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第三十二話 『運命のテキトーな糸』

「違う違う! またこっちに帰って来たの」 


 俺がナツに地元なら迷うなよとツッコミを入れると、それを更にツッコミで返してきた。

 なるほど、戻ってきたのか。

 

「じゃあサイクリングで三股まで来たのか? まぁ丁度良い距離だろうが」


「実はねー、迷ってました!」


 ……。

 たははと誤魔化すように笑うナツ。

 

「あ! そうだアックン、戻ればいいじゃん!」


 通った道を戻るという意味ではない。


「悪いな、もう気軽に使わないんだ」


 時間を遡るという意味だ。

 何でと聞いて来る前に、理由を言っておく。


「使う度に頭痛がするようになってな、だからあまり使いたくないんだ」


 まぁ元々の理由は、人間らしく生きたいからなんだけれども。

 それを言うのは恥ずかしかった、なので新たに生まれた理由を言ったのだ、嘘は付いていない。


 あれ以降、間隔を問わずルーズ&リープを使うと頭痛が起こるようになった。

 使う度に強くなっていく感じもするので、本当に必要な時にしか使っていない。


「あらら、痛いのはダメだね。じゃあ、アックンを先頭にしてとりあえず戻ろー!」


 オー!

 と元気良く腕を上げるナツ。


「さっきも言ったが、三股の地理には詳しくないぞ。まぁ、ナツよりはマシだろうが」


「はいはい、ホーコー音痴で悪かったですよーだ」


 まぁ、成り行きに任せれば帰れるだろ。

 自分の方向感覚に自信を持っているワケではないが、こういう時は意外と帰れるモノなのだ。


――――


――


「シェイクのMサイズを二つと、チーズバーガー二個下さい!」


 なんとか都城に帰り、某ハンバーガーチェーンへ。

 ナツの財布が小銭しか無かったので、俺が奢ることになった。

 まぁそこは構わないのだが、何故かナツは注文をしたかったようで、俺は金だけを渡して席に座っている。


 というか、ナツの声が必要以上に大きい。

 

「はい! かしこまりました! 少々お待ち下さいませ!」


 店員の声も、それに釣られて大きくなったようである。


 しばらくするとナツが頼んだモノと一緒にやってきて、席に座った。


「ちゃんと払えたよ! はい、お釣り」


 別に一々報告する事柄でもないと思うのだが。

 釣りを受け取り、とりあえずシェイクを飲む。


「それにしても驚いたな。まさか帰ってくるなんて」


「うーん、まぁ色々あってねー」


 色々か。


「病気は治ったのか?」


「ひみつー」


「いや、別に秘密にする話じゃ……」


 ナツは俺の話を気にも止めず、両手でシェイクを持って美味そうに飲んでいる。

 まぁ、言いたくないなら良いか。

 

 俺は人の心に踏み込むことが出来るようになった。

 それ事態は、悪いことじゃないと思う。

 だが、無闇に踏み込むことは、俺としてはあまりしたくない。

 踏み込む必要がある時に、踏み込めれば良いのだ。

 大丈夫、今の俺にはその勇気がある。


「越して来たって事は、学校もこっちになるんだろ? どこ校になるんだ?」


「近いとこ、上長東高校」


「マジかよ」


 つい驚きの声を上げてしまった。


「え!? もしかしてアックン上東なの!?」


「ああ、特に行きたい所もなかったからな。けど以外だな、正直頭悪いと思ってたぞ」


 失礼だが、まぁこれくらいの軽口は許してくれるだろう。


「ふふふ、こう見えても天才美少女なのだ!……って、言いたい所なんだけど、あんまり頭は良くないよ、たはは」


「じゃあ、もしかしてスポ薦か?」


「そのあたりは秘密で」


 いやはや、随分ミステリアスを気取りたがる奴である。

 昔はもっとサッパリ、というか男みたいな奴だったが、まぁこいつも変わったんだろう。

 俺がおっさん臭くなったように。


「夏休み空けたらよろしくね! クラスももう決まってるんだー」


「ほう、どこだ? A組じゃないことはわかるが」


 流石にA組クラスの知能があるとは思えない。

 

