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退部ハーレム!  作者: シゲル
2/8

第二話 ロリ巨乳天使に襲われて部をやめられませんでした。

 誤字脱字や、読みにくい点があるかもしれませんが、ご了承ください。


 この学園に入学してすでに二ヶ月。今は六月となり、だいぶこの学園にも慣れた。

「ふっ……風が気持ちいいな……」

 俺は生徒会室の窓辺に立ち、開け放たれて外から吹く温かい風を肌に感じていた。

 この前捕まえた『ザ・普通の猫』は、無事に飼い主の元に渡り、事件は一件落着となった。因みに『第二生徒会部』の仕事は基本無償で行っているため、見返りなどはほぼない。

「それを考えると、本当に割に合わない部活動だな。郊外まで出た挙句、必要経費以外金銭的な支援が出ないなんて……。だがまあ、俺にはもう関係ないことだ」

 再び、開け放たれた生徒会室の窓に、優しいそよ風が流れ込む。身体を包み、心を爽やかにしてくれる。

「……まったく、辛い部活動だったぜ」

 入学してすぐにこの部活動に入ったが、まさか二ヶ月でこんな決断をすることになるとは、思いにも寄らなかった。

 ……そう。


 今日を持って、俺は『第二生徒会部』をやめる。


 この前みたいに、繭に止められても決意が揺らぐことないようちゃんと退部届も書いてきた。だから後は、これを顧問の先生に渡すだけだ。

 感傷深い気持ちになりながら今まで世話になった生徒会室を見渡し、開けた窓を閉めてから出口に振り返ると、

「……シイ」

 目の前に立つ天使の少女、大空シイ。

 彼女は今しがた入ってきたようで、カバンを置くことなく手に持ち、幼い顔立ちにある鋭い切れ長の目に浮かぶ大きな灰色の瞳で、俺を見上げる。

「? どうしたんだ、芯?」

 訝しげに小首を傾げ、ポニーテールに結われた銀色の優美な髪はわずかに揺れる。

「いや……何でもないよ」

 疑問に対しての俺の答えは、それだった。

 理由は単純に、繭に部活をやめることを告げた際、彼女の美しい容姿が合わせられた甘い説得術により、退部の決意が揺らいでついには断念してしまったからだ。

 そして目の前に立つ一人の美少女も同様。もしも彼女に同じことをされれば、確実に退部の覚悟は見事打ち砕かれるだろう。

 それらを踏まえ、俺は水仙のように気高く凛とした雰囲気を醸し出す少女に言う。

「ちょっと野暮用で席を外すから、ほかの二人が来たら伝えておいてくれ」

 言い残し、俺はシイの横を通り過ぎて扉に手を掛けた瞬間、


「貴様は、なぜこの部活をやめるのだ」


 背後から耳に届く、はっきりと芯の通った少女の声。

「……どうして、お前はそのことを知っているんだ」

 振り返らず、扉に手を添えたまま訊き返す。

「今朝教室で、貴様がトイレに行っている間にカバンの中身を漁ったんだ。そしたらこのようなものが見つかったんだ」

「……大空シイさん? ……ツッコまない方がいいですか?」

 俺は扉から手を離して額に手を当て、沈鬱の声で質問した。

「それは貴様の勝手だ。ただし、私はありのまま、躊躇うことなく貴様に話してしまうぞ」

「……何でもないです」

 触るに神に祟りなし。明らかに知っておかないといけない出来事だが、訊きたくない。どうしてシイが人のカバンを漁ったなんか、聞きたくもない。

 今あったことを忘れ、振り返って銀髪の少女に視線を送ると、


 用意していた、俺の退部届。


 それが、小柄で豊満な胸を持ち合わせた少女の手に握られていた。

「……シイよ。お前の手にあるそれはなんだ?」

「可燃ゴミだ」

「聞きたいのはゴミの区分じゃない」

「印刷紙だ」

「紙の性質じゃない」

「芯のカバンから抜き取った紙屑だ」

「紙屑じゃなくて退部届な」

 しびれを切らし、俺は正解を口にする。カバンから抜き取ったという点に関しては正直に答えたので何も言わない。

 ため息を吐き、俺は胸の辺りまでしか身長がない美少女の元まで行き、手を差し出す。

「それを返してくれ」

「私と結婚してくれ」

 凛々しく整った宝石のような表情に、恥じらいと呼ばれる感情を覗かせることなくシイは言い切った。俺は思わず差し伸べた手で目元を覆う。

「ちょっと待ってくれ……。少し予想を斜めに行く返答だったから、衝撃が本当に強かった……。今から心を落ち着かせてるから、ちょっと待ってくれるか……?」

「分かった」

 俺とは違い、一切の動揺が現れていないシイの返事。

 それはいつものことなのでツッコまない。しかし、真正面からかわいい女の子にあのような告白をされると、ヘタレ男子高校生である俺の心臓に半端ない衝撃が走る。というか、できればそう言うストレートなものは控えていただきたい。

