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第二十八話 『ただ、それだけ』

 関屋さんは、驚くほど簡単に俺達を受け入れてくれた。

 どうやら、神職である人間や霊能に日常的に触れている人間には守護霊が見えるらしく、ある程度鍛錬を積んだ人間は対話も可能らしい。


 守護霊はほぼ全ての人間に宿っていて、ごく一部の霊が『守護』と呼ばれる異能を憑依者に付与できる。

 理由は不明。

 まぁオカルトだから当然ではあるのだが。


 他にも守護霊、守護について色々教えて貰ったが、俺が知りたかったことまでは教えてくれなかった。


――守護が弱まることはあるのか。


 俺の守護、『遡行の守護』は明らかに弱体化している。

 体に負担が掛かる間隔が短くなって来ているのだ、しかも急激に。


 もともと、俺の守護はかなりのレアケースらしく、関屋さんが遡行の守護に出会うのは俺が初めてだったとのこと。


 残り六つの怪異を防ぐには、やはり俺の守護は必要不可欠。

 それまで持ってくれると助かるのだが。


 と、先日関屋さんに言われた事を、料理を待っている間にまとめる。

 ケチャップの匂いが、キッチンへ充満し食欲をそそった。


「もう少しで出来ますので、よろしければ、お皿を持ってきて頂けませんか?」


 後ろを向いているので確認は出来ないが、おそらく料理番組でよく見る、米をパラパラにする為に、なんかこう、浮かせる奴をしている様だ。

 既に二人分並べられた皿を取り、席を立って桜木の所まで持って行く。


「凄いな」


 思わず感嘆の声を漏らす。

 桜木の米をパラパラにする動作の手腕と来たら、意外と簡単なのかとも一瞬思ったが、ここは桜木を素直に賞賛したい所。

 まぁこれ以上誉める言葉が出ないのが俺なのだが。


「ふふっ、いつもより張り切っているかもしれません」


 俺の為に、だろうか。

 だったら嬉しいな、間接的なお世辞かもしれんが、それでも嬉しい。

 

 掛けられているピンク色の時計を見る、蘭さんと桜木、どちらの趣味であろうか。

 ……まだ、時間に余裕はあるな。


「手伝って欲しい事があれば何でも言ってくれ、まぁ、料理の方はからっきしだが」


「大丈夫です、これは明さんへのご褒美ですから」


 ……いやはや。

 何気ない表情で俺に振り向き、少し顔を傾けて言う桜木。

 何故だ、どうして俺の心臓が早まる。


 馬鹿な奴だ、俺は。

 俺と桜木じゃ不釣り合いすぎるだろ、叶わない感情を持ってしまったら、後悔に繋がることは目に見えている。


 席に戻り座る。

 まだ心臓は過剰に動作していて、俺に自覚しろと体が訴えてきていた。


 認める他、無い。


――俺は、桜木が好きだ。


 きっと、後悔するだろう。

 だけども今の感情を否定してしまったら、きっと俺は未来の自分に後悔してしまう。

 後悔しない生き方を目指すなら、認めるしかない。

 いや――。


 そんな生き方とか後悔とか関係ないだろ、馬鹿か。

 もっと単純、難しい事なんて一切無い。


 好きなんだ、ただそれだけ。

 それだけで十分、人を好きになった事に、理屈なんてないんだ。


「お待たせしました、どれくらい食べますか? 少し作りすぎたので、たくさんありますよ!」


「……なるべく、多く、して欲しい」


「はい」と明るい返事をし、再びフライパンの元へ戻る桜木。

 時計を見る。

 ――。


 定かではないが、確かにこの時間あたりに桜木は影に呑まれた。

 あの光景が脳裏に蘇り、突然の焦燥感に襲われ、俺は――。


「あ、いや、わるい」


 桜木が消えてしまうような気がして、思わず桜木の腕を掴んでしまった。

 それだけでも大変なのに、少しばかり強く握ってしまったような気もする。

 慌てて手を離し、謝ったは良いものの。


「大丈夫です、明さん」


 桜木の言葉、声は、感情は。


「どこにも、行きませんから、大丈夫です」


 どうしてここまで。


「だって明さんは、私の大切な人ですから」


 俺の心を動かすのか。


 少しだけ、沈黙。


「ご、ご飯が冷めてしまいますので」


「あ、ああ、そうだな、わるい」


 何に謝っているのだろうか俺は。


――。


「旨いな、やっぱり」


 市販のケチャップでこうも美味くなるものなのだろうか、甚だ疑問ではあるが、ケチャップのボトルは明らかに市販のモノだ。

 金を払いたくなるレベルである。


「あの、明さんに作ったのは初めてかと」


 ……。

 いずれ、桜木にも俺がタイムリーパーであることは伝えよう。

 今はその時じゃない気がする。


「予想通り美味かったって事だ」


「ふふっ、作った甲斐がありました」


 大分恥ずかしい事を言うハメになったが、まぁ、悪い気はしない。

 問題の時刻は過ぎており、タイムリミットが延長された事が確実となった。


「桜木、指切りゲンマンをしよう」


 スプーンを更に置いて小指を桜木に向ける。


「構いませんが、約束は?」


 きょとんと首を傾げる桜木。

 ダメだ、この僅かな動作ですらも可愛く思ってしまう。

 重傷だ、いやはや。


「――明日また、会う約束だ」


 桜木は少しだけ呆気に取られたのか体を固まらすも、すぐに微笑みを浮かべる。


「ええ、絶対ですよ」


 指切りゲンマン、嘘付いたら針千本飲ます、指切った。


 これでもう、大丈夫だ。

 明日も、明後日も、明明後日も、それからも。

 きっと、桜木と会えるハズだ。

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