第七話 恋する乙女の……。
誤字脱字や不備な点、読みにくい部分があるかもしれませんが、ご了承ください
「すみません、なーちゃん先生。急にこんなことをお願いして」
高速道路を走る車内。右車線を通り過ぎる軽自動車の走行音が止んでから、背筋を真っ直ぐに伸ばしながら先生は無垢な笑顔で返事をする。
「大丈夫ですよぉ! なーちゃん先生は生徒会の担当教師の上、『第二生徒会部』の顧問の先生ですからね! 大切な生徒の一大事に駆け付けるのが、立派な大人の役目ですよ!」
「本当にありがとうございます!」
頭を深々と下げ、なーちゃん先生は「だから大丈夫ですよ」と笑顔を崩さすに答える。
「まあ、お姉ちゃんは大切な葉……じゃなくて、生徒たちを守るためなら、本気も出しちゃうほど生徒想いの先生だからね。むしろ生徒の遠慮は、お姉ちゃんにとって毒みたいなものだから、そんなに気にしなくてもいいよ」
助手席に座る千凪は爽やかな笑みで言い、俺は頭を上げる。
「それでも、昨日連絡して車を用意してくれるなんて、予想にもしていなかったんだ。礼を言っても足りないくらいだ」
「へぇ……。だったらあの件、了承してくれる?」
爽やかな千凪の笑みの裏で黒い闇が出現し、俺は慌てて切り返す。
「そうだ! 今度千凪の店で飯を食いに行く! 俺一人じゃなくて、繭たちも連れてさ!」
「了解、葉隠。まあ、君が家に泊まりたいって言うなら、布団ぐらいは用意しておくよ」
「ノ、ノーサンキューだ……」
苦笑いを一瞬にして作り上げ、俺は両手の平を向けて提案を断る。一難去った……そう思うが束の間。
「あの件って何? 芯?」
「もしかしてあれかな? 芯くんの弱みを握るチャンスかな?」
右隣と左隣の美少女、天童繭と夜海常夜が、埋め終えた話題を容赦なく掘り返す。もちろん、はぐらかす処置を即急に行う。
「何でもないから二人とも! それよりも、ほらっ! 戦いに備えて少しでも休んでいたらどうだ!」
「私は芯の布団でたくさん休んだから平気よ」
「あたしも! 芯くんに裸を見られてハイテンション、ハイリペア! いつでもエンジン全開だよっ!」
車内で睡眠を摂る方々ではないと判断し、ため息を吐く。お願いします……この後に支障が出ない程度の、車酔いになってください……。
しかし、そのような念が叶うはずが無く、二人はさらに話題をヒートアップさせる。
「お願い、教えて芯……。恋人関係でしょ?」
「嘘を吐くな嘘を」
「えっ、そうだったんですかっ⁉ 葉隠くんと天童さんは付き合っていたんですか⁉」
「なーちゃん先生……信じないでください……」
車を運転するなーちゃん先生が驚きの声を上げ、ため息交じりにツッコむ。
「あたしと裸で一晩を越した今日の思い出……あなたは忘れてしまったの……?」
「葉隠くん⁉ 学生さんがそんなことをしたらダメですよっ⁉」
「嘘じゃないけど、いかがわしいことなんて何一つありませんっ! と言うか、なーちゃん先生はこの二人の発言を鵜呑みしないでください!」
今度はさすがに強めに否定する。あらぬ誤解は自らの首を絞めるきっかけだ。
その時、右車線にサイレンを鳴らした覆面パトカーが現れ、停止を求めてくる。
「……また、ですか?」
「あ、あはは……。ごめんなさい、皆さん」
「仕方が無いことだけど、向こうの方々もお姉ちゃんの存在ぐらいあらかじめ頭に入れておいてほしいよ……。と言うか、お姉ちゃん専用車両でも作るか」
愚痴っぽく呟く千凪をよそに、なーちゃん先生は車をゆっくりと停止させ、正面に歯パトカーが止まる。そしてそこから二人の男性警察が出てきて、
「君? 運転免許証提示してもらえる?」
「……はい」
苦笑い気味の笑みには、少し悲しそうな色が混じり、おもむろに免許証を差し出す。因みに、今日三回目の光景だ。
「あっ……ご、ご本人様ですか? こ、これは失礼しましたっ!」
顔写真を確認した警察官は、申し訳なさそうに謝り、自身の車両へと戻って行く。
中学生と同じくらいの身長を持ち合わせ、さらには極め付けにかわいらしい童顔。間違えられてもおかしくない。
「すみません……。なーちゃん先生が、もっと大人の女性らしく、ボンッ、キュッ、ボンっだったら良かったんですが……」
しょんぼりとうなだれる少女……じゃなくて女性に、慌てて繭と常夜がフォローに入る。
「し、心配無いですよ先生! きっともう少しで大きくなるはずですよ! ……たぶん」
最後に自分の胸を見下ろし、繭は意味深な呟きこぼす。
「そ、そうですよなーちゃん先生! 大人の女性らしく、キリっとした顔立ちになれる……はずだよ?」
最後にバックミラーに映る自分の幼い顔を目にし、疑問符を付ける。
……まあ、いつか解決されるはずだ。三人の悩みは。
現在、俺たちは都市部を離れ、山々にある穴場のキャンプ地へと向かっていた。なぜかと訊かれれば、あいつらと決着をつけるためだ。
