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第一四話 『Re:これは青春学園モノか?』

六月二十八日


――自宅――


 俺は夕飯と言う名のコンビニ弁当を食べ終え、自室に戻ってきていた。

 相変わらず素っ気ない部屋だなぁと思う。

 ベット、学習机、本棚くらいしか家具は置いておらず、特徴一つない。


 一点だけあるとすれば、部屋がちょっとばかし汚い事だ。

 俺は多少散らかっているくらいが過ごし易いのだ、言い訳かもしれんが……言い訳だな、うん。


 食ったばかりにもかかわらず、ベットに横になる。

 そしてスマホを充電器から抜き、『KINE』を開いてみた。


 KINEとは、コミュニケーションツールのことだ。

 電話もチャットもできて、無料である。

 友人間のやり取りでは、殆どの人間がこのKINEを使っているだろう。

 まぁ俺は今日インストールしたのだが。


 さて。


 なんて桜木に送ろう……。


 俺は桜木によって、半ば強制的にKINEをインストールされた。

 時は今日の放課後にまで遡る――いや、実際にリープするワケじゃないぞ、回想だ。



――放課後――


「七不思議なんて、勝手に噂されているモノとばかり思っていたが……」


 あまりにも成果が出ず、俺は独り言のつもりで呟いた。


「実はですね、明さん……追い打ちをかけるようで申し訳ないのですが」


「いたのか桜木」


 一人だと思っていたのだが、まだ桜木は帰っていなかったようだ。

 俺達は予定通りこの二日間、上長東高校の七不思議を探した。

 だが結果は芳しくなく、聞けた情報は花子さんについてのみ。

 どうやら、七不思議が流行るような学校では無いらしい。

 生徒も殆ど帰ってしまったので、とりあえず今日も解散となったワケだ。


「トイレの花子さんも、ここ数日前から噂になり始めたようでして」


「ほう」


 七不思議の過疎化は深刻だな、オカルト研究部に限っての話だが。


「私も、まさかここまで七不思議が無い学校だとは知らなかったもので……」


「……桜木」


 タイミング的には、今がベストなのかもしれん。

 桜木がオカ研を作ろうとした理由を聞くのに。


 桜木は「はい」と言ってコチラを見てくる。

 月並みだが俺もその視線に応えるように、視線を外した。

 合わせられたら外す、それが桜木に対しての癖になっているのだ。

 恥ずかしいのだからしょうがない。


「なぜ、桜木はオカ研を作ろうと思ったんだ?」


「――っ、そ、それは……」


 桜木が俺を見るのを止めた。

 それはつまり、この言葉がやはり地雷であることを意味するワケで。


「言えない、って事でいいのか」


「……ごめんなさい」


 桜木が顔を伏せる。

 どうやら、並々ならぬ事情があるようだ。

 部活動に並々ならぬ事情なんてあるのだろうか、とも思うが……まぁこれ以上聞くのは無理だろう。


「悪い、少し気になってな。言えないならいい」


「……もし」


「ん?」


「もし明さんが……私の事を嫌いになってしまわれると思うと、どうしても言う事は……」


 うむむ、よくわからんな。

 俺が桜木を嫌いになるかもしれない、オカ研を作った理由?

