最終話 『青春オカルトモノだ』
――六月二十九日――
クラスの雰囲気はいつも通りだった。
仲良しメンバーと会話をする奴、宿題を忘れたのか必死に何かを書いてる奴、女生徒からいつもの如く声をかけられている奴。
そして、
「っふ、おはよう明」
厨二病な奴。
一方俺は、最近読んでいなかった本を読んでいる。
つまり、光貴の相手をしてやっている暇は無いということ。
「おはよう」
まぁ挨拶だけはしておく。
チラと光貴を見ると、腕に包帯が巻かれていた。
厨二病にありがちなやつだ、むしろ今まで巻いていなかったのが不思議である。
「実は昨日、新しい悪魔と契約してな、代償として右腕を住処にされたんだ」
一方的に話し始める光貴。
出来る限りあっちへ行けオーラを出したつもりなのだが、それに気付かないのは流石コミュ障というか。
「何、心配はない。僕の邪眼に潜んでいる化物に比べれば、低級だからな」
最後に「っふ」と言って締めくくる光貴。
なんだ、全く内容が無いではないか。
「よお明! 水着持ってきたかよ」
次から次へと。
面倒な馬鹿の登場である。
瀧も大体、光貴とセットで話しかけてくるのだ。
二人の仲が良いのかは知らないが。
「ああ、補習は勘弁だからな」
問われたら答えざるを得ん。
水泳の授業は数回しかなく、その内一コマでも欠席すれば、補習が確定しているらしい。
だから忘れるワケにはいかなかった。
「瀧君はちゃんと持ってきたの」
光貴が瀧に訪ねる。
瀧は両手を腰に当て、さも偉そうに、
「ったりめーよ! つかもう履いてるんだなぁこれが!」
高笑いする瀧。
いや、別に自慢する所じゃないだろそれ。
というか、少し嫌な予感がする。
「下着は持って来たんだろうな」
まさかとは思うが。
そう思って聞いてみると、次第に高笑いが小さくなっていき、ピタリと止まった。
「忘れた!」
「忘れちゃ駄目でしょ!?」
「大丈夫だって! 絞ればパンツと同じ感じで履けんだろ」
洗濯物ですら乾かす行程が必要になるのだが、そのあたりは存じているのだろうか。
「いやはや」
――――
――
昼休み、俺は図書室へ来ていた。
この学校の図書室、なかなか品揃えが良い。
運営しているのが図書委員であることを考えると、そうとう熱心に活動しているようだ、感謝である。
推理小説コーナーから、まだ読んだこともないシリーズを手に取る。
席に座ろうとすると、もう幾分か馴染みのある関係になった少女がいた。
冬月である。
「よお」
周りに迷惑がかからない程度の声で挨拶をする。
「……」
冬月は気付かない。
どうやら読書に集中しているようだ。
邪魔するのも何かと思い、そもまま向かいの席に座る。
ん、む。
「ヘックシ!」
くしゃみである。
今回は髪の毛もないので、誰かが噂でもしたのであろう。
「黒木君……」
「悪い、邪魔した」
冬月がくしゃみで俺に気付いた。
結構大きめのくしゃみだったので、周囲から少しの視線も感じる。
「本、読まれるんですね」
「まあな、もっぱら推理小説だが」
会話が止まる。
「……」
「……」
まぁ、別に話さないといけないわけでもない。
本を開く、それをキッカケとして、冬月が小さな口を開いた。
「先日は、ありがとうございました」
「ん、別に礼を言われることはしてない、オカルト研究部の活動でやったまでだ」
冬月の為を思って、能力を許容してもらったワケじゃない。
だからお礼を言われる筋合いは無いのだ。
「偽善だ偽善、だから礼はいらん」
もしそうだとしても、それは見返りを求めた善行。
「偽善でも、お礼を言わせて下さい」
今までの自信の無い声色とは違う、意志のある声に思わず冬月を見る。
目が会ったなり、冬月は慌てて視線を本に戻すが、
「偽善でも、私にとっては偽りの無い行為でしたから」
「……そうか」
まぁ、本人がそう思うなら。
「ならありがたく礼を受けとっておく」
冬月の表情は本に隠れて見えなかったが、心なしか喜んでいる様な気がした。
――――
――
「東堂は休みか」
「ええ、用事があるようでして」
放課後、いつものように理科室へ来ていた。
