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退部ハーレム!  作者: シゲル
6/8

第六話 天使の少女。

誤字脱字、不備な点や読みにくい場所があるかもしれませんが、ご了承ください。


 両親は顔も知らない人間で、私はある施設で生まれ、大空シイと言う名で育てられた。

 そこには何百人という数の子供が暮らしており、毎日繰り返しのスケジュールをただ繰り返す、今思えば生活感が微塵も感じられない、まるでプログラムされたロボットのような生き方だった。

 そんな決まりきったリズムの中で週に一度、十人単位の子供が白衣を着た大人たちに連れて行かれ、そのまま帰ってこないことがあった。

 理由は分からない。だけどその対象として選ばれるのは、最も能力の高い者と低い者、そして施設に十五年間暮らしている人だった。

 私はその対象には選ばれず、苦痛にも感じられる毎日を送っていた。

 不変で必然な日々。自分が人間と言う生き物なのか、時折分からなくなるくらいに私の心は廃れ、静かに壊れて行った。


 あの日、ある出来事が起こるまでは。


 十一歳になった私は、なぜか白衣の大人たちに選ばれ、施設を出ることとなった。

 理由は分からず、不安だった。だけど内心、嬉しかった。

 写真や映像、窓越しでしか見れなかった外に初めて出ることができたからだ。

 その後、私とほかの子供たちは車で森の中の施設へと運ばれ、そこで血液検査や身体検査を行い、薬を打ち込まれた。

 真意は分からない。しかし、その薬を打ち込まれた数秒後、全身に激しい痛み、呼吸困難に陥り、私は気を失った。

目を覚ますと私はベッドに寝かされており、身体を覆うような熱気に辺りを見渡すと、


 施設が……真っ赤に燃えていた。


 慌てて起き上がって周り確認するが、誰一人としておらず、火の手が回って逃げ道はすでに残っていなかった。私は……死ぬんだ……。

 確信した。私が生まれた意味すら、暮らしていた施設で習った言葉の本当の意味すら知らずに、私は炎に包まれ、この世から消え去るんだ。

 激しく揺れる焔。肌を破壊する烈火。苦しみしかない時間。

 あまりの痛みと熱さに、私は死を待った。

 そして、絶命の瞬間――、


 私の背中に、紅い火炎をも圧倒する、純白の翼が生まれた。


 同時に弱り切っていた身体は途端に回復し、髪の色は銀色へと変色。すぐに纏わり付こうとする業火を出現した翼で一蹴して、私は施設から逃げ出した。

 そして気が付くと、背中の翼は消え去り、冷たい夜のカーテンに包まれた見知らぬ公園のベンチに倒れていた。

 ボロボロの服に、裸足。季節が秋だったということもあって、私は凍え、震えていた。少し経った後、やってきた警察の方々に保護され何とか私はその寒さから脱することができた。

 その後、身元が分からない私はすぐに養護施設に連れて行かれ、最初にいた施設とは比べ物にならないくらいまともな生活を送り、ある程度この世に適応できるようになった。

 だが、異形の力をこの身に宿らせる代償として得た銀色の髪は、同じ施設内の子供や学校の同級生からは疎外の対象とされ、大人たちが見ていない場所で間接的ないじめを受けた。

 居心地の悪いそこからは中学卒業と同時に出て行き、立地が悪く建物の老朽が目立つ安アパートに引っ越した。一応、施設側からの援助を受けているので、高校に入学してある程度の生活はできている。