 ……とりあえず、数秒のインターバルをもらった俺のメンタルは正常値に回復し、会話を再開させる。

「で、お前はそれを返してくれるのか?」

「貴様が私と結婚してくれれば検討してやる」

 彼女は再び迷いもない視線を俺の目と合わせ、無茶苦茶な条件を提示する。

「なんで退部届を返してもらうだけで、俺とお前が結婚することになるんだよ……」

「いつも言っているだろう。私は貴様のことが大好きなんだ。法律であろうが常識であろうが、どんな障害が立ち塞がろうと私は貴様と一緒にいたいのだ」

 俺から切れ長の目を離すことなく、天使の少女は羞恥に感じられる発言を放つ。

「……一つ訊くが、なんでそこまで俺にこだわる? たとえば俺とお前が付き合ったとしても、何一つとして見返りなんて無いんだぞ」

 この言葉にシイは強めの口調で反論する。

「私は貴様と一緒にいられるだけで嬉しいのだ。むしろそれ以上の見返りなら、お互いの身体を飽きることなくむさぼれることができる、ということだな」

「できればオブラードに包んで言ってほしいんだけど……」

「遠回しの言葉より、実直の言葉の方が想いは伝わるのだ。特に貴様のように、天童繭や夜海常夜に尻尾を振るような下僕にはなおさらな」

 「ふんっ」と鼻を鳴らして力説する。しかし、シイはたまに俺のことを失礼な呼び方をするのだが、もしかしてこいつの趣味なのかな? 深くは考えないけど。

 どうでも良い疑問を頭に浮かべながら、さりげなく彼女の手に握られる退部届を奪おうとするが、手をぺちんと叩かれる。シイは呆れた様子で言葉を連ねる。

「貴様は話しを聞いていないのか? これがほしければ、私と結婚しろと言っただろ」

「退部どころの話で収まらないからこそ、俺は隙を衝いて取ろうとしたんだろ」

「滑稽な。今のが隙を衝いていたとでも言うのか? 貴様が私の隙を衝くなんて百年早い。……だがまあ、私は優しい人間、もとい、優しいハーフエンジェルだ」

 ペラペラと退部届を揺らしながら、ロリ巨乳の少女はおもむろに言葉を並べる。

「だから貴様にチャンスをやろう」

 とシイがにやりと口元を緩めて言い、突然制服のブレザーを脱いで近くの応接ソファに投げる。ワイシャツ越しでも存在感が分かる、はち切れんばかりのふっくらとした胸の形と、チラリと覗かせるその谷間が露わになる。

「何をしてるんだよ、お前は……」

 突如視界に現れた薄いワイシャツ越しの豊満な胸に顔が熱くなり、少し視線をズラし問い掛ける。するとシイは得意げに嗤う。

「『何をしてるんだ』は、こっちのセリフだぞ。別に私は貴様にこの胸を見られようが、頭をうずめられようが揉まれようが平気だ。むしろ、私からそれらをしたい思いで一杯だ」

「お前のことをちゃんと見るから、そんなことはしないでくれ……」

「ふっ……。私と濃厚なキスはできるくせに、簡単なボディータッチはできないとは、やはり芯はかわいげがある。心の奥底からいじめたくなるぞ」

「それはすでにしてるだろ」

 この発言に白銀の色をしたポニーテールを揺らしてまたにやにやと嗤い、躊躇なくとんでもない行動に移り出る。

「なっ⁉ 何をしてるんだよお前は⁉」

「何を? その目で見て分かるだろう? 貴様が欲しがっているブツを、この中に入れたのだ」

 そう自身一杯に言い、退部届がしまわれたワイシャツの中……正しくは、彼女の体格に反した豊満な胸の谷間にしまわれた退部届を撫でた。

「さあ、この中に貴様の欲しがっているブツがあるのだ。私は貴様に触られるのは別に嫌ではないのだから、遠慮なくとっても大丈夫だぞ」

「くっ……」

 男子高校生らしく、葛藤する。

 シイは胸を触っても大丈夫だと言っているので、このまま退部届を取り出してしまえばいいのだが、やはり理性を持った人間がするような行為ではないような気がする。

 だったらこのまま諦めればいいと思えるのだが、本能と呼ばれる身に宿る野生が、抵抗する理性を飲み込もうとしている。確かに、美少女でかわいいシイの豊満な胸に堂々と触ることができるのは、こういった機会だけ……ではないかもしれないが、こちらからあえて触ることができるのは限られている。

 ならば、目の前で自己主張するその双丘を触るのが吉。だが、万が一にでも触ってシイが襲って来たり、シイが俺を拉致監禁したりしたらどうしようかと、理性が不安を煽って本能に待ったを掛ける。

「さあ、どうする芯。私から退部届を取り返したいのだろ? だったら早くこれを谷間から抜けばいいじゃないか」

「変態……」

「変態とは失礼な。私は大好きな芯に、女の子らしくただアプローチをしているだけだぞ」

 にやにやと楽しそうで嬉しそうに緩んだ笑みを浮かべ、美少女はフリフリと形の良い大きな胸を横に揺らす。興奮が徐々に募り始める。

 持久戦に持ち込めば勝ち……と思っていたが、もしもシイから仕掛けてきた場合もこちらに勝ち目はない。世の中一般的に考えて、女の子よりも体格も大きく力の差がある男が勝つのが主流だが、今回に限ってはその理論は覆られる。理由はシンプルに、相手が半分人間じゃないから。