「F組」


「マジかよ」


 どうやら、また俺の読書時間が邪魔されそうだ。

 まぁ、ナツなら悪い気はしないが。


「ウソ!? 同じクラスなの!?」


「どうやらそうらしい、まぁあまり仲良くは出来ないかもしれんが、よろしくな」


 今でこそ遠慮なしに話しているが、クラスであんまり仲良く喋りすぎていると、いらぬ噂も立つ。

 久々に会って胸がときめく、なんてことも無かったし、やっぱりナツは友達として仲良くしていきたい。

 まず第一に、俺には既に好意を持っている人間がいるしな。


「素直じゃない所も変わらないね、ま、アックンらしいけど!」


 そんな幼少期の頃から捻くれた人間だったのか俺は。


「ていうか、運命感じるよ、うん。もしかして赤い糸で結ばれてたりするのかもね!」


「なワケないだろ、繋がってたとしても緑とか青とかだよ」


 色に意味はない。

 そうこうしている内に、注文した食べ物を全て食べ終えた。


「まぁ、あとは後々話すか、流石にここからなら帰れるだろ?」


「モチ!」


 モチって、なんか古い気がするのだが。


――――


――


 そう言えば、KINEのIDを聞いておけば良かったな。

 使い慣れていない故の失敗である。

 昨日の事に少しの後悔をしつつ、夏休みの日課予定である図書館へ来ていた。


 流石に今日こそは宿題をしなければ、予定が崩れてしまう。

 待っていろホームズ。


 ……一応、借りられてしまうかもしれないし、取るだけ取っておこう。


――そうしてこの一日も、昨日と同じ結果を辿ってしまったのであった。


 そして時は進んで。


――――


――


「っふ、おはよう明」


「ああ、おはよう」


 靴箱で光貴と出会い、軽い挨拶をする。

 包帯は無くなっていたが、髪は相変わらずだ、つまりまだ厨二は卒業していないらしい。


「とうとうこの日がやって来たんだな、聖戦の日が!」


「大袈裟に言うな、ただの球技大会だろう」


 夏休み中に行われる、年に一度の球技大会。

 その為に登校してきたのである、ちなみに俺はバスケだ。


「僕の邪眼が活かせるかどうかはわからないが、全力で明のサポートをしよう!」


 邪眼は活かせないだろうな、間違いなく。

 ちなみに、光貴もバスケである、俺に付いてきた形だ。


「気持ちはありがたいが、俺もベンチだぞ」


「何ッ! 明ほどの使い手がか? 無色透明は捨てたと言ったじゃないか!」


「いや、捨てた覚えはないぞ、無色、半透明だ。別に球技大会で活躍しようとも思わんし」


 光貴が残念そうに肩を落としたが、そんなに俺の活躍する姿が見たかったのであろうか。


「まぁ、適当に頑張るさ」


「……明の適当って、誤認されてる方のテキトーだよね」


――。


 バスケは体育館の中で行われる。

 他にはサッカーと野球が種目としてあったが、そっちはベンチに入れるほど余裕が無かったのでバスケにした。

 まぁ、一応バスケ経験者だしな。


 委員長が渇を入れる。


「よし、目指すは学年代表だね、頑張ろう皆!」


 杉浦雅也(スギウラマサヤ)、一年F組の委員長である。

 成績優秀、スポーツ万能、スタイルも並以上、そしてお約束のイケメン。

 髪がアイドルみたいに整えられているのが個人的に癪に障るが、性格もイケメンなので何も言えない。

 絵に描いたような完璧高校生だ。


「おうよ! いっつも馬鹿ばっかしてっからよ! 今日で名誉返上してやるぜ!?」


 名誉を返上してどうする、悪いことは言わん、そこは汚名を返上しておけ。

 すかさず光貴が訂正してくれる。


「違うよ瀧クン、汚名返上だよそれを言うなら」


「あり? そうだっけ? じゃあ汚名挽回だ!」


 ……もういい。

 残り一名のバスケ部と、野球部。

 そして正直運動が出来そうには見えないメガネ君の合わせて七人だ。


 つまり、俺と光貴がベンチである。


「あれ、黒木スタメンじゃないのか?」


 バスケ部が聞いてきた。


「ああ、まぁ適当にな」


「……あいよ」


 様子からして、中学の時の俺を知っているようだ。 

 だが悪いな、あの頃はズルをしていたから強かったんだ。


「じゃあ、僕らの試合が始まるまで解散、かな。時間になったらココに集まって貰えれば」


 委員長らしい仕切りに、それぞれが大きい声だったり、小さい声だったりで返事をする。


 さて。


 行くか。


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