 そんな私が、初めて誰かを好きになったのは、今年の四月。

私立光月学園入学式の日だった。


◆◆◆◆


「はっ!」

 凛とした気の入った声と同時に、白銀の剣『天羅』は命を裂くために獲物へと襲い掛かる。

「甘いじゃぜ!」

 高宇都は迫る剣筋を、背に羽織る漆黒のマントで応戦し、弾く。

「くっ……! やはり一筋縄ではいかないか……」

 攻撃を防がれ、私は天使を思い浮かばせる純白の翼を勢いよく羽ばたかせ、風圧で互いを無理やり後退させる。

「まるで鋼鉄……しかも、布の本来の性能を殺さないという、矛盾だらけの能力……」

「これがおれの吸血鬼の力じゃぜ」

 不敵に笑い、自身一杯にマントをなびかせ語る高宇都。

 前に天童繭が話していた。吸血鬼がマントを羽織ると、特殊能力を得ることができると。

 彼女は別の能力だったので、きっと個々の吸血鬼でその能力が違うのだろう。

「だが、身を守るだけの力で私を倒せるとでも思っているのか?」

「ふんっ……甘いじゃぜ、若造。プロとアマチュアの差を、今こそ見せてやるじゃぜ」

 羽織るマントを外し手に持つと、それを真っ直ぐに伸ばして硬化させ、独創的な槍のようなものへと変形させる。

「要するに、貴様の防御は攻撃にも補填できるとでも言いたいのか?」

「あながち間違っていないじゃぜ。しかし、タネをすべてばらすのは馬鹿がすること。その身でしかとおれの技を受けるがいいじゃぜ」

 独特な槍を手に、吸血鬼は剣を構える私へと弾丸のように恐ろしいスピードで襲い掛かる。

 確かに、本来ならばあんな大仰な代物を持てば、重さで機動力を損なわれる。しかし、布と言う性質を生かしていれば、そのデメリットを消すことができる。よくできたシステムだ。

「けれども吸血鬼よ。軽いからと言って、有利なことばかりではないぞ」

 迫る槍を剣で下方へと薙ぎ、翼をはためかせて普通ならありえない体勢から踵落としを後ろ首へと喰らわせる。手ごたえはアリだ。

「あぐっ⁉」

 高宇都は嗚咽と共にバランスを崩し、槍をアスファルトへと突き刺して膝を地に着く。

 私は翼を軽く振って一旦相手との距離を作り、鋭い眼光に映す。

「武器の重量は攻撃力を示す。例え鋭利で軽かろうが、軌道を簡単に逸らされてしまえば意味が無い。降参するなら今の内だぞ、吸血鬼」

「……はっ、プロを甘く見るな、若造」

 地に刺さる槍を使って立ち上がり、余裕が見える顔をこちらへと向ける。

「おれはこの手で何人もの人間を殺してきたじゃぜ。その方法は様々。そしてそのたびに己自身の弱点を見つけ、改善してきたじゃぜ。つまり、お前とおれは、根本的な実力の差と経験の差が大きく開き、おれの方が圧倒的に優勢じゃぜ」