 天使の血を継いでいる彼女は、なぜか俺よりも力がある。だから体格で勝っているとしても、逆に腕力で圧倒されるのがオチだ。

 完全に追い込まれた。……なら、覚悟を決めてやる。

「分かった……シイ。俺がこの部をやめるためにはお前とのケリを着けなければならないようだな」

 明らかに間違った方向に決意を固めたと自覚しながら、正面に立ち塞がる大きな双丘を睨む。

「ようやく理解したか、葉隠芯よ。かかってこい!」

 凛とした相変わらずの雰囲気を醸し出す、白銀の髪を持つ美少女。

 生徒会室に異様な緊張感が走る。軽く握り締めているはずの手にじんわりと汗がにじむ。色白の胸の谷間が涼しげに感じられる。

 沈黙が静寂を生み出し、秒針が一つ、確実に一つと時を刻み、長針がカチッと動いた瞬間、俺は動いた。

「はっ!」

 短い気合の声が口から漏れ、利き手である右手が谷間へと伸びる。だが、甘かった。

「――遅いぞ、芯よ」

「っっっ――⁉」

 俺の手は弾かれ、シイに足払いを掛けられて地との接点を断たれる。

 ……安易な策……実行してから理解する。

 身体能力、経験。二つの目安値を考慮せずにただ正面から挑めば、呆気なくあしらわられるなど考えてみれば誰だって分かる。

 だがまあ、自分がやれるだけのことはやったんだ。あとはこのまま床へと倒れるだけだ。

 そう予測――、


 ふにゅ……。


 柔らかな擬音が脳内に響き、アンバランスだった体勢は肩を支えられて何とか整える。

 しかし……だ。

「ふむ……。やはり大好きな人物にくっ付いてもらえるというのは幸せ極まりなものだな」「――っ⁉」

 頭の上から聞こえるシイの声。顔を覆う人肌の温もりと女の子の香り。真っ暗な視界。

 すぐに俺は状況を把握……いや、正しくは確信に変えるため、支えられている身体を自力で持ち上げてみると。


「芯よ。私の胸の感触とうずめ心地はどうだった?」


 余裕ありげにクスッと微笑をこぼす、凛々しい姿の少女。俺の顔が、急激に熱くなる。

 眼前には、たわわに実った果実。もとい、たゆんと存在感を主張する双丘。そして、チラリと谷間に挟まれた退部届。慌てて彼女から数歩下がり、理解する。要するに、だ……。


 大空シイの豊満に膨らんだ胸に、俺は顔を突っ込んでいた。


 ぴっちりと、肉質感が分かってしまう自身のワイシャツを愛おしそうに一撫でし、天使の少女は妖艶な笑みをこちらに向ける。ほんのりと、頬が朱に染まっている。

「実行したのは私だが、予想以上に興奮してしまった……。動悸が激しく打ち、頭の中が熱い……」

 そして白銀の髪を揺らし詰め寄り、背が低い彼女は見上げる。さっきクッションとなった色白の胸が、俺の身体に押し潰される。

「経緯はどうあれ、貴様が私の身体をこんな風にしたんだ。責任は取ってくれるだろう?」

 囁くようにして理性を奪う言葉を並べ、応答を待たずにシイは持ち前の腕力を行使して床へと俺を押し倒す。受け身を取り、完全に倒れるのではなく上半身だけを両手で支えるが、倒れた足に跨る彼女はその腕を掴み、こちらの背中を力ずくで床に伏せさせる。

「ふふっ……。まさか毎日行っている妄想通り、今日貴様をこのように押し倒すことになるとは思いにも寄らなかったぞ」

 シイは俺に跨って、にやにやと欲に満ちた笑みをこぼしながらそう語る。その間、片手で俺の胸を押さえ、空いているもう一方の手で自身のワイシャツのボタンを器用に外していく。その行動の意図は、高校に入学したばかりの俺でも理解することができる。

「さすがにそれ以上はマズイし、やめてくれないか……?」

 手は使えるが、下手に抵抗してシイの癪に触りたくない上、力では劣るので言葉を使う。

「安心しろ、芯。私に身も心も委ねれば、じきにそんな考えは無くなる」

 俺を見下ろしながらシイは諭す。その間に、ボタンが全部外されて露わになる、黒いブラジャーに包まれた色白の大きな胸。それは重力に従い、彼女が肩で熱を帯びた吐息をこぼすたびに揺れる。

