹な返し! 気に入ったでござる! 拙者の名前は御茶太郎、通称チャタローでござるよ――ごふぅっ」
勝手に自己紹介をしていたチャタロー、というか、これホントに本名なのか?
いや、まぁそこは置いておいて。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
スパイクがチャタローの顔面にクリーンヒットしたのである。
最後の謎の悲鳴はその為に生じたモノだ。
「って、明さんじゃないですか! ホントに来てくれたんですね、ありがとうございます、凄く、その、嬉しいです!」
頼むからその感情に任せて抱きつくのは止めてくれよ桜木。
「まぁ、試合まで時間もあるしな」
言いながら、倒れたチャタローの近くにあるバレーボールを桜木へ渡す。
その際にチャタローの顔が見えたが、悔しいけど嬉しい、みたいななんとも微妙な表情だった。
なぜ嬉しそうなんだ、意味がわからん。
「えっと、大丈夫ですかね、この方」
「大丈夫だ、ほら、皆が待ってるぞ」
というか倒れるほどの威力は無かったと思うのだが、マンガじゃあるまいし。
桜木は取り乱しながらも、俺にペコリ、チャタローにペコリと礼をして戻っていった。
「夢か、これは夢でござるか」
「ボールが当たった時、痛かったなら現実だと思うぞ」
チャタローは妙に力を込めながら、ゆっくりと立ち上がった。
「久々に……切れちまったでござる……行こうぜ、屋上」
「生憎だが上長に生徒が出入りできる屋上は無いぞ」
「ならばここで言わせて貰うでござる! まず名を聞こうではないか!」
メガネに手をカザし、眉間に皺を寄せるチャタロー。
「田中太郎だ」
「ちがーう! 絶対それ偽名! 田中太郎なんて近年のキラキラネームより珍しいでござるぞ!」
「お前が言うな」
「あっ」
御茶太郎とか珍しいっていう次元じゃないだろ。
「と、とにかくっ!……コホン、なぜ貴殿があの美少女と顔馴染みなんでござるか! というか滅茶苦茶仲良さそうで正直羨ましすぎるんでござるが?」
「ただ同じ部活ってだけだ」
「拙者も入る♪」
「断る」
「ファッ!?」
部員は四人いればいいのだ。
仮入部はもう昔の話で、今では普通のオカ研副部長なのである。
チャタローはしばらくブツブツ独り言を言うと、
「貴殿、種目はバスケでござるか?」
「ああ」
「なら、拙者が勝ったら入部する、貴殿が勝ったら諦めるというので手を打たせて貰うでござるよ!」
「何を勝手に……」
と、そこで俺は口を止めた。
個人的都合でコイツを入部させないのも、十分勝手ではないか。
「いや、何でない。面倒だがそれで手を打とう」
体操服の汚れてなさから見るに、一年なのはほぼ確実。
バスケは総当たりだったハズだから、間違いなく戦うことになる。
「ふふふ、入部は決まったも同然でござる。何しろ拙者のクラスには、バスケ部が四人も居るでござるからな!……と、もう時間でござるな、旧体館に戻ろうではないか」
「なぜ一緒に行く形になっているんだ、先に行ってろ、俺はまだ余裕がある」
前を見直すと、丁度桜木が素人ながらにも上手いことサービスエースを決めていた。
おお、運動も出来るのか、流石。
「……やはりリア充は滅ぶべきでござる」
「そんな関係じゃない」
――――
あ、俺補欠だったか。
まぁ勝ってくれるだろう、委員長も居る、バスケ部も居る、そして――瀧もいる。
――――
――
球技大会、我らF組の初試合の最中である。
対戦相手は隣のクラス、E組。
二名のバスケ部と、元バスケ部一名、残りは運動が出来そうな奴等で構成されていて、まぁ強敵の部類に入るであろう。
「出たぞ! 瀧の炎迅舞踏ッ!」
うむ、間違いなく即興で考えた技名だろうな。
瀧は猿のような身のこなしでディフェンスをかいくぐり、あっと言う間にシュートを決めた。
「っしゃあこら!」
瀧が雄叫びを上げる。
流石運動馬鹿と言ったところか。
「おい瀧! ちゃんとシューズを履け!」
教師が瀧に注意をした、まぁ踏まれたら痛いしな。
流石の瀧でも痛覚は人並みに持ち合わせているだろう。
基本球技大会の運営は生徒のみで行われるのだが、一応見回りとして体育教師がうろついているのだ。
「先生、馬鹿なんで大丈夫っすよ」
辛辣だなおい、それはフォローなのか。
これを言ったのはバスケ部だ、ワリとブラックな奴であった。
「っせーな! 忘れたんだよ! あ、そうだ、なぁ明、シュー――」
「断る」
「んだよ! まだ何も言ってねーだろ!」
「いや流れからお前が靴を借りたいと言ってくるのは容易に想像できるぞ、そして断る、理由は瀧の足が間違いなく臭うからだ」
瀧の汗の量は異常である。
代謝が良いのであろう、まぁ汗臭いのは我慢できる、だがそれを履いたり着たりするのは無理だ。
「そうやって難しい言葉使いやがってよぉ、まぁ無理なのはわかったわ!」
そうあっけらかんと言い切り、教師に振り返った。
「つーワケで、俺裸足でするんで!」
「ったく、怪我はするなよ」
教師は呆れたと言わんばかりの顔をして、他のコートへ去っていった。
「皆、そろそろ再開しよう、僕らだけの大会じゃないんだ」
さすが委員長。
「山田君、まだ出れるかい?」
委員長、雅也が心配そうに声を掛けたのは、メガネ君だ。
「う、うん、ぜんぜん」
「わかった、でも少しでもキツかったら遠慮せず言ってほしい、ベンチも居るからね」
俺を見てくる雅也、しまった、目が合ってしまった。
とりあえず逸らしておく。
「……じゃあ、再開といこうか」
――その後、バスケ部と委員長、滝の活躍により大差で勝利を納めたF組。
メガネ君は基本ディフェンスで、パス妨害に努めていた。
結果運動量が多くなったようで、疲労気味である。
まぁ変わるときは変わるつもりでいたし、体を温めておいた方がいいだろうな。
チャタローが居るクラスはC組、当たるのは次の次か。
頑張ろう、無色半透明なりにな。




