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第十三話 『無計画の謎』

 俺は、桜木に女装を強要されていた。


「黒木君、心配することは無い、人間には多少、変身願望はあるものなのだから」


 誰が女装したいような素振りを見せた。

 東堂の表情を見分けるのは難しいが、間違いなく俺をからかっているだけだ。

 いつか仕返ししてやる。


「というか、来て早々女装しろと言われて、納得できるわけがないと思うのだが」


 そもそも何故女装をする話になったのだ。

 もしやオカ研は女装をして活動する部活動なのであろうか、だとしたら退部だ退部。

 桜木には悪いが、女装癖のある奴を勧誘して貰おう。


「あ、ごめんなさい。理由を言わなきゃですね」


 どうやら、桜木のおてんばモードが発動していた様だ。

 とりあえず皆が座っている机のイスに座り、桜木の話を聞く。

 ちなみに隣には桜木、対面には光貴、キザ野郎は省略。

 女子の隣に座るのに、少しばかり抵抗はあったが仕方がない、空いていた席なのだから。


「オカルト研究部の当面の活動内容は、上長東高校の七不思議を解明するというモノです」


「ああ、そこまでは知ってる。だがなぜそこから女装が出てくるんだ」


 桜木は俺に少しばかり顔を寄せ、


「明さん、学校の七不思議と聞いて何を思い浮かべますか?」


 そうだな。


「まぁ、パッと思いつくのはトイレの花子さ――まさか」


「はい、そのまさかです」


「……調査の為に、女装して女子トイレに侵入しろと」


 桜木は上目遣いで続ける。


「ですので、どうか明さんには――」


「断る」


「断れませんっ」


 いやはや、断れないのか。

 なんて思うワケが無かろう!


「桜木、俺の理念を覚えているか」


「はい、無色透明な高校生活、ですよね?」


「ああ、女装はそれに反する」


 東堂が軽く笑ったが、無視しておく。

 こいつに話しかけたら負けな気がする。


「そうですか……残念です」


「というか、何故花子さんにこだわる? もっとあるだろ、七不思議って」


 軽い感じで言ったつもりだったのだが、桜木の表情は暗くなる。


「……入学してから、ずっと七不思議について調べてはいるのですが……」


 そこで桜木の言葉は止まる。

 何か言ってやろうとも思ったのだが、ここは待つことにした。 

 言い難いことなんだろう、なら待つ、気の利いたセリフを言ってやれるほど器用じゃないからな。


「……えっと、その、……」


 待つぞ、俺の気は長い。


 東堂と目が合った、合ってしまった。

 桜木へ目を誘導させている、つまり、俺になんとかしろと。


 まぁ、言い難いのであれば、手助けが必要なのかもな。

 一体桜木は何を言い切れないでいるのか、俺は考えてみた。

 探偵黒木明の再臨である。


 一つ、桜木は七不思議を調べていた。

 だがこの様子ではあまりいい結果は得られていないのであろう。

 結果、というのは七不思議の解明の事であろうか、もしくは。


 一つ、桜木は花子さんにこだわる何らかの理由がある。

 他の七不思議の解明をしていけばいいのに、桜木は乗り気ではない。

 

 ふむ。

 もしや、


「桜木、もしかして花子さんしか、七不思議が見つかってないのか」


「……実は」


 おお、当たった。

 はは、俺の推理能力もまんざらでは無いのやもしれん。


「じゃあ桜木さん、この部活って七不思議を解明するよりも先に、七不思議を探す必要があるんじゃないかな」


 ごもっともで。

 光貴が重い口を開ける。

 光貴は一対一では割と話せるが、複数人での会話だと急に喋らなくなるのだ。


「そう、ですね……部員も私一人では絶対に集まらなかったですし、七不思議も皆さんで探せば、見つかるかもしれません」


 そう言って俺を見る桜木。

 視線には気付いていたのだが、なんだか恥ずかしかったので気付かないフリをした。


「では今後しばらくは、上長東高校の七不思議を探す。ということでよろしいでしょうか」


 そう締めくくろうとした桜木に、俺は違和感を覚えた。


――あまりにも無計画すぎやしないか。


 あそこまで必死になって作った部活、だが必死になるには『動機』が必ず必要になる。

 桜木の『動機』が、俺にはイマイチ理解しきれないのだ。

 俺が聞いた時、桜木は――後悔したくないからです――そう言ったのは明確に覚えている。


 その後悔とは、どういう意味で言ったのか。

 薔薇色の青春時代を送る為、最初はそう思っていたのだが、おそらく違う。

 それならば、もっと自分に合った部活動に入る、もしくは作るはずだからだ。


――桜木からは、オカルトを趣味としている片鱗が一切見られない。


 見えるとすれば、オカルト研究部部長という一点のみ。

 それ以外からは、桜木がオカルト好きだということを証明する要素が存在しないのだ。

『動機』が、あの必死さが、どこから来ていたのか、俺にはわからない。


 そして今の発言、明らかに主体性が無い。

 かといって部活自体への熱意が無いワケでもなく、むしろ大アリだ。

 謎すぎる、桜木がなぜオカ研を作ろうと思ったのか……。


「桜木、一ついいか」


「はい?」


 理由を聞こうとしたのだが、桜木と目を合わせるなり、それに迷いが生じる。

 そういえば――全てを言うことはできませんが――なんてことも言っていた。

 聞くにしても、それなりのタイミング、信頼関係が必要になってくるだろう。


「……いや、なんでもない」


 止めておこう、まず話してくれるかすらも微妙だからな。

 タイミングが良くても、桜木からの信頼度の問題がある。


「えっと、では解散ということでよろしいでしょうか」


「ああ、悪いな」


 もっと仲良くなってから……いや、これは無色透明に反するな。

 結局、俺の目的を達成する為には、無色透明しかないという結論に現状至っている。

 俺がそう思っている以上、桜木と部活仲間より上の関係、友達とか、恋人の関係になることは避けたい。

 まぁどっちにしろ俺が桜木と付き合うことは不可能だが。

 

「では明! 一緒に帰るぞ、拒否権は無いッ!」


 憂々として席を立ちあがる光貴。

 気付いたのだが、光貴は桜木へ対抗心のようなものを燃やし続けている。

 何への対抗心かと言われると……まぁ、アレだ。


「いやだから俺は一人で帰ると――」


「無色透明に反する、からかな」


 東堂が間に入って来る。


「面白い」


 そう言って鼻で嗤う東堂。

 間違いなく俺を馬鹿にする類の奴だ。


「何が」


「僕ね、見たんだ」


「何を」


「黒木君が、昨日桜木さんと一緒に帰ってる所をね」


「――っ!」


 マジかよ。

 いや、見られたかたと言って恥ずかしがることじゃない、重そうだったから持ってやっただけだ。

 それを説明せねば。


「いや、あれは――」


「明ァ! この僕を差し置いて桜木さんと一緒に帰ったのか!? 邪眼を使わざる終えないッ!」


 そう言って光貴は前髪を掻き上げ、俺に金色の邪眼を見せつける。

 しかし何も起こらなかった。


「ち、違いますっ! 明さんは筋トレの為に、私の荷物を持ってくれたのです!」


「そうかな? 僕にはもっと別の感情があったように――」


「うるさいっ」


 ああもう逃げるしかない。


「帰るっ」


「あ、明! 逃げるんじゃあない! 僕と一緒に帰るんだ!」


「でしたら私もっ」


「桜木さんは昨日帰ったでしょ!」


「そういう問題なのかな、面白いからいいけど」


――いやはや。









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