昨日の夜、俺はなーちゃん先生に連絡をして車の運転を頼み、このあいだ行った依頼の暴漢犯と『ザ・普通の猫』の飼い主である少女に連絡し、穴場のキャンプ地や個人所有の別荘地などはあるかと尋ねた。
結果、都市部から離れた山々にひっそりと存在するキャンプ場を発見し、そこで俺たちは対決することにした。
この作戦に奴らが乗ってくれるかは断定できないが、今日の朝話し合った以上、これに乗らない手は無いはずだ。
そう考えていると、車内にいるもう一人の存在を思い出し、振り返る。
「シイ? さっきから黙っているが、どうしたんだ?」
カフェ『クロック』が所有する普通ワゴンの一番後ろに天使の少女に尋ねると、彼女は銀髪の髪を解いて、三人掛けの座席を独占するようにして横になっていた。
「……おはよう芯」
「寝てたのか?」
その問いに、彼女はにっこりと微笑む。魅惑的なそれに、思わず心臓を高鳴らした。
「すまない……。車とは少し苦手で、なるべく休んでいたいんだ……」
「そう言えばお前は……。分かった、ゆっくり休め」
「ふっ……ありがとう、芯……」
そしてどこかのお姫様のような少女は、目を閉じる。
「……お休み」
落ち込むなーちゃん先生に、慰める繭と常夜。それをいつものような笑顔を浮かべて見守る千凪に、身体を休めるシイ。
自分の手の平を固く握り締め、心の中で呟く。
この大切な人たちを、俺は絶対に守る。繭とシイと約束し、この『第二生徒会部』を作ったんだ。
絶対に守ってやる。
例え俺の腕が引きちぎれようが、腹に大穴開けられようが、この力で俺が命を落とそうが、絶対に守って見せる。
彼女たちに、二度と悲しい想いをさせないように……。
◆◆◆◆
私立光月学園入学式。
「あっ! 同じクラスだよ!」
「ホントだ! これからもずっと一緒だね!」
ぴっちりとした特注の制服を身に纏う私は、嬉しそうに会話を交わす二人の女子生徒の隣を通り過ぎ、玄関へと向かっていた。
桜の木は私立光月学園の門をくぐる新入生を祝福し、下駄箱へと続く道では部活の勧誘が早速始まっていた。
「私には関係ないことだ……」
新たに戦力を獲得しようとする部活動の連中をチラリと見て、呟く。
あの日、私の身に宿った化け物の力は、私自身を大きく変えた。
髪や眉の色は通常ならば考えられない銀色へと変色し、常人を遥かに超える運動能力に腕力を持つようになった。また、回復も人間を超越し、大抵の怪我ならば一日で治る。唯一の欠点と言えば、身長の伸びが止まり、胸だけが大きくなった。髪も染めることができないため、異様なほど人の目を集めるようになってしまった。
黙々と歩き、玄関へと向かう。周りからの視線を感じる。理由はもちろん、私の容姿が原因だ。
「こんな境遇、すでに慣れたがな……」
口元を緩めて、皮肉げに笑う。
新入生で込み合う下駄箱に入り、人の波を素早く抜けて上履きにさっさと履き替え、その場から脱出する。
施設にいた頃は、順序良く行動させるため規律が整っていたが、やはり普通は違うんだよな……。
改めて、私は培っていた考え方が間違っていると認識してから、教室へと向かおうとする。するとその時、
「大空シイちゃんだね!」
騒がしい廊下を歩む背後から、はつらつとした声で少女が私の名を呼ぶ。
「貴様は誰だ?」
振り返らず、人を突き放すような話し方をする。過去に近づいてきた最低な人間を離れさせるために覚えた、私の処世術。
「初めまして! あたしの名前は夜海常夜! 気軽に常夜ちゃんって呼んでね!」
「……馬鹿に絡まれた」
そう一蹴し、再び歩き出そうとするが、
「ちょっ⁉ 待ってよシイちゃん!」
進もうとする私の前へと、慌てて回り込む一人の少女。
彼女の容姿はただ一言、かわいらしい。
髪を結ぶ白く大きなリボンに、触角のような二本のアホ毛。それらは愛くるしく、きっと男からの好意的な評価を得られるだろう。また、綺麗なラインを引く顔立ちには、大きな瞳と健康的なピンクの唇が浮かび、艶やかな肌は幼さを漂わせる。
身体付きに関しても問題は無く、平均的だと思われる少女のバストやウエストにヒップ。
そんな彼女の瞳はウルウルとにじみ、悲しそうな表情を作る。
「あたしの話しを聞いてよぉ~シイちゃ~ん」
「私は貴様のことを知らない。だからどいてくれ」
冷たく、私は言い放つ。きっと、この人間とは馴れ合うことができない。
だが、大きなリボンの少女はぴょこぴょことアホ毛を揺らし、さらに言葉を重ねる。
「そんなこと言わないでさぁ~。ほらっ、よく言うでしょ! 『あたしとあなたは運命の力で成せた、奇跡の出会い』だって!」
「私は聞いたことが無い」
「当然だよっ! だってあたしが今即興で作った言葉だもん!」
「……」
薄々気が付いていたが、この少女は馬鹿だ。頭が悪い。発言を聞いて、確信を持つことができた。
呆れた私は彼女の横を通り抜けようと、足を前に踏み出す。