 ペラペラと饒舌に、どうでもいいことを喋る吸血鬼。嫌気が差し、私は剣を構えて問う。

「貴様は、『自分は年を食っているから強い』とでも言いたいのか?」

「そういう訳ではないじゃぜ。ただ……」

 男はわざとらしくタメを入れ、告げる。


「おれの力を見極められない若造では、おれは倒せないじゃぜ」


 言い終わると同時に槍が飛翔し、私の利き肩を貫く。鮮血が飛び散り、痛みが無情に走る。

「――っ⁉」

 予想外の事態。それどころか、攻撃の動作すら見えなかった。

 私は『天羅』を意地でも力強く掴み、空いている手で傷口を押さえる。だが、すでに貫通しているため流れ出る血は止めることはできない。

「くっ……! 何をした、吸血鬼!」

「普通の人間ならば戦意喪失だが、やはり人外は違うか。まあ、久々に()りがいのある獲物じゃぜ」

「うざい吸血鬼だ……。しかし、私も久々に戦うことができるのだ。完膚なきまでに叩き潰してやろう」

「不利な状況に陥りながら、良く偉そうにそんなことを言えるじゃぜ。やはり若造じゃぜ」

 舐め腐ったように嘲笑う、自称プロの吸血鬼。

「それをひっくり返すだけの力を持っているのが、若造ではないのか?」

 私は嗤って反論し、左手に剣を持ち替えて臨戦態勢に入る。

「ならばやってみろじゃぜ」

 そう言うと、吸血鬼は先ほど同等の速さで私との距離を詰める。

「はっ!」

 二度目のそれは、私の目の前に現れる瞬間に剣で受け流し、カウンターを狙うが、

「なっ――⁉」

 私の肩を貫いた槍が、通過する男の真横を飛翔し今度は頭部へと襲い掛かる。

「うぐぅっ!」

 わずかに頭を横へと逸らし、紙一重で攻撃を回避するが、途端吸血鬼が踵を返し追撃する。

「その手を喰らうつもりは無いっ!」

 翼を勢いよく羽ばたかせ、強烈な風圧が周りを押し退け、上空へと避難する。

「奴の能力は、硬化じゃないのか……? なぜ、あのような速さを……しかも、一度私に放った槍が戻ってきた……」

 どういうことだ……? もしかして硬化能力ではなく、別の力とでも言うのか……?

 見当が付かない。身体能力強化系ならマントの硬化は説明ができず、物体硬化系ならばあの速さ、そしてなぜ槍が戻ってきたのか、理由がまったくもって分からない。

 思考する。が、猶予をくれるほど相手は甘くない。

「空を飛んだところで、おれの攻撃を避けるのは不可能じゃぜ!」

 言葉通り、マントで作られた槍は、夜空に浮かぶ私に向かって鋭い切っ先を向けて迫る。

「厄介な能力だ」

 翼を羽ばたかせて旋回し、槍の射程外へと何とか避けるが、すぐさまそれは私へと追尾を繰り返す。

「逃げてばかりではおれを倒せないじゃぜ!」

 奴の言う通り、こちらからも攻めない限り勝機は皆無だ。しかも、攻撃を避けている間は体力を消費するだけではなく、先ほど肩に受けた傷も少しずつ悪化し、正直に言ってこれ以上ひどくなればまともに戦うことはできなくなることは確実だ。