光貴は日直なので、俺と桜木の二人きりだけという事になる。
いや、別に意識してるワケじゃないが……少し、だけだ。
「約束、守れましたね。良かったです」
「……ああ、良かった」
良かったよ本当に。
後悔せずに済んだ、桜木を守ることが出来た。
「えっと、明さん、つかぬ所お伺いしますが!」
いきなり声のトーンを上げる桜木。
顔が少し赤い、手も大分力が入っている。
「どうした」
なんでも伺ってこい。
桜木と目が会う。
普段は俺から逸らすのだが、今回は桜木から目を逸らしてきた。
桜木は一度下を向き、目だけが右往左往する。
「お、お昼ご飯は、いつもどうされているのでしょうか!」
なぜそれを今聞く。
まぁ良いか、なんでも伺えと思ったからな。
「そうだな、基本は冷凍食品だな、作るの面倒だし」
「お母様は、その」
「寝てる」
俺の母親、色々あって夜の仕事をしている。
帰ってこない日もあるし、帰ってきても大抵寝ているのだ。
だから基本、冷凍食品を解凍して、弁当に入れるだけ。
「そう、ですか」
桜木はまだ何かを言いたいようだ。
結構付き合いも長くなったからな、多少はわかる。
「あ、あの、も、もし明さんがよろしければなのですが」
桜木の顔が更に赤くなった。
少し心配になるくらい赤い、肌が白い分、目立つのだろうか。
桜木は大袈裟に深呼吸をして、
「わ、私がお弁当を作ってあげますでしょうか!」
後半はよくわからなかったが、意味は分かった。
つまり、俺に弁当を作ってくれると。
――マジかよ。
「気持ちは嬉しいが、桜木に迷惑がかかるだろ、食費も馬鹿にできんだろうし」
嬉しい所じゃないが、迷惑は掛けたくない。
「迷惑じゃありません!」
「迷惑じゃないのか」
「お金も大丈夫です! いつも作り過ぎているので、大した負担にもなりませんから!」
ここまで言ってくれているのに、拒否する男は居ないだろう。
「じゃあ……頼む」
というか良いのか、俺なんかに作って。
弁当を渡すときとか、ほら、周りに見られるだろ。
変な噂が立つぞ。
「で、では! 明日から作って来ますので」
……だがまぁ、俺の感情に従うなら、素直に善意を受け取っておこう。
「ありがとな」
俺のために。
桜木は俺に優しすぎると言ってきたが、十二分桜木の方がお人好しだ。
部員仲間に弁当を作って来る奴なんて、そうそう居ない。
その後しばらく話をしていると、光貴が入ってきた。
「あれ? 東堂さんは?」
「用事だと」
聞くなり席へ腰掛ける光貴。
俺は立ったままだ、桜木に座らないのかと目で尋ねられたが、拒否しておく。
だって、光貴がバッグを隣に置いてるのだ、必然的に桜木の隣に座ることになる。
桜木への好意を自覚してしまった今、隣に座ると頭が回りそうにない。
「では、以降の活動内容の方向を――――」
――――
――
下校。
桜木と光貴と別れ、一人で自転車を漕ぐ。
暑さの中感じる向かい風が心地よい。
前の信号が点滅し始めたので、少しずつブレーキを掛けて止まった。
ふと、空を見上げる。
淀んだ空、灰色の雲。
これが青い空と白い雲なら、絵になるのだが。
――俺の物語は、青春学園モノか。
いや、違うだろう、オカルトモノだ。
だが青春でないとも言い切れない、なんとも中途半端な高校生活。
ああ、なら良い言葉があった――
――青春オカルトモノだ。
――第一章【完】――
第一章、完結です。
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございます。
少しでも心が動いたのであれば、私は満足です。
と、言いたい所なのですが……
少しでも多くの方に、当作品を読んで、心を動かして貰いたい!
なんて欲が、強欲な自分には存在します。
ここまで読んでくれた方、もしよろしければ、評価、ブックマーク、レビュー、感想を頂けると幸いです。
ポイントが新しい読者様を呼び、感想とレビューがそれを繋ぐ、それが小説家になろう。
欲に塗れた願いとは存じておりますが、一人でも多くの方に読んで頂きたい為、ご助力頂けると幸いです。