 なんだろうか、気になるな、気になる、だが――。


「そう簡単に、俺は人を嫌いにはならん。まぁ言いたくなったら言ってくれ」


 桜木が言いたくないなら、それでいい、詮索するつもりは無い。

 そう言えば、リオンでも――いや、これは思い出しちゃいけない。


「じゃあな桜木、また明日な」


「珍しいですね、明さんがまた明日なんて言うのは」


「珍しいか?」


「珍しいです」


 珍しいらしい。

 まぁ確かにあまり言わない気がする。

 気分が乗って言いたくなったのだ、別に深い意味は無い。

 また明日桜木と、会えればいいなと思っただけだ。


「時に明さん、KINEをやってらっしゃいますか?」


「いや」


「ええ!?」


 いや、そんな驚かなくても。

 というか初めて桜木が驚くのを見た気がする、珍しいな。


「桜木よ、やってるか聞くなら、やってない可能性も考慮すべきだと思うのだが」


「でも、凄く珍しいですね、てっきり皆さんやられているモノかと」


 だがまぁ桜木が驚く気持ちもわかる。

 実際スマホを持っていて、KINEをやっていない高校生は殆どいないだろう。

 それこそ都城の人間が、リオンに大体行っているくらいには、当たり前だ。


「まぁ、KINEで話すほどの奴もいないからな」


「あ、ご、ごめんなさい」


 いや、謝るなよ。

 俺が友達いないボッチみたいじゃないか……ん。


――俺ボッチなのか。


 今まで意識していなかったが、無色透明=ボッチな気がする。

 というかそうだ、人と深く関わらないって時点で友達を作ることなど不可能。

 そうか……俺はボッチだったのか、いやはや。


「携帯は持ってらっしゃるんですよね?」


「ああ、親から渡されてる」


「でしたらオカルト研究部の連絡手段として、インストールして頂きたいのですが」


「断らない」


「断れませ……えっ」


 断らないぞ、まぁ連絡手段としてならKINEを使ってもいいだろう。

 あくまで部活仲間としてだ。


「でしたら! 今日の夜に、こちらの番号にまで!」


 そう言って、桜木はノートをカバンから取り出し、自分の携帯番号を書いた。

 そしてそれをちぎり、俺に手渡す。


「絶対ですよ?」


「やれたらやる」


「もうっ、でしたら約束しましょう! はいっ」


 桜木が小指を出してきた。

 もしや、指切りげんまん、とかいうヤツか。


「断る」


「断れませんっ」


 桜木は俺の手を無理やり取る、いやはや。

 まぁ男として意識されていないことへの証明ではあるか、それはそれで残念な気もする……無色透明の上では良い傾向だが。


「いいですか? 嘘ついたら針千本のーますっ、指きった!」


 桜木の小指と、俺の小指が絡む。

 ……いや、意識するな俺。

 無心だ、無心の心を持て。


「約束ですからねっ!」


「わ、わかった。だから、指を離してくれ」


「ふふっ、あ! ではまた明日会う約束もしておきましょうっ!」


 いやはや。


――――


――


――という事があったわけだ。


 針を千本飲ます、そう言われたからには俺もKINEをインストールさざる終えないワケで。

 家に帰るなりインストールを行い、桜木のIDを登録したまでは良かったのだが、なんと最初に言えばいいものか……。


 普通に、よろしくとかで良いのだろうか。

 とりあえず打ってみる。


『よろしく』


 ……素っ気ないな。

 もっとこう、インパクトの強い言葉を言った方が良いような気もする。

 そうだ、ビックリマークを入れよう


『よろしく!』


 うむむ、なんかしっくりこないな。

 何というか、俺らしくないと言うべきか……


 ええい、もうこれでいい。

 俺はビックリマークを消し、よろしくとだけ書いた文を桜木に送る。

 しばらくすれば、既読マークとやらが付くハズだ。


 ……流石にスグは付かないよな。

 風呂にでも入るか――いや、もし入ってる途中に桜木から返信が来たら……うん、しばらく本を読もう。

 俺はスマホの音量を最大にし、リオンで買った推理小説を読む。


――十分後――


 スマホを手に取って、KINEを覗く。

 ……まだ見られていない様だ。

 イカンな、妙にそわそわしてしまっている。

 美少女、恐るべし。


――一時間後――


 ……まだか。

 風呂にでも入っているのだろうか。

 もしくは勉強中、桜木は頭が良いからな、勉強に集中しているのだろう。


――二時間後――


 ……九時か。

 桜木からの返信は来ない、というか既読すらつかない。

 もしやIDを間違えたのか? いやそんなハズはない。

 プロフィールには


『オカルト研究部、創設しました』


 という文字がしっかりと映っているのだ。

 もう、入ろう。


――五時間後――


 もう、日付が変わろうとしている。

 既読は付かない、いやはや。

 まさか嫌われたのではないだろうか、流石に素っ気なさ過ぎたかもしれん。


『!』


 俺は最後にビックリマークを送信し、目を瞑る。

 ……早いとこ眠れればいいのだが。


――


――俺はこの時の自分を恨む。

 よくもまぁ、桜木があんな目に会っていたのに、悠々と返信を待っていたものだと。

 この時間軸で俺が桜木の笑顔を見る事は、二度として無かった。





――Re:これは青春学園モノか?――


前編終了



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