「だったら、最低でも肩のお礼くらいは返してやらないとな」

 私は槍から避けるための旋回をやめてその場に停止し、背後から追い掛けていた槍と向かい合う。

「ふんっ……。とうとう観念したじゃぜ」

「ならば、その目で見届けてみるか?」

 弾丸のごとく迫る槍。それは確かに脅威だ。現に、私の肩を負傷させるだけの殺傷能力を備わっていることが分かっている。

 しかし、所詮その程度のことだ。

 槍の切っ先が突き刺さるコンマ一秒――その切っ先から私は消えた。


 正しくは、私は吸血鬼の正面に舞い降りた。


「は――?」

 高宇都が口を開くよりも先に、私の剣がその胴を切り裂く。

「私にこの能力を使わせたのは褒めてやる。だが、貴様よりも私の方が格上だった」

「っ――⁉ がはっ!」

 男は血を吐き、斬り付けられた傷を押さえる。が、その切り口は右肩から左横腹まで直線で切られ、血しぶきが舞う。

「何が……どういうことじゃぜ……」

 明らかな重傷を負いながらも、吸血鬼はその身を伏せることなくよろよろと後退り、私を殺気帯びた目で睨む。もちろん、私は華麗に嘲笑う。


「私の力量を見極められない雑魚では、私は倒せない」


「うぐぅっ……。だがしかし、お前は肝心なことを忘れているじゃぜ……」

「それはこいつのことか? じゃぜ野郎」

 私の背後から聞こえる、大切な人の声。

 高宇都は驚嘆の色を瞳に示し、その前に一枚の布が放られる。

「な、なぜ……。なぜお前が生きている⁉」

 荒げ、慌てふためく吸血鬼の声。

「俺が生きている理由? 仕方が無いだろ。俺が死んだら、誰がこんな部活動をまとめるんだよ」

 安心する……。いつも彼は、面倒くさそうに喋り、いい加減に語る。そして妙なことを提案するその腑抜けた性格は少し嫌いだ。

「その時はあたしがまとめてあげるよっ! もちろん、芯くんの役割は生徒会室のペットだよっ!」

「わたしは別に異論は無いわ。芯が生徒会室にずっといてくれるなら、いつでも血を吸うことができるからね」

「……雰囲気をぶち壊さないでくれる?」

 ため息をこぼす。そして彼はいつもの足取りで私たちの前へと歩み出て、告げる。


「私立光月学園、『第二生徒会部』初代部長、葉隠芯」


 真っ直ぐと芯は敵を見据え、笑う。

「ようやくちゃんと面と面を向け合って話せるな、高宇都浩二。怪我は大丈夫?」

「心配しなくても大丈夫じゃぜ……。おれは純粋の吸血鬼じゃぜ……」

「なら良かった。大切な仲間には、敵であろうと殺めてほしくないからな」

「ふんっ……。あんな目に遭わされた相手に向かってそんなことを言えるなど、お前の頭はやはりおかしいじゃぜ」

「大怪我してる奴には言われたくないセリフだな」

「まあ、いいさ。おれの能力も塞がれた以上、ここは一旦退かせてもらうじゃぜ」

 高宇都はそう言うと、アスファルトに落ちているマントを消滅させ、吸血鬼特有の身体の能力を使って飛び退くように民家の屋根に移る。

「勝手にしてくれ。決着は後日付ける予定だからな」

「やはりお前らは甘い奴らしかいないじゃぜ……」

 捨て台詞はそれで、すぐさま吸血鬼は立ち去った。

「ふっ……。生きていてくれて嬉しいぞ、芯」

 すると私の方へと振り返り、心配の声を掛けてくれる。

「大丈夫か、シイ?」

「肩をやられている上に、能力を使って疲労困憊だ……。早く芯の愛情で手当てをしてくれないと死にそうだ……」

「分かった。とりあえず今日は、一番近い俺の家で休め」

 相変わらず、人の気持ちを突いてくれることを平然と言ってくれる……。

「それだけ聞ければ……じゅうぶん……だ……」

「おいっ、シイ! 大丈――」

 視界が……ぼやけて……。足元が――

 能力を使った代償で、私は意識を失い倒れた。


◆◆◆◆


 土曜日。

 慌ただしかった昨日が、まるで嘘だったかのように枕元に朝日が差し、天気が良いと小鳥のさえずりが耳を撫でる。

「ん……」

 休日のため、不快な電子音が部屋の中で騒ぎ出すことは無く、夏本番と言わんばかりに室内が暖かい。さらには昨日の疲れもまだ少し残っているので、眠気を誘発させるには十分な条件が取り揃っている。

「休みだし……もう少し……。待てよ」

 ふと、俺は現在の状況を整理する。

 誰もが羨むだろうこういった爽やかで気持ちの良い朝。両親ともに現在海外に出張中のため、誰かを家に泊めても大丈夫な状況下。そして、大怪我をしたシイを休ませている休日。

 状況確認を済ませ、脳内で答えがまとまる。だが、それは遅いとしか言えない結果となる。

「んうっ……」

 くぐもった自分ではない誰かの声。それは、まるで連鎖するようにして、ほかの二人からも発せられる。

「んんっ……。貴様は一度、私と男女の契りを……」

「むにゃむにゃ……芯くん……路上でズボンを下ろすのは……興奮するよ……えへっ……」

「……」

 かばっと俺に掛かる布団を払いのけて起き上がると、右隣で静かに寝息を立てる幼馴染の繭と、股の間で小柄の身体を丸くさせるクラスメートのシイ。最後に、右隣で妙な寝言を唱える生徒会長の常夜。しかも全員、