「だから待ってよシイちゃん! 話だけでも聞いてよ! 急がば回転って言うでしょ!」
「それを言うなら急がば回れだ。私は貴様のような馬鹿と今付き合う気暇も無いし、今後一切貴様と関わるつもりも無い。だから私の邪魔をしないでくれ」
「やだなぁ、シイちゃんは。あたしはシイちゃんの邪魔なんて一度もしてないよ」
その発言に、私はイラッとする。
「貴様が私と話していることで、貴様は私の邪魔をしているのだ! それぐらい理解しろ!」
思わず強めの口調になる。私たちの横を通る新入生がこちらを見てギョッとするが、一睨みして黙らせる。そんな私の行動に対しても、少女は感心の声を上げる。
「おおぉ! すごいねシイちゃん! そんなことができるんだ!」
「……」
馬鹿みたいな反応を見せられ、私は深くため息を吐き、眉間に手を添える。
何なんだこいつは……。さっきから私に絡み、疲れさせるような言葉を口にする。そして何よりも、なぜこいつは私の名前を知っているのだ?
不審に思う点。目の前の少女が私から離れるつもりが無いのならば、こちらから疑問を解決させてもらう。
「貴様は一体何者だ? なぜ私の名前を知っている? なぜ私に関わろうとする?」
眉間に添えていた手を離し、私は真っ直ぐ彼女を瞳に映し、気になっていた質問をぶつける。すると、少女は悲しそうな表情を花開くようにして輝かせる。
「おっ! ようやくあたしに興味を持ってくれたねシイちゃん! それではあなたにあたしの素性を表してあげようじゃないか!」
「……」
反応に困るが、明るい彼女は妙な幸福感を与えてくれるような気がする。気が付くと、チラチラと私たちを見るギャラリー、もとい教室へと向かう新入生たちが増え始めていた。
さすがに、ここで大騒ぎするのは邪魔な上、妙な注目を集めてしまうだろう。
話しを始めようとする夜海常夜に、私は提案する。
「ここは人の通りが増えてきたから、場所を変えないか?」
それを聞いた彼女は、周りをきょろきょろと見渡し、事実を確認する。
「そうだね。まあ、道の邪魔だしどっちか人気の無い場所に行く?」
人気の無い場所と言うのは気になるワードだが、私の腕っぷしがある以上を変な気を持った奴だろうが簡単に撃退できるだろう。
「分かった」
余計なことは言わずに了承すると、「ついてきて」と夜海常夜は踵を返してそう言い、私は黙ってその背を追う。
五階にある一年の教室から離れ、しばらくした場所に数人の生徒が通るひっそりとした廊下へと辿り着き立ち止まると、アホ毛の少女は思い出したように言葉を口にする。
「あっ一応言っておくけど、あたしはあっち系の趣味の人じゃないから安心してね!」
「どうでもいい。そんなことよりも――」
「あたしのことについてだね」
喋る最中に、夜海常夜は自らの言葉を重ねる。
非礼としか言えぬ行動だが、一々気にしていたら彼女の調子に乗せられてしまうと判断し、私は黙って頷く。と、
「へぇ……。シイちゃんだったら何か言ってくると思ってたんだけど、もしかしてあたしの狙いに気が付いちゃった?」
「狙い……? どういうことだ?」
先ほどの動作からでは予測することができない、夜海常夜の本性を現したかのような意味深な発言。
おちゃらけた少女の態度はガラリと一変し、独特な威圧感を空気に漂わせる。
「あれっ? もしかして気が付いていなかったのにばらしちゃった? あ~……ヘマしちゃったなぁ……」
露骨に残念そうにする夜海常夜――そして自分の中にある野生の勘が察知する。彼女は危険な人間だと。
私は鋭く彼女を睨み付け、脅すように問う。
「何を言っているのか、事詳しく説明してもらおうか……夜海常夜」
「フレンドリーに常夜ちゃんで大丈夫だよ、シイちゃん!」
相変わらずの馴れ馴れしい態度で、ぴょこぴょことアホ毛を揺らす少女。その表情には、未だに天真爛漫な笑顔が浮かべられている。
あまり下手なことを言うと、自分から首を絞めることになりそうだ。だからあえて私からは話さず、相手から話をさせよう。
そう頭の中に方針を置き、私は尋ねる。
「夜海常夜。貴様は何を企んでいる?」
「常夜ちゃんでいいよ。まあ、ばれているならあたしが企んでいることを公表してあげてもいいんだけど、何らかの条件をシイちゃんが飲んでくれないと話したくないんだよね」
「条件とは……?」
その返答を聞いた少女は、にやっと口元を悪く緩める。嫌な汗が少し背ににじむ。
「身構えなくても大丈夫。呆気を取られるくらいに簡単だからさ!」
「どういう……内容だ……?」
別に追い詰められているという感触は無い。だが、彼女が唱える言葉はまるで私の行く手を遮り、ほかの道へと誘導させられる。
「そうだね。あたしとシイちゃんが至極幸せになれる上、シイちゃんは絶対にノーリスクハイリターン! まさに最高で最善で最高潮で最優良な条件だよ!」