「何を根拠にそんなことを言っているんだよお前は」

「根拠? そんなものは別に必要ない」

「だったら俺のことを解放――」

「するつもりは無い」

 発した声をに重ねるようにしてシイは言葉を合わせ、こちらの意を拒否して発言権を奪い取る。

「言っておくが、貴様の生殺与奪件は私の手に握られているということは忘れないでほしい。いつでも私は芯のこと貪れるんだ」

「……本当にお前は変態だ」

「今は褒め言葉に聞こえる言葉だ」

 俺は苦笑いを浮かべ、天使であるはずのシイは嗤う。その時だった。


「今日も元気に、生徒会活動をしようっ!」


 音を立ててスライド式の扉が勢いよく開かれ、天真爛漫な元気の良い声が生徒会室に響き渡る。

「……あれっ? もしかしてお邪魔だったかな?」

 生徒会室に足を踏み入れず、首を傾げてライトブラウンのセミロングヘアーを揺らし、常夜は俺たちの様子を見て訊いてくる。

「ああ邪魔だ、夜海常夜。だから今日は真っ直ぐ帰宅してくれないか?」

「いや、帰らなくていい生徒会長。というか、帰らないで俺のことを助けてください……」

 正反対の意見を口にする俺とシイ。そして二つの要求を耳にした大きな白いリボンと二本の触手のようなアホ毛を揺らし、生徒会長は笑顔を浮かべる。

「それじゃあ間を取って、あたしはこの場で傍観させてもらうね!」

 あくまで中立的な答えだった。しかし、よくよく考えてみればそれは跨る天使の美少女に対しては好都合な選択であり、跨られている俺にとっては不都合でしかない選択だ。

「生徒会長……? つまりそれは、例え俺がこいつに蹂躙されても、助けてくれない、と言うことなんでしょうか?」

 冷や汗を背筋ににじませながら問うと、彼女はクスッといたずらっぽく笑い返事をする。


「どうだろうね! でもあたしは、芯くんが傷心している状態の方が燃えるかもっ!」


 やめたいよ。四月に入った、この部活……。

 ……思わず即興で、五七五の俳句を読んでしまうほどショックな答え。

 子供のようにかわいらしい顔立ちに浮かぶ笑顔から放たれた、真っ黒で純粋な言葉に、思わず両手で自分の顔を覆ってしまう。

 そんな悪役に対しての応援メッセージを間近で聞いてしまったロリ巨乳の副生徒会長は、他生徒の反面教師となる。

「まったくもって、嬉しいことを言ってくれる生徒会長だ。では、そんな期待に応えるため、貴様をこの場で徹底的に穢し、この部をやめるという腐った根性を叩き直してやる」

「……勘弁してくれません?」

 顔を覆っていた手を外し、身体を強張らせながら苦笑いを彼女に向けると、動いている間に垂れた白銀の長い髪を耳に掛けてから、かわいらしく笑って断言する。

「もちろん嫌だ」

 そう告げた後、シイはキッと目付きを鋭くして俺の鼻の先まで宝石のように綺麗で整った顔を近づけ、糸を引いたようにか細い唇と俺の唇を密着させる。彼女の柑橘系の爽やかな香りが鼻を優しく撫でると同時に、小柄な体格に見事調和してしまう美巨乳が俺の胸元で潰れ肉質感を最大限まで引き上げる。その三つの要因は、抗っていた心を徐々に受け入れさせる態勢へと強制的に切り替えさせる。

「くふぅ……はぁっ……」

 密着してた唇にほんの隙間を作って呼吸をし、そして天使の少女は赤く妖美な舌を突き出し俺の口内の粘膜を舐める。ゾクッと、身体が震えて快感が脳を駆ける。

「あ、あぁ……」

 神経は無抵抗に支配されうめき声が口から漏れる。だがそれも、口内を舐めていた舌によって黙らされる。

「くちゅ……くちゅ……」

 俺の舌とシイの舌が絡み、唾液のいやらしい音が微かにこぼれる。

 それがとどめとなったのか。緊張と不安と少しの恐怖で引き締まっていた身体は、ゆっくりと確実に脱力し、狩られた動物のようにただ一人の美少女に貪られる。

「くちゅ……くちゅ……はふぅ……」

 精神を侵略する少女の舌が口の中から退出する。そしてシイは満足したような息を吐き、ねっとりとした細い体液が糸を引く唇を手首で拭う。

「芯はとても美味しかったぞ。……では、そろそろ本番でも始めるとしようか」

 相変わらずの凛とした雰囲気を醸し出し、余裕と優越感、そしてサディスト質を露わにさせる。

「はぁ、はぁ……」

 跨られている俺は何も反論できず、荒い息をこぼす。その間に、シイは俺のブレザーのボタンを手早く外し、ワイシャツにまで手を掛ける。

「観念してくれて嬉しいよ。それじゃあ、私と男女の契り――」


「大空シイ……死になさい」


 天使の少女のセリフを唐突に打ち切り、生徒会室に響き渡る銃声……いや、生徒会室がある三階フロア全体に響き渡る銃声音。

「痛っ……!」

 今まで俺を攻め立てていたシイは、飛んできた弾丸を頬にかすめながらも何とか回避する。だが、さらに続けて二撃、三撃と発砲音と弾丸彼女を襲い、余裕ありげだった表情は引き締まり、跨っていた俺から飛び離れて銃弾を避けてから切れ長の目で攻撃者を睨む。

「天童繭……どういうつもりだ……?」

「わたしはあなたに死ねと命令した。だからあなたはおとなしく死ねばいい」

 言い捨て、再度弾丸をシイに放つ。生徒会室内に火薬の臭いが充満する。

「ちょっ! 繭ちゃん学園内で鉄砲を撃つのは――」

「会長は黙っててください。もしも邪魔をするなら、あの天使と同じようにしますよ」

「はい……」

 冷たく返す、殺気帯びながらも上品に透き通った綺麗な声。虜になっていた俺はすぐさま正気に戻り、仰向けの状態から寝返りを打ち、体勢を低くしながらその声の主を見る。

「繭……助けてくれてありがとう。だが拳銃だけは使わないでほし――」

「うるさい。わたしは今、あの天使を始末しようとしてるの。あとでお仕置きしてあげるから芯も黙って」

 銀色のリボルバーを片手で構えながら、こちらに視線を向けることなく説得の言葉を一蹴する美しき吸血鬼の幼馴染。

「だけど……」

「黙ってて!」

 黄金色の長いストレートヘアーを持つ美少女は、今度は強めの口調で反論を圧する。彼女の思惑通り、俺は口を噤ませる。

 そんな彼女の態度に、対峙する銀髪の少女は嗤う。

「面白い……後悔してもしらないぞ、天童繭」

 そして虚空から白銀の剣、『天羅』を出現させる。

「遠慮しておくわ。わたしの芯が、あなたのようななんちゃって天使なんかに穢されてしまって、すでに後悔しているから」

 繭は瞳に殺気を帯び漂わせてそう答え、銀色のリボルバーに弾丸込める。

「そうか。では、新たな後悔を貴様に植え付け、芯と私の関係を無理やりにでも認めさせてやろう、不完全吸血鬼よ」

「言っておくけど、わたしはほんの少しだけ怒ってるの。芯を巻き込みたくないからこれ以上怒らせないでね」

 白銀の剣を手に持ち身構えるシイと、弾を込め終えて胸元にリボルバーを添える繭。その二人の姿を目に映し、俺はため息を吐いておもむろに立ち上がり、ゆっくりとした足取りで幼馴染である繭の元へと向かい、