「……勘弁してくれよ、お前ら」

 彼女たちの若々しく個々それぞれの成長を惜しみなく晒す格好……要するに、裸だった。

 すぐに掛け布団を掛け直して、露わになる少女たちの裸体を隠す。

 しかし、全員俺と密着するような形で寝ているため、柔らかな女の子の感触がパジャマ越しに伝わる。

「このまま……抜け出せれば問題は無いのだが……」

 と思うも束の間。

「芯くんを逃がすほど、あたしは優しい女の子じゃないんだよね」

 右隣から聞こえてくる、ひそひそとしていながらはつらつとした女の子の声。

「……起きてたのかよ、常夜」

「あたしは芯くんを狙う、一人の恋する乙女だからね。寝ているところを見れば、手を出さないわけないじゃん」

 俺が掛けてやった布団を胸元ギリギリまで下げ、ほど良い膨らみを主張させる。

「少し自重してくれ……。と言うか、お前は寝てる俺に対して何かしたのか?」

「男女の契りだよ!」

「……嘘でもやめてくれない?」

「嘘とは失礼な! あたしの口は真実と本音しか語らないよ!」

 彼女は頬を膨らませ、苦情を口にする。普段白いリボンで結いている髪はほどかれ、ライトブラウンカラーの髪は常夜の目元にわずかに掛かる。

 いつもとは違う見知った少女の一面。俺はそれを見ると、呆れながらも感心の言葉を並べる。

「お前は誰が見てもかわいいんだから、もう少し自分を大切にしてくれ」

「……それを言うくらい芯くんがあたしたちのことを思っているなら、早く答えぐらい出してほしいけどね」

「……」

「……」

 お互い何も答えない。

 だが、すぐに少女は会話を打ち切るようにして喋る。

「まあいいや。あたしが信頼を置く、芯くんらしいからね」

「すまない……。ちゃんと、お前らの気持ちは気付いている……」

「芯くん……」

 綺麗に整った顔立ちを持つ少女は、寂しげに呟く。

 分かっている……分かっているさ……。彼女たちに俺の気持ちを言わないといけないなんて、誰よりも自分自身が一番分かっている。でも……それはみんなを傷付ける答えだ。

 しんみり――爽やかな朝とは思えない、沈んだ空気。だがそれを、少女は口元に小さな笑みを作り、塗り替える。

「朝からこんな空気は気持ちが悪いだけだよ芯くん!」

 そう言うと、勢いよく自分に掛かっている布団を引っぺがして軽快に立ち上がる。寒そうに、同じ布団に入っていた繭とシイが寒さで苦悶の表情に歪み、俺の思考が停止する。

「……はい?」

 眼前に映るのは、美少女たちの裸体。

「目を瞬かせてどうしたの芯くん! 繭ちゃんとシイちゃんとキスできるんだから、裸ぐらい大丈夫でしょ!」

 天真爛漫に笑顔を浮かべ、惜しむことなく自らの大切な部分晒す美少女。

「どうしてそうなるんだよ……」

 俺は頬を引きつらせて目を閉じ、頭を抱えて呟いた。


◆◆◆◆


「怪我の具合はどうだ?」

 俺は食卓を囲む三人の目の前にトーストを置きながら、素朴な疑問を投げ掛ける。

「貴様は朝から私の裸を見ていただろう? あの程度の怪我、一日休めば完治する」

 シイは出されたトーストを持って返事をし、噛り付く。銀色で幻想的なポニーテールが、ほんのわずかに揺れる。

 天使である彼女の回復速度は、常人を遥かに上回り、骨の損傷など一日で再生してしまう。そのせいなのかは定かではないが、シイはある一点を除いて発達速度が遅い。まあ、あくまで俺の推測だが……。