不敵な笑みはまた屈託の無い笑顔へと変わり、先の見えない魅力的な提案をする。
夜海常夜の言葉は、素直に受け取ればメリット聞く気になってしまい、用心深く受け取ればデメリット聞く気になってしまう。
こちらの心情を操ろうとする少女。下手な言葉を選べば、ことごとく彼女の会話のレーンに乗せられるだろう。この場から去るという選択や、無理やり押し切るという選択もあるが、それは傍から見れば半分くらい危ない行動だ。
思考する。だが答えは出ず、私は諦める。
「その条件は一体なんだ?」
「おっ、やっと聞いてくれる気になったね! 粘った甲斐があって嬉しいよ!」
彼女のトレードマークである大きなリボンと二本の触角がぴょこぴょこと揺れ、そして満面な笑顔を浮かべて告げる。
「あたしとお友達になって! シイちゃん!」
「……は?」
素っ頓狂な声が出た。自分でもびっくりだった。
「ネタばらしをするとね、あたしは元よりシイちゃんとお友達になるために接近しました! もちろん、名前を知っていた理由は単純に、受験の日に大空シイちゃんの名前を確認した上、それだけ目立った姿ならあたしは忘れないからね!」
「……呆れた」
今日一番、私は呆れた。そしてどっと疲れが出てきた。あいにく、不快感は一つとして存在していなかった。そこまで私の心はひねくれてはいない。
「それで、シイちゃんの返事は何かな? あたしとお友達になるかお友達になるか。択一の選択肢だよ!」
彼女は馬鹿だ。そして汚い人間であり、決して汚くない人間だ。
私はため息を吐き、答える。
「貴様には友達がいないだろ?」
「そう見える? でも、あたしって結構モテるんだよ! で、返事は返事は?」
「執拗に催促すると、貴様の頼みを断るぞ」
「それはやめてよシイちゃん。あたしはこう見えても防弾ガラスのハートなんだからさ!」
「ならば断ることにしよう。私は忙しいからな」
「冗談だよ冗談! あたしは防弾ガラスのハートどころか、筆に固まった炭ぐらい脆いメンタルだからお友達になってよ!」
「案外あれは固いぞ、夜海常夜……」
まあ私はため息を吐く。そして、今日初めて彼女に笑顔を向ける。
「まあいい。貴様と友達になってやる」
人生の中で、初めてできた友達だった。
◆◆◆◆
「……健闘を祈るよ、芯くん」
季節は夏だが、人っ子一人としていない廃れたキャンプ場。
手入れが行き届いていない山腹の駐車場に車を止め、俺たちはグループを分けていた。
「ああ、行ってくる」
生徒会長、夜海常夜のその声に頷いて返事を返す。
「本当はあたしも一緒に戦いたいんだけど、さすがにここを空けるわけにはいかないからね。まあ、武器を持ってる二人にお任せするよ」
「危険な頼みかもしれないが、ここは任せたぞ」
それを聞いた常夜は、頭の二本のアホ毛をぴょこぴょこと揺らし、俺に親指をグッと立てる。
「あたしは芯くんの頼みならなんだって引き受けるよ! 例え青空の下で芯くんのお世話でも、真夜中のお世話でもね!」
「さすがにそんな頼みはしないが、無理な頼みまで引き受けてくれて嬉しいよ。ありがとう、常夜!」
すると柔らかそうな頬を朱色に染め、天真爛漫な笑顔を浮かべる。
「どういたしまして! あたしは芯くんたちが戻って来てくれることを信じて、ここを守って見せるよ!」
少女の笑みに俺は微笑み返し、「頼んだぞ」と言葉を投げ掛け、今度は運転席に座るなーちゃん先生のそばまで行く。
「葉隠くん! なーちゃん先生に任せてください!」
俺が声を掛ける前に、立派な大人の先生は笑顔でそう言い切ってくれる。嬉しい。
「ありがとうございます! なーちゃん先生! だけど、万が一でもあいつらの誰かが襲ってきたその時は、二人を連れて逃げてください」
彼女の瞳を真っ直ぐと見据え、俺はお願いする。だが、俺たち『第二生徒会部』の顧問を務め、生徒の身を一に考える女教師の答えなど、分かり切っている。
「天童さんに大空さん。そして葉隠くんを置いてここから逃げるなんてできませんよ! なーちゃん先生は、大切な生徒みんなを守り切り、みんなと一緒に帰ります!」
「……さすがなーちゃん先生。そう言うところが好きですよ」
「葉隠芯くん⁉」
驚きに目を見開き、顔を真っ赤にさせる千凪七色先生。そんな彼女の隣に座る少年は、いつものように笑う。
「最高のシチュエーションだね。……それで、君なら分かっていると思うけどさ」
「分かっているさ」
その千凪古代の言葉に、俺は力強く頷く。すると彼も同じように頷く。
そんな短いやり取りの後、踵を返して俺を待つ二人の美少女の元へと歩き出す。
「……待たせた。二人とも、覚悟はできてるか?」
『第二生徒会部』部長として、二人に問う。
「もちろんよ、芯。あなたに守ってもらうだけじゃなくて、わたしも戦うわ」
「愚問だぞ、葉隠芯。私はいつだって戦う覚悟なんてできている」
にっこりと上品な微笑みを浮かべる幼馴染の吸血鬼、天童繭。