 彼女の首筋を、甘噛みした。


「ひぇっ⁉」

 緊張した空気に似合わぬ、素っ頓狂な美少女の驚きの声。

「な、なにをしてるのだ……貴様は……?」

 背後で、戸惑いの色に染まる声色で尋ねてくるシイ。俺は金色の髪を持つ吸血鬼の少女の首筋から歯を離し、振り返って苦笑いを浮かべる。

「シイ。今回の件は俺が退部しないという条件と、さっきのあの行為を合わせて、無かったことにしてくれないか?」

「えっ、なにを言っているんだ……芯?」

 灰色の瞳にも躊躇いの感情を露わにし、疑問をぶつけてくる銀髪の美少女。それに対しても、俺は笑みを崩さずに説得の言葉を重ねる。

「何って、繭がお前を銃撃しただろ。その件を不問にしてほしいって言ったんだよ。……してくれるか?」

「だが……」

「頼むよ、シイ。この通りだ」

 俺は頭を下げ、謝罪の意を態度で示す。それを見た天使の少女は、「え、ああ……」とまたもや戸惑いの声を漏らし、数秒の間を置いてからしぶしぶと言った感じで、理想とする返事をくれる。

「あ、頭を上げてくれ、芯よ……。私は先ほどの天童繭の行動など気にしていない。だから貴様が頭を下げてどうとかの問題じゃない」

「それはつまり?」

 指示通り頭を上げて彼女の顔を見て訊き返すと、少女は頷く。

「言っただろう。許すも何も、私は気にしていない」

「シイ……ありがとう!」

 俺は苦笑いではなく、純粋な笑顔を浮かべてお礼を口にする。

「れ、礼などしなくてもいい。だが、貴様が部活をやめないというなら、意味の分からないその条件をとりあえず飲んでやる」

 そう言いながら剣を虚空へと消し、胸の谷間から退部届を抜き取ってくしゃくしゃに丸める。そう言うところはちゃっかりしていると内心でまた笑い、もう一度お礼を告げる。

「本当にありがとう、シイ!」

「礼はいらないと言っただろう」

 彼女は歩きながら同じような答えを口にし、無造作に丸めた紙をゴミ箱に捨てる。

 そんな美少女の後姿を見てから、俺はゆっくりと先ほど首筋に噛み付いた少吸血鬼の少女に視線を移す。

「落ち着いた……? 繭?」

 両手で銀色のリボルバーを胸に抱くフランス人形のように端整な顔立ちを持つ少女に、微笑みを浮かべながら甘噛みをした首筋にそっと手を当てて問い掛ける。

 すると、色白の頬を熟れたトマトのように赤く染め、さっきまでの雰囲気などまるで嘘だったと思える反応を返す。

「なっ、なっ、なっ、なにをしてるの芯⁉」

 一歩下がって俺の手から逃れ、普段から放たれている天童繭ブランドの優雅さと品位、そしてちょっとおちゃめな感じなど微塵も感じない声色と言葉。

「何って、お前を落ち着かせるために首を噛んだだけだろ? それ以外に何かあるのか?」

 この返答に、下がった足を踏み出して黄金色の長い髪を揺らす。

「わたしの首を噛むのは普通じゃないわ⁉」

「俺の首を噛んで、毎日吸血している幼馴染はどこの誰だろうな……?」

「そ、それはわたしの種族上仕方がないことで……」

 踏み出した足を戻し、少しだけシュンと気を落とすが、艶やかな唇を動かして反論を口にする。

 ……まったく。俺に対してのアプローチはあれほどまでに激しいくせに、こういうことに関しては鈍感だな、こいつ。

 一つやれやれとため息を吐き、目の前に立つ美少女の頭にポンッと手を置き、優しく撫でながら本心を口にする。

「俺はお前とシイが喧嘩して、お前が傷付いてほしくないから、首を噛んで落ち着かせたんだ」

「ふぇっ⁉」

 真っ赤だった頬が、また一段と朱色に染まった。あれだけ大胆なことをするのに、こういうところはうぶだからかわいいな。

 繭の照れた姿を見て口元を緩ませ、俺は彼女の耳元まで顔を近づけてそっと囁く。

「あとで俺の血をちゃんと吸わせてやるから、お前もシイのしたことを許してくれ」

 それを聞いた幼馴染は「で、でも……」と顔を俯かせるが、畳み掛けるように言葉を重ねる。

「頼むよ、繭。今度遊びに付き合ってやるからさ」

 二つ目のそれに反応し、俯かせていた表情を持ち上げて羞恥の色に染まる頬を俺に見せ、承諾の意思を言葉にする。

「だったら……許す……」

「ありがとう」

 了承してくれた彼女に一言お礼を告げる。そしてもう一度繭の金色の髪を軽く撫でてから、俺は彼女から離れ生徒会室の出入り口へと足を運ぶ。

「どうしたの、芯くん?」

 扉の近くに立っていたセミロングヘアーの生徒会長が、部屋から出ようとする俺に質問をする。

「いや、今回の件について色々と口裏を合わせないといけないから、ちょっと出てくる」

