001
☆
その日も、昨日と変わらない平凡な一日だった。
通いなれた中学校の通学路を往復するだけの毎日――
変わり映えのしない見知った顔ぶれ、
聞き覚えのある会話、
何の役に立つのかも分らない授業、
そしてまた通いなれた通学路を辿って行く。
絵に描いたような平凡な毎日の中で、僕は何となく周りとのずれを感じていた。
何にって聞かれると上手く答えられないんだけど、たぶん世界っていうような大きな存在だと思う。
自分が特別な存在だとか、周りと比べて優れていると思っていたわけじゃない。それでも自分が回りと比べて、どこかずれているという感覚は常に付きまとったていたし、常に僕の胸の裡の中に在った。
浮いていたんだ。
糸の切れた風船のように、どこにも足をつけることができないでいた。
青崎碧人。
中学二年生――
十四歳って言う年齢は、そんなことを思ったり、考えたりするには的確でうってつけな年齢なのかもしれないけれど、僕にはこのズレがただ年齢的なことだとも思えなかった。
だから――
東京タワーの展望室から見えるこの景色にも、僕の胸はとくに躍ることもなかった。
広がる二千年紀の近代都市は、どことなくくすんでみた。
空は鈍色で、
街並みは灰色に見えた。
中学校の社会科見学で訪れた東京タワーの中で――クラスの班のメンバーとはぐれてしまった僕は、そのまま一人展望室の中で空を眺めていた。
どうしてか、その空から目を逸らすことができずにいた。
「――聞こえて……いますか」
不意に声が聞こえた。
「お願いします。私の声が聞こえたなら……私の呼びかけに応えてください」
確かに声が聞こえた。
僕は当たりを見回してみた。
しかし、この人の多い展望室でその声に気が付いているのは僕だけのようだった。誰一人として、どこからともなく聞こえてくる声に耳を澄ませているものはいなかった。
僕は目を瞑って声が聞こえる方角を探ろうとした。
「お願い……です。私たちを、私たちの……星を――」
その声は、僕の胸の奥から聞こえていた。
まるで岩から清水が湧き出るかのように、僕の中から声を響いていた。
「この声は……いったい?」
僕は胸の中で尋ねる。
「ああ……よかった。私の声が……聞こえているのですね。お願いします。どうか、救ってください――」
「……救う、そんなこと僕に?」
僕は戸惑った。
しかし、胸の中の声は止まらない。
「お願いです。どうか……私の手を取ってください。私たちには、あなたの力が必要なんです。私たちの星を――どうか……救ってください」
その言葉を百パーセント信じたわけじゃなかった。
自分に何かが救えるとも思えなかった。別に今の生活に不満があるわけでも、特別な存在になりたいってわけでもなかった。
ただ、助けたいって思ったんだ。
僕に向かって必死に呼びかけるこの声に応えたいって思った。
だから、僕は目を瞑った暗闇の中に浮かぶ――細くて弱々しい手を握ったんだ。
その瞬間――
――僕は翡翠の光に包み込まれた。