圧倒的な余裕を醸し出し、やる気に満ちた笑みを自然にこぼす天使、大空シイ。
彼女たちのその姿に、口元を緩め頷く。
「お前たちに俺が言えることはただ一つ。……絶対に死なないでくれ」
「分かったわ!」「了解だ」
少女二人の返事を聞き、俺は後ろを振り返ることなく前へと歩き出す。
この世界は、奇想天外で溢れている。
大切な仲間の命を狙う相手と戦うこととなり、相手に騙されて一度死に掛け、仲間が大怪我をする。そして彼らと人気の無い山々で決戦を迎え、奇想天外な仲間たちと言葉を交わし合う。
本当に、最悪で最高だ。
笑ってやる。
普通ではないこの世の中を。
普通ではないこの人生を。
普通ではないこの仲間たちと。
◆◆◆◆
昼時から少し経った、そんな時間帯。
しげしげと木々が生える、薄らと暗い森の中を俺たちは歩いていた。
駐車場でみんなと別れた後、俺たちはなるべく奴らが追ってきやすい道を選び、山頂へと向かっていた。
「奴らはどこから攻撃してくるのかは分からない。周りに注意を払ってくれ」
二人は頷き、右隣を歩くシイは馬鹿にしたように笑い、口を開く。
「むしろそれはこっちのセリフだぞ。昨日私が助けに来る前に死に掛けたのは誰だ?」
「うっ……。ま、まあ、それはそれとしてだ。俺だって狙われると思っていたが、まさかあそこまで気配が無いなんて知らなかったんだ」
あの時のことは今でも鮮明に覚えている。
生き物とは思えない冷たい腕が腹を貫き、鮮血が流れて言葉にならない激痛が走る。
シイが助けに来てくれなかったら、今頃俺は確実に死んでいた。
「本当に、俺が殺されかけた時にシイが駆け付けてくれなかったら、とっくにくたばっているところだったよ」
笑顔を作り、「ありがとう」と言葉を口にすると、天使の少女はにやっといたずらっぽく笑う。
「ならばその礼として、私の婿にならないか?」
「あ、はは……。考えておくよ」
俺は笑顔を引きつらせ、曖昧な答えを返す。すると、左隣を歩く幼馴染の女の子が声を上げる。
「考えなくても大丈夫よ。わたしが芯のことをもらってあげるから」
不敵に笑みを浮かべ、上品な声色でそんなことを言い出す繭。もちろん、切れ長の目に豊満な胸を持つロリ巨乳少女も声を上げる。
「そうだぞ。芯は私がもらってやる。だから安心してこの場で結婚しよう」
「まあ、わたしだったらこの場でもこづくりできるわ」
「私も可能だぞ」
「真似しないでくれるかな? なんちゃって天使さん」
「不完全吸血鬼の、品の無い発言の真似などしていない」
バチバチっと、俺を間に挟んで火花を散らす吸血鬼の少女と天使の少女。
呆れてため息がこぼれ、喧嘩の仲裁に入る。
「まあまあ、落ち着け二人とも……。こんなところで喧嘩をしている暇なんて――」
上空から巨大な岩石が落ちてきた。
「くっ……!」
俺と繭は左へと飛び込むようにして避け、シイは右へと同じように回避する。そして、
落下した岩石は大地を揺るがし、地面を抉る衝撃波が付近に波紋のように広がる。
「痛っ!」
青々とした草むらへと飛び込んだためダメージは皆無だが、突然の強襲は状況判断力と思考を一時的に停止させる。
「止め……」
頭の上から冷徹な少女の声が耳を撫でると同時に、鋭利な刃が眼下まで迫り、反射的に横へと転がって何とかそれを逃れる。その時、視線に同い年ぐらいの少女の姿が入り込む。
「女の子……?」
「逃がさない」
少女は容赦なく地に転がる俺に切り掛かる。だが、
「させないわ!」
銃撃音が一発――繭の放った一撃。
「っ……!」
少女の攻撃は中断される。しかし、同時にありえない光景を目にしてしまう。
手に持つ剣で、弾丸をはじいた。
「やっぱり、あなたは吸血鬼ね」
「……」
繭は機敏な動きで跳ねるようにして立ち上がり、俺も無理やり身体を動かして攻撃範囲外と思われ位置へと飛び退き、改めて少女を観察する。
「……言ってた通りだな」
小動物のようにかわいらしい水色の大きな眼に、水色のセミロングボブカット。精巧に整えられた顔立ちに、色白の肌。サイズが合わないスウェットの上から分かる、大人顔負けの胸。ショートスパッツから伸びる無駄な肉付きの無い色白の太もも、そして脚線は黒のストッキングによって一層魅惑的に映える。
「……」
黙って俺が美少女の身体付きを見つめていると、そんな妖艶なものを持ち合わせる少女と、金髪の繭がジト目で俺を見つめていることに気が付く。
「変態……。この人、わたくしの身体を直視して、妄想してました。三回ぐらい切り掛かる隙がありましたが、変態すぎて切る気になれませんでした。この人は剣の錆びにしたくありません」
「相手が敵だとしても、さすがにそれは無いわ、芯……。去勢されたいの?」
「……ごめんなさい」
苦笑いを作り、素直に謝った。……と言うか、なぜに俺の行動に対しての反応で、二人は意気投合してるの? 敵だよね? 敵なんだよね?