 因みに、吸血鬼である繭も引けを取らないくらい同等の再生能力を持ち合わせている。

「そんなことより、私は今芯の愛情に飢えている。だから私とただちに結婚しろ。子供をたくさん作ろう」

「それについての話は、いつかするとしてだ。昨日繭と常夜の方で起こったこと、それを詳しく教えてほしい」

 全員分の朝食を用意し終えた俺は席に座り、シイのどうでもいい話をスルーして繭と会長に訊く。

 我ながら上手く流すことができたので、このまま話し合いはテンポ良く進むかと思ったが……。

「芯。わたしとしても、大空さんが言ったことは重要だと思うから、そっちを先に話し合いましょう」

「同感だね! 今日の夜、芯くんの布団に誰が寝るのか、そう言った最重要の話しもしたいしね!」

「……」

 俺は眉根を引きつらせ、こめかみを押さえる。

 やはり予想通りにはいかない……。まるでこいつら、台風みたいな連中だな……。

 だがこの程度で屈していては、生徒会室で三人に振り回されているのと同じだ。今いるのは俺のホームグラウンド、自宅だ。舵を取る士気はまだ残っている。

「そんなことよりも、昨日なんて俺やシイが死に掛けたわけだから、先にあいつらに関する情報をまとめ――」

「ご存知の通り、わたしと芯は幼馴染。と言うことは今夜一緒の布団に寝るのは、付き合いが長いわたしがベストかしらね」

「何を言っているのだ天童繭。付き合いが長いということは、芯は貴様には飽きているはずだ。だから一番包容力を持ち合わせ、安心感を与えられる私が一緒に寝る」

「包容力だったらあたしも結構持ち合わせているし、シイちゃんだとむしろ可愛がられちゃうよ。芯くんと一緒に寝るのは、全部生徒会長であるあたしに任せて!」

「会長さん、別に芯は包容力なんて求めていないわ。むしろ守ってやるっていう方が強いから、おしとやかで品がある、わたしが一緒に寝るわ」

 こちらのことなどお構いなしに会話を繰り広げる、御三方。

「……。おーい、俺の話しを――」


「「「黙ってて」」」


「……」

 同時に発せられる要求に、俺は口を噤む。高かった士気は急速に下落し、三人は話し合いを再開させる。

 ……とりあえず、朝ごはんを食べよう。

 心の中で呟き、俺は黙々とトーストを食べ始めた。


 数時間のあいだ謎の討論と交渉が食卓の上で交わされ、俺が朝ごはんを食べ終えてリビングで朝のアニメを一通り見終わると同時に、ようやくそれは終了した。

 どういう結論が出たのかは知らないが、三人の美少女達の嬉しそうな表情を見る限り、平和的に解決したのだと認識する。というか、本題に入れなければならないので、もし違かった場合でも、嫌でも俺は認識しただろう。

 とりあえず、約二時間に渡るガールズトークから移り、昨日の件について互いに情報を共有し合った。

 繭たちが遭遇した青年と少女の一連の話しを聞き、一度すべてを自分なりにまとめる。

「昨日繭たちが行った廃工場には、今回の黒幕である鸛波広と呼ばれる奴と、吸血鬼の細胞を加えられて強化された人間、花園六両と遭遇したと。奴らは復讐のために俺たちを殺すと宣言し、純血の吸血鬼である高宇都浩二を俺の元へと送り、暗殺を試みるが失敗」

 俺はコップに入ったお茶で喉を潤し、こちらを見つめる三人に言う。

「大体こんな感じだろう。新たに分かったと言えば、奴らの狙いは繭だけではなく、俺たち全員……最悪、千凪姉弟にも手が回る可能性があるってことだ」

「つまり、短期決戦しないと、こちらが不利になる可能性は大ってことだね」

 常夜は唇に指の腹を添え、二本のアホ毛をぴょこぴょこと揺らしながら、思っていたことを代弁してくれる。

「そうだ。あの二人には身を守る力なんて無いだろうし、しかもあちらさんのメンツはじゃぜじゃぜ吸血鬼に、変身ヒーローもびっくりな改造少女と皮肉屋な青年。あいつらが過去に研究所を破壊して被験者たちを解放したなら、もっと仲間がいるって考えられる。だからこの戦いはすぐに終わらせたい」

「確かに、千凪くんとなーちゃん先生にはあの三人と争える力は無いわ。でも、短期決戦って言っても、一体どうするの? こっちは相手の動向すら分かっていないし、街中で戦闘を行えば犠牲者が出るのだって考えられるわ」

 話を聞いた繭は紅の大きな瞳に俺を映し、素朴な疑問を持ち掛ける。

「繭の言う通り、俺たちは奴らの動向を知る由は無い。だが、向こうさんは俺たちの命を狙う以上、動向をこと細かくチェックするはずだ」

 一を聞いて十を知る。幼馴染の繭は「なるほど」と声を漏らし、シイも口を開いて納得の言葉、そして反論を告げる。

「要するに、相手が私たちの行動を見張っているのならば、わざわざこちらが合わせるのではなく、おびき寄せるような形で決着をつけると。しかし、相手もあからさまの誘いに乗ってくれるのか? あと、もしもおびき寄せるとしてもどこにする?」