 常夜に苦笑いを見せて答え、繭やシイに匹敵するかわいらしい顔付きの彼女はいつものようににっこりと癒しの笑顔を浮かべる。

「じゃあ、あたしの方でも合わせておくよ! 内容は、演劇部に借りていた爆竹の誤爆でいいかな?」

「完璧だ。責任は俺が取るから、とりあえずここに来る先生一行にはそう伝えてくれ。爆竹はロッカーに入ってるからさ」

 そう言い残し、彼女の横を通り過ぎて廊下へと出る。生徒会室の周りには数人の生徒たちが集まっており、部屋から出てきた俺に視線が集まるが、愛想笑いだけ浮かべてその場を去る。

「……また千凪に借りを作っちまうな」

 繭とシイは、はっきりと言わずとも一般的な人間ではない。

 それは単純明快に、繭は吸血鬼でシイは天使。かなり正確に言うとしたら、吸血鬼の血を半分継いだ繭と、天使の血を半分継いだシイ。

 俗に言う、混血。

 ……なぜ、俺が二人と関わりを持ったのか。その理由は色々とあるのだが、今はそんなことを思い出している暇なんて無い。

 俺はケータイをポケットから取り出し、学園内に数々の情報パイプを持つ千凪に連絡する。

 『第二生徒会部』なんて奇想天外(ふつうではない)でしか括れない部活に所属している俺の交友関係は、浅く狭い……というか、基本問題を抱えた依頼者との関わりしか持っていない。

 その理由の一つとしては、依頼などの調査の際に顔が知られていない方が有効的だからだ。まあその結果、クラスではソロ充的なポジション。

 そのため、こういったあの二人の尻拭いをするのに協力をしてもらっているのは、学園内学園外ともに交友関係の広い千凪に介入してもらっている。

「はぁ……。まあ、俺がやらなくちゃいけない仕事だから、仕方がないけどな」

 呟いた途端千凪のケータイへと繋がり、俺は事情を話しながら演劇部へと赴いた。


    ◆◆◆◆


 わたしが初めて血を吸った相手は、近所に住む幼馴染の男の子……葉隠芯だった。

 きっかけはひょんなことで、『転んで擦り剥いた芯の腕に流れた血を舐めた』というロマンチックの欠片もない出来事。だけど、それがわたしの人生を大きく変える重大な歯車となった。

「美味しい……もっと飲みたい……」

 芯の血を舐めて、口からそんな感想が自然にこぼれ、わたしは流れ続ける血を舐め続けた。

 そして家に帰ってそれをお母様に言うと、衝撃的な事実を伝えられた。


 ハーフヴァンパイア。


 わたしが生まれる前に亡くなったお父様は、混じり気のない吸血鬼の純血だったらしく、お母様との間に誕生したわたしには、その吸血鬼の血が半分混ざっていた。

 そしてその日までずっと眠っていた吸血鬼としての本能は、人間の血を吸ってしまったことによって目覚め、わたしの生活を一変させてしまった。

 最初に出てきた影響は、こらえきれないほど吸血本能。

 忽然とそれは騒ぎ出し、誰かを傷付けてでも血を吸いたくなってしまう。そして結果的に、近所のいた女の子や男の子関係なく怪我をさせて血を流し、それを吸って欲求を満たしていた。

 次に出てきたのは、髪の毛が綺麗な金色に変化し、目の色が赤くなるという不思議な現象だった。

 そして最後に現れたのは、身体能力の飛躍的な向上。

 それら三つの症状が起こり、最初は嬉しかった。美味しい血を飲むことができ、かわいい髪の色とかっこいい目になったし、男の子との駆けっこにも負けなくなった。

 ……だけど、それらの幸福感は初めのころだけで、年を重ねるたびに自分が異質の存在だと周りの人たちを見て理解し、正体を知らない周囲もわたしとの距離を意図的に置いていた。

 そして……ただ実感する。


 わたしは、普通の人間じゃないんだ……。


 それを知ったわたしは、周りの人たちに迷惑を掛けないように……。正しくは、周りの目が怖くて自ら関係を断ち切った。

 わたしの血を吸うという奇行の被害に遭っていた友達との関係は呆気ないほど数日で消滅し、わたしと関わる人は誰一人としていなくなった。

 寂しくはなかった。むしろ、異質の存在として見てくる人から離れられ、逆に安心した。

 ……でも、吸血鬼の本能はそんな意思に反し、人間の血を求めた。

 吸血鬼のその本能を抑えるために、人間であるお母様の血を飲んだが、身内同士だと効果が無く、わたしは夜な夜な外に出て人を襲って血を飲んだ。

 暗闇の中、通り掛かった人を襲い、悲鳴を上げる人や涙を流す人たちから溢れる血を口にする。美味しいとは感じない。だけど皮肉なことに、騒ぐ吸血鬼の本能だけは抑えることができた。