疑問に思うが束の間。臨戦態勢に入り直したスウェット少女の後ろから一人の青年が姿を現す。
「初めまして、葉隠芯。オレの名前は鸛波広。そしてこの子は花園六両だ」
ぺこりと、紹介された彼女は律儀に頭を下げ、本気で蔑むような目を俺に向け、
「わたくしにその汚らしい目を向けないでください。穢れます、お願い死んで」
淡々と、かわいらしい声の調子でなぜか傷付くようなことを言われる。
「おっ、初めて六両が自己紹介の時に喋った。何かあったのか?」
青年――鸛は笑い、俺と花園に目を遣り合う。
「さあ……知りませんよ。と言うか、むしろ教えてほしいくらいだ……」
呆れながらそう答え、水色の瞳を持った少女に視線に映すと、青年の後ろへとその身を隠す。えっ……俺って何か嫌われるようなことしたっけ……?
その時、シイが純白の色を持つ翼を羽ばたかせて上空から舞い降り、『天羅』を召喚する。
「手厚い挨拶だな。もしかしてあの雑魚がしでかしたことか?」
凛とした声色を持つ少女は鸛に問い、答えは青年たちの背後から現れた大柄の男がする。
「正解じゃぜ」
「じゃぜ野郎……」
高宇都浩二。
一度俺を殺そうとし、シイに怪我を負わせた純血の吸血鬼。
「また会えて嬉しいじゃぜ、大空シイ」
「私は嬉しくない。だから目の前から失せてくれ」
「ふんっ……言われなくてもじゃぜ」
あっさりと、吸血鬼の男はシイの要求を承諾した。さすがのその行動に、俺はもちろん、シイも疑問符を頭の上に浮かべる。
どういうことだ……? 何か、奴らは企んでいる……いや、企んでいるはずだ。そうでなければ、こんなところで呑気に会話を交わしている暇なんて無いはずだ。
俺は高宇都から視線を外し、青年と目を合わす。
「何を企んでいる、鸛」
「ちょっとした提案さ」
そう言うと彼は嗤い、続ける。
「オレは普通の人間でね。あんたらとは違って戦う力なんて微塵たりとも無いんだ。だからこその提案なんだが……」
彼は勿体ぶるようにタメを作り、俺たちは身構える。空気がピリピリと肌を刺す。
まるでこの世界に俺たちしかいなくなったかのように、鳥の鳴き声や虫の音が聞こえない。
夏場と言うのに寒気が背筋をなぞり、死への恐怖心が増強される。
気が付けば、花園と呼ばれる少女の手は、腰に携えられるロングソードにあからさまに添えられており、吸血鬼の男もすでに獲物を狩る獣の目付きだ。
逃げは不可能……。まあ、そんなつもりは無いさ。
状況把握を終えると、青年は迷うことなく言う。
「おとなしく、殺されてくれないか?」
風が吹き、草木が揺れた。そして、
俺のすぐ正面で、剣を持つ少女同士が交戦した。
「何だ……? てっきり貴様は、正面にいる天童繭を殺すつもりだったんじゃないのか?」
「残念ながら、わたくしはもっとも厄介だと思われるあなたを殺せと命令されていましたので」
剣を交える少女。その隙に、俺と繭は真横へ駆け出し、吸血鬼の男も同じ方向へと俺たちを追い掛ける。
「くそっ! そう言うことかよ!」
悪態を付き、追ってくる吸血鬼、そしてこちらを嗤いながら見る鸛を睨む。
奴らは俺たちを分断させるために、あの剣士の少女をシイとぶつけたのか。
シイをあのまま援護することもできたが、背後には巨大な岩石。逃げ場が限られている上に、奴らには吸血鬼の男がいた。あんな状況で下手に援護をすれば、逆にシイの行動範囲を妨げる上に、俺たちにも相応のリスクを伴うこととなる。
俺と繭は岩石が無い開けた道まで駆け、そこで吸血鬼の男と対峙する。
「繭っ!」
「言われなくても!」
銀のリボルバーを向け、発砲。
「効かないじゃぜ!」
男は自らの身体でそれを受け止め、弾く。
「硬化能力!」
シイが言っていた通り。しかしだ、
「なっ⁉」
二発目の弾丸は、吸血鬼の男の身体を貫き行動を停止させる。
「くはっ……! な、なぜ、おれの能力が……? まさか、お前の第六感じゃぜ⁉」
「正解よ」
言うが早いか。繭はもう一発弾丸で男の胴を打ち抜く。
「がはっ!」
よろめき、苦痛の色を表情に染めて、後退りをする。
「能力無効系……だと?」
