学力は十分だよ。魅力or気配りをあげようね。(2)
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桜の花の根元からちらちらと葉が芽吹きはじめている。
そう、新学期です。
校門をくぐり抜けてすぐに設置された掲示板に貼り出されているクラス替えの紙を確認し、私はよしっと拳を強く握り締めた。
「あ。上地さんと一緒だね、今年も」
一緒に登校して、クラス替えの結果を見た冥加くんが、にっこり微笑みかけてくれる。
「うんっ」
声が弾んでしまう。2年連続冥加くんと同じクラス。
中学を含めたら4年連続かな。これって運命?
たとえ、有言実行で、冥加くんが校門をくぐり抜けた瞬間から私のことを名字で呼びだしても気にならない。
「じゃあ、教室には別々で行こうね。またね」
「う、うそ」
「嘘じゃないよ?じゃ」
……。
た、たとえ、あっさり冥加くんに置いて行かれても、気にならないんだからね!
掲示板の前の人ごみからすり抜けるように出て行った冥加くんの後ろ姿を見ながら、私は唇を噛みしめる。
本当に冥加くんは、私のことなんとも思ってないんだなあって実感なんてしてないよ。
今、かるく目から零れてきてるのは、心の汗です。はい。
「―――ねえ、君。ハンカチ落としたよ」
突然、腰が砕けるかと思うような低音エロボイスが頭上から降って来た。
へ?と顔を上げると、冥加くんほど長身じゃないけど――それでも十分に背の高い美形がいた。
我が星華学園は、中高一貫で、県でトップの超進学校である。
が、私立のせいか校則はゆるく、成績にさえ支障を出さなければどんな身だしなみでも許される。
現に、目の前の美形は、綺麗に染められた金髪のツーブロックに、美しいヘーゼル色の瞳を持っている。適度に着崩されたブレザーは、学園指定のネクタイを外され、第三ボタンまで開けて、セクシーな鎖骨が惜しみなくさらされている。
「ハンカチ?人違いです。だって、私、ハンカチ持って来てません…」
最後の方は声が小さくなってしまった。恥ずかしさで。
美形に話しかけられた恥ずかしさじゃないよ?
女子なのにハンカチ持って来てないってことが恥ずかしい。
女子力の欠如が著しい。
「くすっ。でも、これは君が落としたハンカチだよ。ほら」
そう言って、美形――真の名を金森 愛斗は、きっちりアイロンがかけられた良い匂いのする白いハンカチを私の目元に押し当てた。
「!?」
ま、まさかこの男…!
「嬉し涙以外のなみだは、女の子には相応しくないからね」
金森愛斗は白い歯を見せて蕩けるような微笑みを浮かべた。
「あっ、え、あ、ありがとう」
なんというキザな男!歯の浮くセリフ!
思わずどもった返事をしてしまう。
私が泣いてるからって、わざわざ自分のハンカチを、私のと偽って渡してきたんだよ?
イケメン、怖い。
「また洗って返すよ」
「なんで?それは君のじゃない」
やだ、イケメン怖い。
「アーイトー!」
「金森きゅーん!早く早くぅ!」
「いやぁー!アイト君と同じクラスよぉー!」
「あぁん、あたしは違うー!」
金森愛斗のイケメン行為に怯えていると、彼のファンクラブらしく女子に集団で押し寄せてきた。
あっという間に女子に囲まれた彼は、みんなに平等に愛想よく微笑みかけている。
そして彼女たちによって分断されてしまった私を、少しだけ申し訳無さそうに見た。
いや、ほんと、申し訳ないのはこっちです。
「あ り が と う」
彼女たちのかしましい声にかき消されてしまうので、私はなるべく口の形を意識してお礼を伝えた。
受け取ったハンカチは、またいつの日か返そうと決心する。
私はぺこりと頭を下げる。
金森愛斗とは同じクラスではなかったけれど、同学年だし、またいつか接触出来るだろう。
「遠くのイケメンより、近くの好きな人!待っててね、冥加くん!」
気持ちを切り替えて、自分の教室へと向かった。




