011
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マーサさんが手を叩いて講義の終わりを告げ、続いてアリシアさんが抗議の場に立った。
「ここからは――《騎士》について実践的な話をします」
「はぁ、実践的な……話?」
「ええ、先ほどマーサが《騎士》について――《ナイト・ヘッド》の騎乗ができることと言いましたね? あれは《騎士》の持つ力の一端に過ぎません」
「力の……一端ですか?」
「はい。基本的に《騎士》の力とは《ステイタス》と呼ばれる――“五項目”・“四系統”によって判別されます」
「……ステイタス? ごこうもく……よんけいとう?」
「ええ、マーサ――」
「はいはい」
アリシアさんがマーサさんを呼ぶと――頭一個分くらいの大きさをした、“透明な球体”をもってマーサさんが現れた。そして、僕の机の上にその透明な球体を置くいた。
透明な球体の一部には丸い穴が開いていた。
「さぁ、この穴の中に手を入れてみて……」
マーサさんに言われて透明な球体に手を入れると――
不意に帯電したように右手が痺れ、激しい熱をもった。
「いててっ、これ……なんです?」
僕は罠にかかった獣のように、慌てて手をひっこめい言った。
燃えるように熱くて痛い手を擦ってみると、そこには何の形跡もなかった。
「《エーテル儀礼》よ。この透明な球体は“エーテルの結晶体”で、《ステイタス》を判別するの」
「……《エーテル儀礼》? ……《ステイタス》の判別?」
僕は首を捻った。
「……これは、また――」
透明な球体に現れた文字を読み解くように頷いたマーサさんが、黒板に向かって何かを書きだす。
マーサさんが描きだした文字の意味がよく分からなかったので、僕は口頭でその意味を説明をしてもらった。
そして、自分なりの解釈をもって黒板の文字を読み解くとこうなる――
《ステイタス》
“五項目”
筋力 F
耐久 E
敏捷 C
技能 F
神秘 UN
“四系統”
強化 F
放出 E
接続 UN
構築 F
「こんな偏った《ステイタス》は……初めて見るわね。これじゃ、そこらへんの兵士や《ヘッド》乗りのほうが……よっぽど有能かもしれないわね」
マーサさんにそんなお墨付きをもらった。
「そんなに……ダメな《ステイタス》なんですか?」
「ダメっていうわけじゃないんだけど……歪すぎるわね」
「ダメに決まっていますっ」
首を傾げるマーサさんの言葉をかき消すように、アリシアさんが声を上げた。
不機嫌や不愉快を体現したかのような表情を浮かべていた。
「《騎士》となる者の“五項目”に、“Dランク”以下があるんて信じられません。一つならともかく、三項目がDランク以下だなんて騎士の恥です」
「ねぇ、アリシア……アオト君はこの《テラス》に来るまで《騎士》でもなく、《騎士》のこと……何も知らなかったのよ。そんなことを言っても仕方ないでしょう? でも“神秘”と“接続”のランクが“アンリミテッド”っていうのはさすがと言うか……信じがたいわね?」
「“アンリミテッド”って何なんですか?」
「“ランク”の最高位ってことよ。際限がなく、測定が不能って意味ね。一つ付け加えると、アリシアでさえ“UNランク”は一つも有していない」
「マーサ、余計なことを言わないでください」
アリシアさんが声を上げた。
「通常“Sランク”の上に置かれる“UNランク”だけど、実際には規格外のランクとされていて、その存在を確認したものはほとんどいないの。私も実際に見るのは初めてね」
「《エーテル儀礼》の判別が失敗したんじゃないですか?」
「だったら、あなたの“瞳”で見てごらんなさいよ」
「……瞳で見る?」
僕が尋ねると、アリシアさんは厳しい視線で僕を見つめた。
「後で……実戦をもって教えてあげます」
なんだかとても嫌な予感がした。
「だけど“接続”がUNランクってことは、クラスの適正は《アビエイター》になるのかしら? もう少し《ステイタス》の成長を見てからのほうがいいような気もするけれど」
「《クラス》と……《アビエイター》?」
僕は次から次へと現れる新しい用語や単語の波に飲み込まれ、自分がアリシアさんやマーサさんの話を理解できているのか不安になってきた。
マーサさんに代わりにアリシアさんが答える。
「《騎士》には、その“特性”や“適性”に合わせた《クラス》が存在するんです。《アビエイター》は、《ナイト・ヘッド》の“騎乗”に長けた《騎士》のことを指してそう呼びます」
「他にもあるんですか?」
「ええ、《アビエイター》の他にも――戦闘に特化し、白兵戦に長けた《スレイヤー》。知識を武器とし、戦術に長けた《プロフェッサー》。武具の使用や、道具の作成に長けた《クラフター》が、基本の四クラスとして存在しています」
《クラス》
《スレイヤー》 特性は“戦闘”。
《アビエイター》 特性は“騎乗”。
《プロフェッサー》 特性は“戦術”。
《クラフター》 特性は“作成”。
「五項目・四系統からなる《ステイタス》を判別し、最も能力を発揮できる《クラス》につくことが――《騎士》の最良とされています。もちろん、例外はいくらでも存在しますし、どの《クラス》にも該当しない《騎士》もいます」
「アリシアさんは……どの《クラス》に該当するんですか?」
「通常、《騎士》が自分の《ステイタス》や《クラス》を他言することはありません」
アリシアさんはツンと澄ましてきっぱりと言った。
「何か理由があるんですか?」
「理由は簡単です。《ステイタス》や《クラス》の漏洩は、その《騎士》の弱点をさらけ出すことになるからです。騎士同士の戦闘においては、相手の《ステイタス》と《クラス》をいち早く把握することが、勝利を手にする条件の一つとるからです」
「でも……戦闘中にどうやって相手の《ステイタス》や《クラス》を把握するんですか?」
アリシアさんは翡翠の双眸で――僕を見透かし、見通し、見定めるように貫いた。
「それでは……ここからは実戦で、直接――アオサキ・アオトの身体とエーテルで感じ取り、学んでいただきます」
「――――、…………へっ?」
僕は間抜けな声を上げて、アリシアさんが言った言葉の意味を推し量りかねていた。