第二十話 『守護霊』
クーラーがまだ効いていない畳の部屋で、差し出されたお茶を飲む。
だが案の上素直に咽を通ってはくれない。
俺がタイムリープできると、知っているかもしれない人間の前なのだから。
「落ち着いたかい」
初老の男が柔和な表情で語りかける。
「……まぁ」
正直警戒心バリバリだが、平静を装う。
実際に演じれたかは定かではないが。
「突然すまなかった、私の名前は関屋、小鷹神社の神主をしている」
やはり、瀧の父親ではないのか。
違和感は最初からあった、自分の子供を、自分の名字で呼ぶ奴はいない。
であれば親戚か?……いや、それは今どうでもいい。
「なんで突然、タイムリープなんて言ってきたんですか」
「それは君自身、よくわかっていると思うけど」
――やはりこの男、関屋は知っている。
俺がタイムリーパーであることを。
「どうして、分かったんですか、俺がタイムリープ出来るって」
俺自身が言ったわけも無く、唐突に関屋はタイムリープを口にしてきた。
間違いなく異常事態だ、ここ数十年間生きてきて、こんな経験は一度として存在しない。
東堂の時とは全くの別、直接的だ、清々しいほどストレートに関屋は言ってきた。
関屋は腕を組んでしばらく考え込み、
「守護霊って、知ってるかな」
知ってはいる。
だが、それとリープがどう関係あると言うのだ。
首を僅かに縦に動かし、既知であることを伝える。
「簡単に説明するとね、君の守護霊から聞いたんだ――」
関屋は表情を締め、
「――君が遡行の守護を持っている事、そして、君に大きな障害が立ち塞がっている事」
頭のオカシイ男、そう思うのが普通だろう。
実際、俺もすんなり受け入れることは出来ない。
だがこの関屋という男が、初対面の人間に愉悦目的で嘘を喋るとは思えなかった。
まず、第一に、これは嘘では無い、事実である。
「突然言われても混乱するとは思っていた、だから話半分でいい」
俺は何も答える事はできなかった。
相当、焦燥していたんだと思う。
守護霊、遡行の守護……異能を持っている俺でも、スグに許容できる内容では無い。
「君の守護霊から、どうにか君を守って欲しいと言われてね。少し強引に引き止めてしまったことは詫びるよ」
随分、俺の守護霊は過保護な様だ。
それに感謝するかどうかは、今後次第だとして。
関屋は少し頭を下げ、背中を向ける。
そして振り返った時に手に持っていたものは、札。
「おそらく、霊的な現象が君の障害になっている。より詳細なことを君の口から聞こうとも思ったのだけれど、今の君には少々酷だと思ってね」
俺が完璧な人間であれば、関屋に全てを言うことはできたであろう。
だが言えなかった、関屋を信用できていないし、他人に桜木が変容してしまう未来を伝えることも、俺には出来なかった。
「この札は、きっと君を助ける手立てになる」
受け取っておこう、人を信用することが苦手な自分ではあるが、これは受け取らなければ。
そう思えたのは、このキッカケを作った俺の守護霊のおかげであろうか。
「ありがとう、ございます」
関屋から受け取った際に、少しだけ静電気が体に走る感覚を覚える。
どうやらマジモノらしい。
「また、話せる時に来てくれ。瀧君も喜ぶ」
返事だけをして、玄関まで歩く。
瀧と関屋が見送ってくれるらしい。
「またな! 次は短距離で走ろうぜ!」
呑気な奴だ、羨ましいよ全く。
「……短距離は嫌いだ」
短距離は全力だ、それが俺とは相性が悪い。
だが時には、全力で走らなければならない時もあるようだ。
――――
――
――六月二六日――
もちろん授業は頭に入らなかった。
まぁリープしているので内容は理解しているのだが。
時刻は昼休み、俺は図書室に来ていた。
期待している資料があるかは分からないが、一応探しておこう。
なるべく時間を無駄にしたくはない。
目的の本、それは桜木の紋様について記載された本だ。
俺は、あの紋様がカギを握っていると睨んでいる。
睡眠を取ったおかげで、桜木の紋様を思い出すことが出来たのだ。
ヒントはアレしかない。
呪い、異能、どちらにせよ調べる価値はある。
――。
だが、探しても探しても、それらしい本は見当たらなかった。
当たり前と言えば、当たり前ではあるが。
休憩がてら、椅子に座ろうと本棚から離れる。
高校の図書室の中では、比較的良い意味での活気を持っているであろう上長の図書室。
そこには見知った姿もあった。
冬月である。
流石文学少女、見た目に相応しい行動をしているものだ。
何を読んでいるのだろうか、気になるな。
通り過ぎる際に、表紙をチラと見る。
『守護霊との対話』
……文学、なのであろうか。
守護霊か、関屋さんも言っていたな。
関屋さんが守護霊に聞いたというのは、嘘ではないのだろう。
最初にあった時も、俺では無く別の誰かを見ていたような仕草をしていた。
冬月も守護霊に興味があるとは意外だ。
まぁそれについて話そうとは思わないが。
――。
結局、目当ての本は見つからなかった。
やはり本人に聞くのが一番、だが――。
桜木は、俺に紋様の事を言うつもりは無い。
無理して聞き出そうとするのは、無色透明の理念に反する。
それだけならまだマシだ。
その先に待っているのは後悔。
桜木の心が、自分の心が傷つくかもしれない。
そう思うと、直接本人に聞くことはなるべく避けたかった。
であるならば――。
桜木の身近な人間に、聞くのがベスト。
――――
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