 彼女は豊満な胸を支えるように腕を組み、無意識に自らの色気を醸すが、俺はそれから視線を外して、頬に熱を持たせながらも答える。

「俺の推測だが、相手が夜中に俺たちを襲ってきたということは、なるべく人目に付きたくないからだろう。理由として予想されるのは、奴が研究所を壊滅させたことだ。あんな事件を起こし、黙っているほど国の人間は優しくないだろう。きっと黒幕である鸛は追われているにも関わらず、恨みを晴らすために俺たちと接触しているのだろう」

「相手もあまり時間を取るわけにも、さらには目立った行動を取るわけにはいかないと言うことか。では、肝心のおびき寄せる場所はどうするんだ?」

 その天使の少女の問いに、俺は待っていましたと言わんばかりに、にやっと口元を緩め、三人に作戦の全容を語った。


◆◆◆◆


「……そんでもって、吸血鬼のあんたは依頼を完遂することができなかった上、尻尾を巻いて逃げ帰ってきたと」

「……」

 椅子に座る小柄な青年のにこやかなぼやきに対し、赤髪の男は壁に寄り掛かりながら目を瞑って黙る。

 ビジネスホテルのとある一室。

 一人のクライアントと一人のベンダーが、秘密裏な会談を行っていた。

「まあオレも、天使と言う架空の存在が相手にいたなんて、予想外だったからな。今回のヘマは不問にしておくぜ」

「……」

 青年の言葉に反応を示すことなく、赤髪の中年は黙ったまま何も返答しない。

「どうしたんだ? 何か気に食わないことでもあったのか?」

「……おれが戦ったあの小娘、はっきりと言って相性が悪い」

 唐突の発言に、青年――鸛波広は馬鹿にしたように笑い、ひょうひょうと言葉を口にする。

「性格の不一致か? まあ、中年と少女じゃジェネレーションギャップもあるだろうから、些細ないさかいで相性は合わないさ」

「お前……殺すぞ」

 ギロリと吸血鬼の男――高宇都浩二は睨み付け、鸛は「冗談ですぜ、冗談」と変わらずの態度を見せ、


「と言うか、あんたじゃ大空シイを殺すことができない」


「……」

 室内にいるため男はトレンチコートを脱ぎ、普段では目にすることができない迷彩柄のシャツと黒のスラックス姿でいた。

「あんたからの話しを聞く限り、大空シイちゃんが使ったのは飛行能力に剣の召喚。そしてあんたの目の前に瞬時に移動する離れ業……。飛行能力に関しては翼自体の能力だが、召喚と瞬時に移動する能力。二つの関連性を踏まえれば、奴の力は『瞬間移動』と予想することができる」

 いつものように嗤い、青年は深く椅子に座り込んで頭の後ろに両手を回す。

「そこで問題なのが、あんたの第六感では俊敏な移動を行うことができる相手、もしくは接近戦を主にする相手には決め手を加えることができない」

 この言葉に、高宇都は眉をひそめる。

「お前、おれの能力を知っているのか? いつ、知ったじゃぜ」

「あんたは金でオレの敵にも味方になる人間だ。あらかじめデータを集めておくのはセオリーだろ?」

「……その悪癖、仇にならぬよう忠告しておくじゃぜ」

「ご忠告ありがとうございますぜ、吸血鬼さま。……で、今度は直接天童繭ちゃんを殺してくれ。それであんたとの契約は終了だ」

「最高じゃぜ」

「オレもだぜ」

 皮肉一杯に、互いは嗤う。その時、ジーパンのポケットからケータイ電話の呼び出し音が鳴り、一言断ってからそれに出る。

「もしもしオレだが? ……そうか、あいつらがそんなアクションを……まあいいさ。罠だろうがこちらには時間が無いんだ」

 しばらくの間会話を交わし、青年が電話を嬉しそうに切ると同時に、吸血鬼の男に告げる。

「仕事ですぜ。今度こそ、あんたの力を見せてくれよ」

 舐めたような口を利く鸛に、男は何も言うことなく壁に掛けておいたトレンチコートを羽織り、支度を始めた。




 お読みしていただき、本当にありがとうございました!

 展開、かなり変わってます、はい。

 元々バトルコメディを書こうとした結果でしょうか?

 ですが、最後まで掲載します。


 最後に、このような駄文を読んでいただき、誠にありがとうございました!

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