「残念ながらはずれですよ。種明かしをすれば、わたしの第六感の能力は『適応力』。攻撃が防がれる、防御が破られるという状態になった時、自動的にそれに通じる攻撃を行う。学習系能力です」
吸血鬼である繭の能力『適応力』。
それが奴に対抗する俺たちの術だ。だが、奴の能力はこんなところでは終わらないと分かっている。
「繭っ! 真横から岩が来るぞ!」
「了解!」
リボルバーを構え、正確に飛来する岩を二発で打ち抜く。するとその岩は繭の横を抜けて、地へと落下する。
「チッ……まあいいじゃぜ」
そう言い捨てると、吸血鬼の男は一瞬で繭との距離を縮め、残り二発の弾を彼女が反射的に撃つが、
男は真横へと直線的に移動し、銃弾は外れた。
「……っ!」
驚く――が、まだ奴の攻撃は終わっていなかった。
「死ぬがいいじゃぜ!」
真横へと移動した吸血鬼は、再び繭の方へと切り替えし、襲い掛かる。
――どんな能力だよっ!
俺は反射的に弾切れに陥った繭を守るようにして立ち塞がり、男のこぶしをあの時のように腹に喰らう。
「あがぁっ……⁉」
「またお前の鮮血で腕が汚れたじゃぜ」
「へ、へへ……。それは結構だ……」
「芯っ!」
背後で俺の名を呼ぶ幼馴染。安心しろ、この程度で殺されるほど、俺は弱くは無いさ。
俺の腹に腕を突き刺しながら、吸血鬼は思い出したように訊いてくる。
「そう言えばお前、あの時同じように腹を貫いたのに、なぜ生きていたのじゃぜ?」
「言っただろう……。俺は死神に好かれているんだ……」
「……お前はおれたちと同じ、吸血鬼じゃぜ。だが、少しお前は違うじゃぜ……。あの花園と言う娘や、そこの中途半端な血を持った吸血鬼とはまた異なった存在じゃぜ」
不思議そうに尋ねてくる赤髪の吸血鬼。
俺は激痛を感じながら無理に笑顔を作り、答えてやる。
「死ぬ間際に教えてやるよ、じゃぜ野郎」
「良い死に顔じゃぜ」
そう言って、男は腹に突き刺さる腕を横に薙いだ。
◆◆◆◆
先ほどの場所から離れ、私は時折剣を交えながら森の奥へと駆け込んだ。
「くぅっ!」
木々を利用したアクロバティックな攻撃をされるが、剣を振り抜き、弾く。
「見事……だけどその程度じゃわたくしはやられない」
怒涛の連続攻撃。
横に薙がれる剣筋から下からの切り上げ。私の牽制をバックステップで回避し、鋭い突きが放たれる。
私と同じ、我流の剣術。しかし、その筋はまったくもって異なっていた。
「くっ」
少女の振り切った剣先が掠りそうになる、だが安心することはできず、懐へと潜り込まれて返しの刃が迫る。
「『天羅』」
手に持っていた剣を瞬間移動で持ち替え、防御不可の攻撃を何とか防ぎ、飛ぶようにして後退する。
「危ないところだった……とでも言っておこうか。私に今みたいな能力が無ければ、今頃貴様に腹を抉られていた。まったく……あの雑魚吸血鬼とは大違いだな」
「同じようにしてほしくない」
私の発言を耳にした少女は、不機嫌そうに顔をしかめ、不満の眼差しを向ける。
「それはすまない……。あの吸血鬼と貴様の戦い方は、比べ物にならないくらい貴様の方が上だ。例え奴が、二つの能力を持っていてもな」
風が騒ぎ、木の葉が躍る。
「……いつから気付いていましたか?」
「さっき、岩石を飛ばしてきた時のことさ」
私は一度戦闘態勢を解き、解説する。
「初めて奴と戦った時、私は硬化能力かと思った。だが、それだと奴の機動力と攻撃の誘導性が説明付かない。だったらいっそのこと、奴が二つの能力を有していると仮定したのだ。たぶん『硬化能力』と『吸引能力』。その二つが吸血鬼のタネだ」
「……正解。彼は二つの第六感を有した天才。……だけど、所詮その程度の吸血鬼です」
彼女は目を伏せ、困ったように話し出す。
「彼の戦い方は、吸血鬼の力と自らの腕っぷしだけを使う、力任せな戦法。わたくしや、あなたとは違い、技術や有さない以上喧嘩術とはなんも変わらない」
「非常に同意見だ。……そこでだ。貴様は私と全力で戦いたいと思っているか?」
問いに、花園は首を傾げる。
「はい? どういうことですか?」