 当時はそうするしかなかったので罪悪感なんて微塵もなかったが、今思えば心を締め付ける最悪な思い出だ。

 そんな地獄に感じられる日々が続いたが、ある日を境にそれに終止符を打つことになる。


「そんな風にしちゃって、ごめんね……繭ちゃん……」


 夜遅く、わたしがいつものように待ち伏せしていたら現れた、一人の男の子。

 その子は、わたしが初めて血を飲んだ幼馴染の男の子……芯だった……。


    ◆◆◆◆


 放課後のカフェは、俺の憩いの場だ。

 カウンターの席に座りながら、この店について心の中で呟く。

 悪く言って、古臭い店構えに気取った雰囲気。良く言えば、味のある店構えとオシャレな雰囲気。

 それが俺の行きつけの古ぼけたカフェ、『クロック』だ。

「……ねぇ、葉隠? 今、明らかに失礼なことを考えていたよね」

 相変わらずの童顔に清々しい愛想笑い浮かべながら、千凪は俺の胸の内を読む。冷や汗が流れる。

「そんなわけないだろ、千凪」

 そう言って、注文したアイスミルクティーを飲んで無理やりはぐらかし、そして彼が再び追及してくる前に別の話題に変える。

「しかし千凪、今日はありがとうな。演劇部に話を通してくれて」

「毎度毎度のことだし、僕にとって大したことじゃないから気にしないでよ。あと、葉隠はこの店の常連さんだからね!」

 清々しい愛想笑いの中に、千凪が持つ心からの笑みがこぼれる。俺も同じように笑い、言葉を返す。

「常連と言っても、ミルクティーとたまにサンドイッチぐらいしか頼まない客だけどな」

「それがこのお店のモットーだよ。『お客様一人一人との顔合わせを大切にしている、個人経営の小さなカフェ』なんて、とっても人情溢れていいでしょ。確かに、お財布の紐が緩いお客様は嬉しい限りだけど、人との繋がりはそれ以上の価値だからね」

「同感だな……」

 口元を緩ませながらそう答え、アイスミルクティーを味わう。砂糖と少量のミルクが舌を撫で、気持ちを落ち着かせてくれる。

 カラカランとカフェの扉が開く音がし、このあいだも見た初々しいカップルが来店する。「ちょっと行ってくるね」と、カウンター内で食器を洗っていた千凪はそう言い残し、女子からの人気が高い爽やかな笑みで二人の元へと歩いて行く。真意の読めない表情……だけどそれだからこそ、信頼の置ける親友だ。

 笑みをこぼしてそれを自慢に思ってから、今後どうやって『第二生徒会部』をやめるか考える。

 やっぱり、幽霊部員となるのが上策か……だが、俺がそんなことをすればあいつらは何をしでかすか分からない。繭は家が近所だから押し掛けてくる可能性もあるし、普段から危ない思考であるシイに捕まれば拉致監禁なんて当然のごとく起こりうる。もっとも常識人に見える生徒会長の常夜は、変態回路によって色々とマズイ事象を引き起こす恐れがある。ぶっちゃけ、繭やシイよりも常夜の方が過激な行動を何度か繰り出してきた。

 『第二生徒会部』に入った後はだいぶ治まったが、部活に入る以前……要するに、自分の手中に入るまであいつのアプローチはかなり大胆だった。

「今思えば懐かしい……。なんていう次元じゃないからな、あの超人は……」

 一年生でありながら私立光月学園の生徒会長の座に君臨する夜海常夜は、紛れもなく異常で異質で、異端な存在だ。

 奇想天外(ふつうではない)、吸血鬼の少女や天使の少女と同様に、彼女は人間の少女の中でも一線を画するほど特殊だ。

「できればもう、味わいたくないけどな……」

 当時のことを思い出し、ため息を吐いてしまう。

「えっ、もしかして美味しく無かったですかぁ?」

 背後から聞き慣れた幼い口調と声色を耳にし、振り返って否定する。

「違いますよ、なーちゃん先生。ちょっと昔のことを思い出に浸っていただけです」

「そうだったんですかぁ? なら安心です! 古代が入れたお茶が美味しくないわけがありませんからね!」

 自分のことのように、つるぺたな胸を「エッヘン」と鼻を鳴らして自慢げに張る千凪七色、もといなーちゃん先生。

 椅子に座る俺と同じ目線の彼女に、俺は思ったことを口にする。

「というか、なんでいつも俺の後ろに立っているんですか?」

 少女のような体型と容姿を持つ特注のスーツ姿のなーちゃん先生は、この疑問に意味不明な迷解答を告げる。


「なーちゃん先生が、葉隠くんの担任の先生だからです!」


「まったく理屈の分からない返答、どうもありがとうございますよ……」

 肩を落とし、呆れた眼差しを幼い顔立ちの先生に向けながら言う。いつものことなので、そこまで落胆しないが、やはり精神を色々と消耗させられる。

 通じない話し合いを見ていたのか、店内のお客さんからの注文を受け終えカウンターまで戻ってきた千凪は笑顔を浮かべながら声を掛けてくる。

「今日もお姉ちゃんの相手をしてくれて、ありがとう葉隠!」

「……何その笑顔と裏のあるお礼の言葉?」

 数少ない友人からのそのセリフに俺は眉をひそめると、千凪は耳元まで近づいて囁く。

「別に深い意味なんて無いよ。だけどさあ、僕のお姉ちゃんって恋愛対象外に見られちゃう上、見られたとしても変態しか寄り付かないんだよ。だから、もしも君がフリーになった時は……お願いね」