「なに……。私は貴様にならば全力を出しても構わないと思ってな。無理ならばこのまま牽制し合いのチャンバラごっこを続けるが、どちらが良い?」
話しを聞いた彼女は、少しむっと表情をしかめ、目の色を変える。
「……全力で、来てください」
殺意に満ちた、真剣そのものの目付き。……良い顔だ。
「剣士の一騎打ちなど、そういうものだ。一時の油断、一握りの経験値。力を持つ同士が対峙すれば、勝負など一瞬で片が付く」
互いに剣を構え、呼吸を相手と合わせる。
全集中力を研ぎ澄ませ、自分の鼓動、四肢、精神を感じ、ベストコンディションを維持する。そして相手を見つめ、隙を狙う。
――静寂。
時が止まったかのような静けさが流れ――前触れも無く、互いの攻撃が開始した。
一歩足を踏み出すと同時に、背中の翼を力強く羽ばたかせ、勢いを上げて一気に距離を縮める。そして、
剣が交わる。だが、剣術とはここで先手を打つ者が有利となる。
私はガラ空きとなる相手の胸元へと蹴りを喰らわせる。が、察知した花園は交わる剣を引き戻し、後退して回避する。
「……」
「……」
緊迫した空気がまた始まる……そう思うのは束の間。
「はぁああああああ!」
彼女の雄たけびと共に、命を狩る刃が横腹へと迫る。剣で受け流すが、思ったよりも少女の一撃は早くて重く、それによって体勢を崩してしまう。
「もらった!」
勝利を確信した、花園六両の声。しかし、これは殺し合いだ。
「っ――⁉」
花園の持つ剣は手ごたえの感じられぬ虚空を切り裂き、彼女は目を見開く。
「チェックメイトだ」
ドスッ、と鈍い音が響き、少女が持っていた剣は地へと落ちる。
「あぐぁ……」
少女は地面に膝を着け、嗚咽をこぼす。そして自身の手首を押さえながら私に訊く。
「なんで……止めを刺さないんですか?」
剣の柄で彼女の手首を突いた私は、地に落ちた少女の剣を見て笑い、言う。
「私を救ってくれた人間との、約束だからだ」
「約束……?」
こちらに顔を向けることも、剣を拾って挑むことをしない少女の後ろ姿を見つめながら、話をしてやる。
「私が好いている葉隠芯は、普通の人間ではない私を認めてくれ、さらには『第二生徒会部』と呼ばれる、騒がしいながらも、心が休まる最高の居場所を作ってくれたのだ」
私は手に持っていた『天羅』を虚空へと消し、続ける。
「芯は最高の人間でな。私の正体を知った者は同情するか見て見ぬふりをするかで終わってしまうところを、親身になって相談、そしてこんなことを約束してくれた。『絶対にお前たちを守って見せる』ってな。私よりも弱いくせに、彼はそんな無謀な約束をしてくれたんだ」
「……それで、わたくしを殺さない理由は?」
黙って聞いてた少女は、振り返らずに尋ねる。
「だから言っただろう。例え貴様を殺さなくても仕返しをされようが、絶対に芯が守ってくれる。だからこそ、私を殺そうとする相手が誰だろうと、私は誰も殺すつもりは無い。何だって、彼が守ってくれるんだからな」
「……そんなもの、嘘」
こぼれる少女の声に、私は振り返って彼の元へと歩き出す。
「嘘でもいい。大切な人が守ってくれるって言うなら、私はそれを信じるだけだ」
「大切な人……」
「貴様も、あの鸛波広と言う奴が大切ならば、こんなところでくたばるのなんて嫌だろう?」
「……」
返答は返ってこなかった。
「万が一、殺されなかった理由で納得が行かないなら、『最後に使った瞬間移動で貴様を無力化することはできたが、疲れて殺す気になれなかった』とでも受け取ってくれ」
「……うるさいです」
私は口元を緩め笑い、もう一度思い出す。
「……絶対に守ってやる……か。……本当に、面白い奴だ」
お読みしていただき、ありがとうござました!
面白かったですか? 衝撃的な展開ですか? 次でラストです!
できれば、過度な期待はしないでください……ね? 正直に言って、アマチュアが書いた、まだまだ未熟な作品ですので……。
ですが、ここまで読んでくださいましたみなさまには、本当に感謝をしております!
最後に、私のような駄文作品を読んでいただき、ありがとうござました!