「えっ、何それ? 新手のお見合い? それとも俺を変態へと貶めるための陰謀?」

「弟がお姉ちゃんの結婚相手を探すのは当然の行いだよ」

「明らかに姉弟の次元を超えてないそれ? しかも、なぜに友達の姉と結婚を前提なの俺は?」

「それは僕の信頼を置ける数少ない友人だからだよ。まあ最低でも、君のハーレムルートにお姉ちゃんを入れてくれればいいよ。そうすれば、『お兄さん』と呼ぶ人間がギリギリ(・・・・)変態(・・)じゃないからさ」

「……ごめん、何か複雑だった」

 千凪古代の爽やかな笑みと綺麗な瞳に、暗い影が差した。……まあ確かに、自分の姉があんなに小さいと、付き合う相手もそれ相応のロリコン……じゃなくて、世間一般的に言われる変態だ。その人を『お兄さん』と呼ぶことになる弟の千凪の気持ちも多少なりに分かる。……しかし、俺となーちゃん先生がそう言う関係になるとはまた別の話しだが。

 ひそひそと話す俺たちのことを見ていた先生は、形の良い眉を不機嫌に曲げ、前かがみになって訊いてくる。

「なーちゃん先生をよそに、なにをこそこそと話しをしているんですかぁ! 先生も混ぜてください!」

「いや……なーちゃん先生には関係無い話だから、気にしないでください」

「それは嘘だと、なーちゃん先生はすでに見切ってますよ! 生徒と弟の相談に乗るのも先生の仕事です!」

「本当に先生には関係ない話ですから、それ以上追及しないでください。生徒のプライベートまで入り込むのは教師失格ですよ……」

「えっ⁉ 教師失格⁉ かわいい生徒にそれを言われたらさすがに辛いですよ……」

 しょぼんとうなだれるなーちゃん先生。下手なことを言ったと悟り、立ち上がって慌てて弁解する。

「な、なーちゃん先生⁉ 俺が言ったことは、決して先生が思っているような、悪い意味じゃないんですよ!」

「じゃあ……どういうこと……?」

 どんよりと落ち込むなーちゃん先生は、上目遣いで喋る俺を見つめる。

「つ、つまりですね……。俺は先生に、落ち着きを持って生徒と話してほしいと思って、そんなことを言ったんですよ!」

「落ち着きを持って……?」

 重要だと思う点を、彼女は呟いて繰り返す。

「そ、そうです。落ち着きを持ってです。なーちゃん先生はいつも追及するばかりで、生徒の心をちゃんと掴めてないんですよ。だから生徒と話すときは、ストレートな言葉をぶつけるんじゃなくて、あえて聞かないフリや、同情するフリをして生徒との距離を縮め、そこで先生は自分のストレートな言葉を使えばいいです!」

「……っ!」

 落ち込んでいたなーちゃん先生の暗かった表情が、徐々に明るくなっていく。

「要するに俺が言いたいことは、『迫り過ぎないで、ゆっくりと確実に相手の心に近づき、そこで魂の言葉をぶつける』と言うことです! そうすればなーちゃん先生はたくさんの生徒を助けることができますよ!」

「葉隠くん……!」

 俺が説いた話を聞き、なーちゃん先生の目がキラキラと輝く。その時、隣に立っていた千凪が「あっ、フラグ立った……」と聞きたくないセリフを吐き、冷や汗がにじむ。

「なーちゃん先生は感動しましたっ! 葉隠くんが、こんなにも先生のためになって話してくれるなんて!」

「い、いや……落ち着いて下さい、なーちゃん先生……?」

 変な気を起こさぬよう、鎮火活動を行う。だが、ピュアで純粋な幼い心を持つ一人の女性教師は激しく燃え上がる。

「落ち着いてなんかいられません! なーちゃん先生は燃えてます! 悩める生徒を助ける新たな力を体得したことに、先生はガンガンに張り切ってます!」

 歯止めが効かない……そう悟る。

「これからは葉隠くんが教えてくれたことを生かして、これから頑張ります! それで、できればですね……」

 と、唐突に顔を赤くし、もじもじと身体を揺らす。幼い雰囲気を放つショートツインテールも揺れる。


「なーちゃん先生が間違えたら、また葉隠くんが手取り足取り教えてください……」


 純粋で真っ直ぐな信念を持った小さな先生が、そんなことを生徒である俺にお願いをしてきた。

 潤んだ瞳でおねだりされ、俺は頬を引きつらせて無理やり笑顔を作り、動揺を隠して答える。

「できる限りには……」

 なーちゃん先生の頼みを、思わず聞き入れてしまった。

 ふと隣に視線を送ってみると、いつもより嬉しそうな笑みを千凪古代は浮かべ、俺はため息をこぼした。




 お読みしていただき、本当にありがとうございました!

 今作品では、結構舌を絡めさせる描写がありますが、ラノベでは許容範囲なのかどうかはわからない不安要素です。たぶん大丈夫……だと信じています。

 作者の不安はさておき、いかがでしたか? 微妙にエロかったですか? それとも、これ以上サービス要素を詰め込んだら、規制が掛かると思いますか?

 万が一アウトラインに触れていた場合、ご指摘をもらえれば嬉しいです。

 そして最後に、今作品の二話を読んでいただき、本当にありがとうございました!

 次話も続けて読んでくださいましたら嬉しい限りです!

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